2 監獄の下見
僕の言葉に、ミシュレイが驚きの声をあげる。
「救い出すって――監獄にいる父をか? どうするつもりだ?」
「それはこれから考えよう。どういう作戦がいいかなあ」
僕は首を傾げた。プリシアも首を傾げる。レーナも首を傾げた。
と、慌てたようにミシュレイが言う。
「ちょっと、待て、待て! 監獄にいる父を助け出したりしたら、重罪だ。犯罪者になるぞ!」
「そりゃそうかもしれないけど……仕方ないだろ」
「仕方ないで済むか! 一生、追われる立場になるんだぞ!」
ミシュレイの言葉に、僕は苦笑しながら言った。
「だけどもう既にさあ、特に何もしてないのに滅竜士に命を狙われてるんだよね。特に二人はさ」
僕はプリシアとレーナを見る。ミシュレイは、あ、という顔になった。
「――だからもう、今さらなんだよ。人間社会の掟が、竜に敵対するんなら、その掟に僕らは抗するしかない。そしてシュート・クローネは僕らにとって助けるべき人だ。……それだけのことだよ」
僕がそう言うと、ミシュレイは静かになった。
「そ……うか…。我々、滅竜士がいわれのない事で、君らの命を狙ったことと、父がいわれのない罪で投獄されてること――人間社会の掟の方が間違ってる、ということか……」
「僕はそう思ってる。ミシュレイ、君は?」
ミシュレイは青い髪に指を入れるように、頭を抑えた。
「……正直、君らの方が正しいと思ってる。けど――監獄から父を奪還するなんて――そんな事、可能なのか?」
「判らないけど、検討してみる余地はあるでしょ。監獄の何処に投獄されてるのかにもよるけどさ」
僕がそう言うと、ミシュレイは眼鏡の顔をあげた。
「それなら判ってる」
「え、そうなの?」
「デュバース監獄の最も高い塔――監獄塔の最上階にいるんだ」
ミシュレイの言葉を受けて、僕は言った。
「ちょっと――見に行ってみよう」
そうして僕らは街へ出た。
街では昨日の虫騒ぎが嘘のように活気を取り戻し、人々が大勢動いている。
プリシアとレーナは変装し、ミシュレイも少し深めに帽子を被っていた。
街では号外が配られている。
「号外、号外! 昨日の毒虫騒ぎの真相だよ! ――なんと! あれも竜の仕業だそうだ!」
男の声を聴き、僕らはハッとなって眼を見合わせた。
男の元にいって、さりげなく号外を貰って来る。
それを覗き込むと、次のような事が書かれていた。
毒虫大量発生の事件の際、上空に緑の竜を見た者が何人かいる。
その街の中心で見られた竜が、虫を発生させた諸悪の根源と思われる。
その虫を操る竜を探すべく、現在、滅竜献身攻団が探索中である――と。
「なんだこれ! デタラメばかりだ!」
僕は憤慨した。虫を発生させたのは滅竜士のゲゾンだ。そんな事、滅竜攻団の方が一番よく知ってるのに、いけしゃあしゃあと探索中だと!
「この緑の竜って……ワタシのこと?」
「多分、そうですね」
レーナの問いに、プリシアは苦笑して答えた。
「ひど~い、レーナ悪い事してないのに!」
「これが滅竜攻団のやり方だ。もういい、構ってられない。行こう」
「うむ……」
ミシュレイが一人、複雑な表情で号外に眼を落している。
まだ滅竜攻団に対する信頼があったんだろうか? 僕らには最初からそんなものがないから気にしないが、信頼してた組織が明らかな情報操作をしてるのを知り、複雑な気持ちなんだろう。
けど、それには触れず、ミシュレイの案内で、僕らは街の端にあるデュバース監獄についた。
高い城壁がぐるりと周囲を囲んでいる。中の建物は、5mはありそうな高い城壁に阻まれて、まったく見えない。
「あれが監獄塔だ」
ミシュレイが指さす。
その先には、その城壁から一つだけ伸びた、石造りの塔があった。
塔の最上部が丸いドームになっていて、その少し下に小さな窓がある。
ミシュレイは言った。
「竜に内通した者へのみせしめとして――シュート・クローネは15年間、あそこに投獄されている」
……あんな場所に、一人で。
しかも無実の罪でだ。
「――許せないな」
思わず、声が洩れた。
「え?」
「だって、シュート・クローネは、投獄された事で、奥さんとも娘とも引き離されたんだ。そんな理不尽な話……あっていいわけがない。いいよ、判った。一旦、帰ろう」
僕はそう言うと、一度、ミシュレイの屋敷に戻った。
「それでどうする? あの城壁を越えるのがまず大変なことだし、それを越えても、あの監獄塔に昇るのは相当大変だ。中には当然、警護兵がいる。――簡単には済まないぞ」
ミシュレイの言葉に、僕は言った。
「うん。けど、なんとかなるよ。それよりミシュレイ――もう、旅支度をしたほうがいい」
「なに? どうしてだ?」
「シュート・クローネを助けたら、ここには戻ってこれない。そもそもだけど、滅竜攻団が、君が死んだかどうか確認しに来たら、一発でバレてしまう。面倒なことになる前に、この街からはもう出ないといけない。持っていくものは、全部、持っていって」
「……判った」
僕らはミシュレイが支度を済ませるのを待ち、やがてまたデュバース監獄の近くまでやってきた。
人気のない通りで、僕らは作戦会議をする。
「――という感じでいく」
「そ……そんな事が――可能なのか?」
「大丈夫だよ、多分。それじゃあ、ミシュレイ――君のお父さんを助けに行こう」
僕がそう言うと、ミシュレイは真剣な面持ちで頷いた。
「みんな、よろしく頼む」
そう言って、ミシュレイは深々と頭を下げた。
「うん。よし、じゃあ行こう! プリシア、レーナ、竜の姿になって」
「判りましたわ」
「うん!」
プリシアとレーナの身体が光り輝いたかと思うと、プリシアは体高6mほどの白い竜に、レーナは3mほどの緑の竜に変化した。
「レーナはミシュレイを、プリシアは僕を乗せて――上空まで一気に飛ぶんだ」
「判りましたわ」
そして二頭の竜が空中に躍り出る。
「もっと上空へ!」
僕はプリシアに言う。と、プリシアはさらに上空へと飛来した。
「よし、この辺でいいな。――じゃあ、行くよ!」
「頑張ってください、クィード」
「うん。じゃあ――降下!」
僕はプリシアの背から飛び降りた。
重力落下で凄い速度がつく。その中で僕はブレスレットを展開し、『翼の盾』を出した。
「翼の盾で、先端を防御」
僕の足先に、翼の盾を展開する。そして僕は蹴りの構えをとった。
「気流・竜巻爆進蹴り!」
僕は自分の背後に気流の竜巻を起こし、さらに加速する。
凄い勢いで落下する僕の蹴りが、監獄塔の天井ドームに直撃した。
凄まじい衝撃だが、こちらへの反動は翼の盾が吸収してる。
爆発音にも近い轟音を上げて、僕の蹴りは天井を破壊して突き破った。
「――よし、これで天井は壊したぞ」
僕は壊れた天井を見上げて、上空の皆に手を振る。
「……一体、何事だ?」
その時、背後から低い声が響き、僕は振り返った。
小さな牢獄部屋に――物凄く髭を伸ばした男が座っていた。




