第十四話 真の記憶 1 シュート・クローネの娘
魔力は空っぽ、体力も限界の僕とプリシアは、なんとか歩いてシュラの屋敷にたどり着く。レーナはシュラを抱えたまま、奥へと進んでいく。
「ベッドのある部屋を探してくるね!」
「たの……む…よ――」
僕はそう言って、奥へ歩いていくレーナを見送った。
が、その瞬間、安堵感からか遂に膝から力が抜けた。
視界がぐらりと揺らぐ。僕はそのまま――倒れ込んだ。
――気づくと、僕は何処かに寝かされていた。
「……此処は?」
ベッドの上だ。見知らぬ部屋――シュラの屋敷の部屋の何処かなんだろう。
身体を起こす。大分、体力も回復したみたいだ。
「どのくらい時間が経ったんだろう? ……みんなは?」
僕は部屋を出た。長い廊下の先に、下に降りる階段が見える。
僕が階段を降りると、先の部屋から談笑する声が聞こえてきた。
「――それでね、クィードが『え、毎日お風呂に入るんですか?』って、ネフィーラに言うの。元の家にいた頃は、二、三日に一回だったらしいのね。けど、わたしも驚いちゃって、『え、お風呂ってなんですか?』って」
「プリシア、お風呂知らなかったんだ~」
プリシアとレーナの会話だ。
「そうなの、水浴びしかしたことなくて! それに、竜気を放出すれば虫とか汚れとか一気に払えるでしょ?」
「え? そうなの?」
「そうよ! まあ、ちょっとコツはあるかもだけど――でね、ネフィーラが血相変えて言うの。『二人とも今日からは、毎日風呂に入れ!』って。今ではわたしも、お風呂大好きなんだけどね」
……なんか、楽し気だな。二人はキャッキャッと笑いあっている。
「――二人とも元気そうだね。おはよう」
僕がリビングに顔を出すと、二人ともパーッと明るい顔になった。
「あ、クィード!」
「起きたんですね、よかった」
レーナが喜色を浮かべ、プリシアは微笑んだ。
「最初は心配しましたけど――よく寝ているだけだと判ったので」
「僕……どのくらい寝てたの?」
僕が訊くと、レーナが答えた。
「一日経ったよ! 今はお昼! ――あ、そろそろお昼ごはんかなって、思ってたんだ」
「ちなみに、わたしは昨日の夜中に目覚めましたわ」
プリシアはそう言って微笑む。さすが竜、回復が早いな。
――と、そう言えば人間の方は?
「そうだ、シュラはどうしてる?」
「まだ寝てるよ~。使ってたっぽい部屋があったから、その部屋のベッドに寝かせた」
「そういえば、僕のこともレーナが運んでくれたんだよね? ありがとう」
「うふふ」
僕がお礼を言うと、レーナは嬉しそうに微笑んだ。
それから皆で二階に上がり、シュラが寝ている部屋にいく。
シュラは確かにベッドに寝かされていた。
様子を見ると――健やかに寝ている。とりあえず、危険はないようだ。
「……もうちょっと休息が必要なんだろうね。寝かせておけば大丈夫だと思うよ」
僕がそう言うと、プリシアがその寝顔を見つめた。
眼鏡を外していると、長い睫毛が際立って見える。細面の整った顔立ちで、よく見たらかなりの美人だ。
「この人……迷いがあったんですのね」
「シュート・クローネの娘さんなんだな。……この人には、色々訊きたいことがある。目覚めるまで、此処で待たせてもらおう」
僕がそう言うと、二人はにこやかに頷いた。
それから悪いけど、備蓄してあった食料を貰ってお昼ご飯をつくり、皆で食事した。それからしばらく、疲れを癒すように、僕らはのんびり過ごす。
そして夕食の準備をしている頃に、シュラが目覚めた。
「――君たちは……」
階段を降りてきたシュラに、僕は笑いかけた。
「あ、起きたんだね。悪いけど、食事を作らせてもらってる。――君も、多分、お腹空いてるでしょ?」
「そんな悠長なこと――」
そう言いかけたシュラのお腹が、キューと鳴った。
あ、という顔で、シュラが赤くなる。
「ほら、まあ色々あるだろうけど――とりあえず、みんなでご飯にしようよ」
僕が笑いかけると、シュラは恥ずかしいのか怒ってるのか判らない表情のまま下に降りてきた。黙ってテーブルにつく。
そのテーブルには、既にプリシアとレーナがついている。
レーナが嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ……よかったね、お姉ちゃん」
レーナが笑いかけたのに対し、シュラは驚きの顔をみせた。
「君は――ボクのことを恨んでないのか?」
シュラは、少し涙ぐみながらうつむく。
レーナは少し神妙な顔をするが、もう一度笑顔になる。
「けど……お姉ちゃんは誰も殺してなかったんでしょ? ワタシ聞いてたもん」
「それはそうだが――それでも、襲撃に加担してたことは間違いない……」
「それでも――クィードや、プリシアを助けてくれた。もう、味方なんでしょ?」
レーナはそう言って、シュラに微笑みかける。
シュラは目を見開いた後に、うつむいた。
「ボクは……」
「――さあさあ、まずご飯にしようか! お腹が空いてちゃあ、前向きなことは考えられないからね!」
僕はそう声をかけながら、料理をテーブルに運んだ。横でプリシアも手伝ってくれてる。
食材が豊富だったので、料理は腕によりをかけた。
みずみずしいきらめきを放つサラダに、湯気をたてるオムライスに野菜たっぷりのポトフを並べる。
「わぁあぁ……今日はまた一段と美味しそうだね!」
「そうですね、クィードの料理は本当に美味しいですから」
レーナとプリシアが嬉しそうな顔をみせる。よかった、頑張ってつくって。
僕はシュラにも声をかける。
「君もどうぞ――って、君んちの食材なんだけどね」
あはは、と誤魔化し笑いをすると、シュラは真面目な顔で僕らを見回した。
「……いただくことにするよ」
「じゃあ、いただきましょう!」
プリシアの掛け声で、食事が始まった。
僕とプリシア、レーナは談笑しながら夕食を食べる。
シュラはその間、黙々と食事をしていたが――少なくとも、怒ってる感じじゃなかった。
食事が終わり片付けものをしてると、シュラが声をかけてくる。
「君が……ボクを――助けてくれたんだな」
「僕だけじゃないよ。プリシアも、レーナもだ」
僕は笑って、そう返した。
「どうして……」
シュラが苦しそうな顔をする。僕は苦笑した。
「僕は治癒士だよ。人を助けるのに、理由なんかいらない」
「けど、あの子たちは竜だろ!? ボクを助ける――理由なんかないはずだ!」
シュラがそう声をあげる。僕は言った。
「僕は光龍騎士レフィーナと、ルヤードの息子だ。そしてあの子は光龍王レイミアードの娘、プリシア。今、光龍王レイミアードが、君たちの仲間に里を襲われて行方不明だ。その光龍王を探すために、龍王具を揃えようとしてる」
僕は左腕のブレスレットを見せた。
「君のお父さん――シュート・クローネも龍王具を持っていたはずだ。龍王具が四つ揃えば、光龍王の居場所が判るはず。……だから、それをシュート・クローネに訊きに来たんだけど――君たち滅竜士に襲われたのさ」
僕の言葉に、シュラは真剣な面持ちをみせた。
「けど――君が光龍王の居場所を知ってるって言うなら、その必要もなくなる。君は知らないのかい?」
「悪いけど……ボクは知らない。光龍王の里が襲われたという話も――初めて聴いた。ボクは多分……前の隠れ里襲撃の際に大して使い物にならなかったから、ジャルドー様から役立たずと判断されたんだろう」
シュラは自嘲気味にそう苦笑した。僕は問うてみる。
「ジャルドー様ってのは――あの黒い仮面の男のこと?」




