第十六話 新たな旅立ち 1 龍王具『角の冠』
僕の背中にいるシュートの導きで、僕らは本がたくさん置いてある部屋へと入った。
「凄い! ……古今の魔導書がずらりと揃っている」
ミシュレイが驚きの声をあげる。背中のシュートは苦笑した。
「なにせ、ここにこもるつもりだったからねえ。退屈しないように、蔵書をみんなこちらに移したんだ」
「そう言えば――あっちの屋敷には、それほど本がなかった……」
ミシュレイが納得したように呟く。僕はシュートの指さす、奥の机へと向かった。
シュートが掌をかざし、魔鍵が開く音がする。
「一番上の引き出しを開けてくれたまえ」
僕は言われた通り、引き出しを開ける。
と、背中のシュートが背中から降りようとしていた。
「大丈夫ですか? 立てますか」
「うむ……」
なんとか、自分の力で立った。シュートはそこから小箱を取り出す。
その小箱を机の上で開くと、中に一個の金の指輪が収まっていた。
「これが龍王具『角の冠』だ」
シュートの言葉に、僕らは一斉に眼を見張った。
「ミシュレイ――君が持っていなさい」
「ボクが?」
青い髪で眼鏡のミシュレイが、戸惑いの表情を見せる。
「そんな――ボクはこの二年ほど、滅竜士として竜を殺してきた……。そんなボクに龍王具を持つ資格はない」
「竜を殺したのかね?」
シュートは少し顔を曇らせて訊ねる。と、ミシュレイの背後から、プリシアが言葉を添えた。
「それが――竜の気配がするけど、竜とは思えない怪物がいるんです。ミシュレイが駆除してきたのは、そういう怪物でしょう?」
「まあ、そうだが……」
その言葉を聴くと、シュートは言った。
「それは恐らく擬竜だな」
「ギドラ?」
耳慣れない言葉に、僕は首を傾げた。
「そうだ。まだ『竜災事変』の時、竜たちは本当に暴れて人里を襲っていた。それに対抗するために滅竜攻団というものが、ノーストリア教国で組織された。我々はそこに参加し、滅竜士として竜と戦っていた。その中で、竜に対抗して人造モンスターを作る計画が滅竜攻団の中で進行していた。それが『擬竜』だ」
シュートの言葉に、皆、真剣な面持ちで耳を傾けている。
「擬竜は倒した竜の細胞を培養し、それを他の魔獣に移植して戦闘力を上げるというプランの元で生まれた怪物だ。既に使役下に入ってる魔獣を改造することで、できあがった怪物を意のままに操る――という前提だった」
「前提――だった?」
「そうだ……しかし竜の細胞を植え付けられ暴走状態になった擬竜は、使役できなくなり凶暴化するという事態が増えた。それで――擬竜計画は廃棄された」
僕らは顔を見合わせる。
「……ということは、その廃棄されたはずの擬竜計画を、攻団は再び発動させた、ということですか」
「恐らく。竜たちは『竜災事変』以降、もう人里に現れないという約束をした。だから竜は暴れてないはずだ。しかしそれでは、『竜は害悪』とした滅竜攻団の存在意義がなくなってしまうだろう」
そこでミシュレイは、慄きに唇を震わせながら――口を開いた。
「それで……自らが作り出した怪物を野に放ち、それを滅竜士たちが駆除する――そういう仕掛けを作りだした、と?」
「恐らくな」
バン、とミシュレイは両手を机についた。
青い髪がばさりと下がるように下を向く。
「バカな……じゃあ、ボクのやっていたことは――滅竜攻団の偽装工作の片棒でしかなかったってことか――。ボクは一体……なんのために、何をやってきたんだ……」
最後はミシュレイは、泣きそうな声をあげた。
「ミシュレイ……お前を救いにいけなくて、本当にすまなかった――まさかそんな形で……我が娘が利用されていようとは――」
シュートは暗い顔で、申し訳なさそうにミシュレイを見つめる。
ミシュレイは顔を上げると言った。
「やっぱり……ボクにそんな龍王具を持つ資格はない。ボクは愚かすぎる――」
「ミシュレイ……」
僕はふと手を出して、シュートの手から小箱を取り上げた。
「あ……クィードくん――」
「ミシュレイ、受けとるんだ!」
僕は敢えて、力強くミシュレイに差し出した。
「な――何を……」
「今までが間違ってても、これからが合ってればいい。その行為が間違ってなければ、きっと龍王具が君を選んで力を貸してくれる。――君に必要なのは、これからの覚悟だよ」
僕の言葉に、ミシュレイは驚きの表情をみせた。
「これからの……覚悟?」
「そう。ミシュレイ、僕とプリシアは光龍王を探し出すつもりだ。そしてレーナの妹、リーナも見つけるつもりだ。多分、滅竜攻団との戦いになる。そして『本当の敵』とも――」
僕はミシュレイを見つめた。
「仲間になってよ、ミシュレイ。僕らには、君の力が必要だ」
僕の言葉に、ミシュレイが驚きの色を見せる。
その唇から――声が洩れた。
「ボクに……そんな資格があるのか――」
「資格なんか必要ない。ただ……必要なのは覚悟だ。そのためにも――龍王具を受け取って欲しい」
僕は龍王具を差し出した。ミシュレイがそれを見つめ、問い返すように僕とシュートを見つめる。
僕は頷いた。そしてシュートが声を上げる。
「龍王具はきっとお前の力になってくれる。受け取ってくれないか、ミシュレイ」
「お父さん……うん」
ミシュレイは頷くと、小箱から指輪を取った。
その金の指輪を、左手の人差し指に入れてみる。しかし、サイズが大きい。
「ムッ――」
と、その一瞬、指輪が金色の光を放った。
その眩さに、僕らは一瞬、目をかばう。
すぐに収まった光の後に、金の指輪はまるで前からそこにあったかのように、ミシュレイの左手に収まっていた。
「どうやら……龍王具に選ばれたようですわね」
プリシアがにっこりと、ミシュレイが微笑む。
ミシュレイもそれに小さな笑いで返した。
「どうやら――そのようだな」
と、そのやりとりの中で、シュートが突然、がたりと崩れた。
「大丈夫ですか、シュートさん!」
慌てて僕はその崩れた身体に手を触れる。
床に膝をついたシュートは、苦笑しながら言った。
「すまない……安堵したら、膝から力が抜けてしまった。悪いが休ませてくれないか――私の寝室は向うだ」
そう言われて、僕は再びシュートを背負った。
一旦、廊下へ出て二階の奥へと進む。その最中に、シュートが言った。
「私が脱獄したことで、外は大騒ぎになっているだろう。しばらくは此処で落ち着いた方がいい。部屋はあと二部屋あるから、別れて使ってくれないか」
「判りました――ありがたく使わせてもらいます」
僕はシュートを寝室に運ぶと、ベッドに寝かせた。
ミシュレイがその傍にそっと寄り添う。
「じゃあ、僕らは色々片づけたりしてるから。ミシュレイ、お父さんを見てて」
「ありがとう……クィード」
ミシュレイが心から感謝するうように微笑を浮かべる。僕は笑った。
廊下を歩きながら、僕はプリシアに言った。
「久しぶりに、親子水入らずの再会だ。色々、話もあるよね」
「よかったですわ、本当に。――ところで、部屋分けをどうしましょう?」
プリシアはそう言いながら、微笑みを僕に向けた。




