3 父娘の再会
部屋の中に小さな牢獄。その中に、髭を伸ばした男が座っていた。
僕は牢獄に近づいて訊ねた。
「シュート・クローネさんですね?」
「……そうだが」
髭の男――シュート・クローネは短く答える。
僕は敢えて笑顔をみせた。
「あなたを助けに来ました。僕はクィード・ロラン。ルヤード・ロランとレフィーナ・ロランの息子です」
「ルヤードと……レフィーナの――」
シュートの眼が驚きに開かれる。
その時、壊した天井から、一頭の小さめの竜と、白い大きな竜が入ってきた。
「竜……」
シュートの眼がさらに大きく驚きに開かれる。
――と、白い竜は少女の姿、プリシアになった。
「こっちは光龍王の娘、プリシアです」
「はじめまして、シュート・クローネさん」
そして小さな竜から降りた青い髪で眼鏡をかけた少女が、ためらいがちな顔で歩み寄って来る。
僕はシュートに言った。
「そして彼女は――ミシュレイです」
「ミシュレイ!? まさか!」
シュートは這って鉄格子に近づき、その顔を寄せた。
ミシュレイがうつむいていたが、顔を上げてシュートに言う。
「お父さん……ミシュレイです――」
「ミシュレイ……」
シュート・クローネの両目から、とめどもなく涙が流れ出てくる。
「まさか……生きて、もう一度会える日が来るとは……」
「色々、話したいこともあるんですが、とりあえず此処を出ましょう」
「しかし――この鉄格子は、強化金属でできている。少々のことでは破壊できないぞ」
僕は言われて、その鉄格子を触ってみた。
「う~ん。とりあえず試してみるか。プリシア、ちょっと持ってて」
「はい」
僕は弱体化ベルトを外すと、プリシアに渡した。
その上で、竜気を高める。
「ウオオォォォォ……」
竜気を激しく高めた後に、それを気力に転換。気力を腕力で、全て注いだ。
「ダアアァァッッ!」
一気に鉄格子を押し開く。かなりの抵抗はあったがぶにゃりと鉄格子が曲がり、なんとか人の頭が通れる分だけ開くことができた。
「これで通れるでしょう。さ、出てきてください」
「す、凄いな君は――」
シュートは驚きながら、膝だちで這って、鉄格子の中から出てくる。
僕はプリシアにベルトを返してもらうと、皆に言った。
「よし。じゃあ、すぐに逃げよう。プリシア、頼んだよ」
「はい」
プリシアの身体が光り輝いて、竜の姿になる。
「シュートさんは、僕と一緒にプリシアに乗ってください」
「わ――判ったが……」
シュート・クローネが立とうとしない。
「どうかしたんですか?」
「実は長年、まっすぐに立つことのできない牢獄に入れられていたせいで――足がダメになってしまった……うまく歩けないんだ」
ミシュレイが驚きと、悲痛な顔を浮かべる。
「判りました。じゃあ、運びますね」
僕はシュートを担ぐと、プリシアの背に乗せた。
物凄く軽い。女性一人分の重さもないくらいだ。
立てない牢獄で、ろくに栄養も与えられてない――ひどすぎる拷問だ。
そう思ったけど、とりあえず僕は皆に言った。
「よし、脱出だ!」
「はい!」
プリシアが僕とシュートを乗せて飛び立つ。
レーナがミシュレイを乗せて続く。僕たちは大空に飛び立った。
眼下では、大変な騒ぎが起き始めていた。
「何事だ!」
「緊急事態です!」
多分、監獄塔の階段を大勢の護衛が上がって来てるんだろう。
けどその前に、僕たちはその場を飛び去った。
「――何処へいくつもりなのかね?」
「実はアテはないんです。とりあえず、何処かの山中にでも隠れるかと」
「西南の方へ向かってくれないか? 私が準備していた隠れ家がある」
シュート・クローネの指示で、西南へ向けて飛ぶ。
しばらく飛翔すると、シュートが言った。
「十五年前、私は自分が狙われてるのを知り、ガレーク山中に隠れ家をつくった。そこに家族とともにしばらく隠れ住むつもりだったんだ。――だが、家族と合流する直前に逮捕され、投獄された。その時の隠れ家が残ってるはずだが……あの山だ」
シュートがそう指さした時、プリシアが苦し気に声をあげる。
「クィード……わたし、そろそろ限界です」
「判った、後は地上から行こう。レーナ、地上に降りて」
「わかった!」
二頭の竜は山中の地上に降りたつ。僕は用心しながら、シュートを地面に降ろした。
「立てますか?」
「立たせてくれないか……地面に立つ感触を味わいたい」
シュートは震える脚で、地面に降り立つ。シュートの膝は曲がったままで、伸ばしきれないようだ。けど、シュートはなんとか立って、深く深呼吸した。
「ああ……久しぶりの森の香りと、地面の感触だ――。もう、味わうことはできないと思っていた」
その間にプリシアとレーナは少女の姿に変わる。
シュートはレーナの姿に驚いて声をあげた。
「そっちの竜も、少女の姿になれるんだね」
「はい! レーナって言います」
レーナはにっこりとシュートに笑いかけた。
「隠れ里が襲撃にあって、その生き残りなんです。たまたま知り合って、行動をともにしてます」
「そうか……竜に対する排斥は、まだ続いてるのか――」
シュートは苦悩をにじませた。
僕はその気分を変えるためにも、シュートに訊ねた。
「此処から隠れ家の場所は判りますか?」
「ああ。もうすぐだ。しかし――」
「歩けないんですね。大丈夫、僕がおぶっていきますから」
僕はそう言うと、シュートを背中におぶった。
「じゃあ、行きましょう」
それからはシュートの指示で、しばらく山中を歩く。
かなり山深い処にまで分け入ったと思うと、不意に滝壺が現れた。
「わあ、滝だ!」
レーナがかけていって、水でばしゃばしゃと顔を洗う。
「つめた~い! 気持ちいい!」
僕らも歩き詰めだったので、その滝の傍で休憩した。
水は冷たく、飲んでも美味しかった。
「実は、ここからすぐなんだ」
再び出発すると、僕の背中からシュートは言った。
「滝の横の、大岩の前に行ってくれないか」
言われた通りに滝の横にある大岩の前に立つ。
と、シュートは掌をかざして魔力を放出した。
――と、いきなり大岩に大穴があく。
「隠し通路だ。中に入ってくれ」
中に入ると洞穴になっているが、入った途端に灯りがついた。
どうやら魔法で自動照明の装置がついてるようだ。
「なんか、竜の隠れ里の雰囲気に似てますね」
「うん。あれを参考にさせてもらった。――もう着くぞ」
そして洞穴を抜けると――つる草にびっしりと覆われた小屋がたっていた。




