第十五話 奪還作戦 1 一夜あけて
プリシアが喘ぎ声をあげてしがみつくので、ミシュレイがうっすらを目を覚ます。ミシュレイは、その様子にぼんやりと驚いていた。
「こ……れは――」
「治癒中だよ。紋章の呪いを鎮めてるんだけど――何故だか、気持ちよさが強いらしいんだ」
「あン……んふっ――ン…クぅん……」
僕が説明してる間も、プリシアは少し苦し気に――切なげな表情で悶えている。
「ボ……ボクも――こんな姿だったのか……?」
「そうだよ」
僕の答えにミシュレイが赤くなる。
「恥ずかしい……」
「恥ずかしがらなくていいよ。僕は治癒士だし、これは治癒の副作用みたいなもんだから」
「あんっ、くン――あハッ……あン、ああン……」
プリシアがまた喘ぎ声を上げながら、ミシュレイにしがみつく。
「経験したのなら……判るでしょう? 声が抑えきれないの……」
「判るよ……さっき…ボクもそうだった……」
「うれしい……わたしたち…仲間ですわ――アッ! ううン……くぅっ――」
プリシアがミシュレイにしがみついて、ビクンと震える。
そして後は荒い息を吐いた。
「もう大丈夫。これで落ち着いた」
僕がそう言うと、プリシアはぐったりとなって、ミシュレイの胸に顔を預けた。
「あ……おい…君――」
「――プリシアと…呼んでください」
ミシュレイの胸の上で、プリシアはミシュレイを見上げながらにっこりと微笑する。ミシュレイも苦笑で返した。
「プリシア……君、意外に重いぞ」
「まあ――それは仕方ありませんわ」
微笑みあう二人に、僕は言った。
「二人とも歩けないかな? ベッドに運ぶよ」
僕はそう言うと、まずミシュレイを抱き上げた。
「あ……」
膝と脇から支えるように抱えると、ミシュレイが恐がるように首に腕をからめてくる。その整った顔が、すぐ傍に来た。
「男性にこんな風に抱えられるなんて――多分、父親以来だ……」
「そう。まあ、気にしないで」
僕はそれだけ言うと、ミシュレイを部屋に運んでベッドに寝かせた。
眼鏡を外して、脇の台に置いてやる。綺麗な眼元が、あらわになった。
「じゃあ、ゆっくり休んで」
「クィード……」
おやすみの挨拶をして去ろうとした僕に、ミシュレイの手が伸びてくる。
僕の頬を――触った。
「君には……助けられた。どんなにお礼を言っていいか、判らない……」
「気にしないで。それに……最後に君を助けたのは、君自身だった」
僕はそう言って、微笑してみせた。
ミシュレイが嬉しそうに微笑するのを見届けて、僕は部屋を去る。
階下に戻ると、もうプリシアが寝息を立て始めている。
「プリシア、ベッドに移すよ」
そう声をかけて、プリシアを抱える。――ん、やっぱりミシュレイよりは重い。
けど、空いてる部屋のベッドにプリシアを運ぶと、プリシアがうっすらと眼を開けた。
「クィード……隣で寝て下さい」
「わかった」
僕は苦笑して、ベッドに一緒に入り込む。
隣では、安らかな笑顔をプリシアが浮かべたかと思うと――すぐに寝入った。
「おやすみ、お姫様」
僕は思わず洩れる微笑とともに、そう口にした。
――翌朝、僕は一番に起きたので、とりあえず朝食をつくる。
と、次々と二階の寝室から降りてきた。
「おはようございま~す、いい匂いがするぅ」
一番最初に起きてきたのはレーナだ。
「おはよう、レーナ。よく眠れた?」
「うん、久しぶりにぐっすり寝た」
レーナがにこやかな笑顔を見せた。
と、プリシアが降りてきて、ミシュレイが降りてきた。
……なんか、ミシュレイは恥ずかしそうな顔をしてる。レーナが声をあげる。
「あ、おはよ、シュラ」
「レーナ、もう彼女のことはミシュレイって呼ぶんですのよ」
レーナに、プリシアがその事情を話している。
それを聞きながら、ミシュレイは恥ずかしそうに口を開いた。
「なんだかまだ慣れてないが……ミシュレイでよろしく頼む…」
「うん、わかったよ、ミシュレイ!」
レーナが元気に答えると、ミシュレイも嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、みんな揃ったところで朝ごはんにしようか」
僕がそう言いながら顔を出すと、ミシュレイが僕の顔を見て、ビクン、と震えた。顔が赤くなっていく。
「あ、ミシュレイ、おはよう。体調はどう?」
「……すこぶる良好だ……」
「そう。それならよかった。朝ごはんにしよう」
昨日の事で、少し恥ずかしさがあるんだろう。けど、気にしないで普通に振る舞う。それが一番、落ち着くだろうから。
僕らは和やかに談笑しながら、朝食をとった。今度はミシュレイも、少し会話に混ざってくれた。
朝食が終わって落ち着くと、僕は少し真面目な面持ちで皆に言った。
「それで、これからどうするかなんだけど――」
「はい。どうするのですか?」
「ミシュレイの記憶が戻ったけど、その中に龍王具に関する記憶ってないかな?」
僕はミシュレイに問うた。ミシュレイは眼鏡の少し抑えながら、口を開く。
「残念ながら……ないな。父の微かな記憶と、母に関する様々な記憶が甦ってきたが、龍王具に関する話はない」
そう答えたミシュレイに、僕は思わず言った。
「お母さんに関する記憶、甦ったんだ。よかったね」
「ああ……君のおかげだ。ボクは……お母さんに大事に育てられていて――お母さんは父を誇りに思っていた。父は冤罪で――恐らく罠にはめられて監獄に入れられてる」
ミシュレイは複雑な表情を見せる。
「という事は……やっぱり、龍王具の行方はお父さん――シュート・クローネしか知らない、ということか」
「多分、そうだ。だが……デュバース監獄は重罪人を収容する処で、面会もできない。訊き出すのは難しいだろう」
ミシュレイが声を落とす。
と、プリシアが口を開いた。
「そんなの、おかしいですわ!」
「え、どうしたの、プリシア?」
「だって……シュート・クローネさんは何も悪いことをしてないのに、監獄に入れられてるんでしょう? そんなのおかしいじゃないですか!」
プリシアの抗議の声に、ミシュレイが苦い顔をして言った。
「それが……国の方針に逆らった者の末路さ。国が竜を敵対者としてるのに、竜を擁護して国の政策に反対し続けた。そして裏取引をでっちあげられた」
「――なんとか、監獄から出せないかな?」
僕の言葉に、ミシュレイは首を振った。
「竜を敵対対象にするのは、サウスリア全体の政策でもある。特に、盟主国であるハラーガリアでは、竜は完全な害獣扱いだ。今さら政策は変わらないだろう」
プリシアとレーナが悲し気な顔をする。
「レーナたち、がいじゅうなの?」
「……そんなことない。と、今はボクも思うよ。けど、国の政策として、竜=悪、すぐに駆除――という流れなんだ」
ミシュレイは残念そうな表情でそう言った。
と、プリシアは声をあげる。
「そんなの……国の方針が間違ってますわ! わたしたち竜に、国の方針なんか関係ありません!」
「確かに……これは国の方が間違ってる。シュート・クローネを救い出そう」
僕は少し考えると、皆にそう言った。




