4 『絵札の』ディカード
シュラは焦ったように、突然現れたゴーグル男に声をあげた。
「ボクは街の人々を攻撃したゲゾンを止めようとしただけだ! 組織を裏切ったわけじゃない!」
その言葉を聴いたゴーグル男は、薄笑いを浮かべた。
「ん~、シュラくん、問題はそこじゃないんだなぁ~」
ゴーグル男は、白い手袋をつけた人差し指を立ててみせる。
「竜の殲滅より、他の事を優先した――それがもう、裏切りなんだよ」
「……そんな! 街の人はどうなってもいいというのか!」
「いいんだよ」
ふっと声色を落として、ゴーグル男――ディカードは言った。
「……そんなことも判ってないから、竜の里襲撃の際に、一匹の竜も始末できないんですよ」
「けど――あれは、人の姿をしていたから……」
「チッチッチッチ!」
ディカードは指を左右に振る。
「甘すぎますね。竜は害獣だと教わってるでしょう?」
「けど……実際にはそんな事はない! この雌竜――プリシアは、命がけで街の人を救うのを助けてくれたんだ! 竜でも、場合によっては人と協力関係になれる! 組織はその可能性をもっと模索すべきだ!」
シュラの必死の訴えに対し、ディカードはせせら笑いを浮かべた。
「ほうら! だからね、そういう考えを抱くこと自体が、組織への裏切りなんですよ、シュラくん」
「そんな……」
絶句するシュラに、ディカードはさらに告げる。
「君がこうなることはね――ジャルドー様はお見通しでしたよ」
その一言で――シュラの眼が大きく見開かれた。
かなりのショックだったらしい。
「黒仮面卿ジャルドー様は、なんでもお見通しなんですねぇ。ゲゾンとキャンディーヌが負けて失敗する可能性も考えて、ぼくをよこしたんですよ」
「ジャルドー……様が……。ボクは――信用されてなかったってこと……?」
呆然となったシュラが、呻くように声を洩らす。
「う……うそだ――」
「残念ながら嘘じゃありませ~ん! 何故なら、ぼくは君に呪罰を仕向けるように遣わされたのですからね」
ディカードはそう言うと、手袋をはめた人差し指をシュラに向けた。
「ヒッ!」
「さよなら、シュラくん」
なんだ? 何か判らないが、シュラが攻撃される。
僕は二人の線上に割って入った。
――が、何も攻撃が来ない。なんだ?
「ギッ――う……ぐ――」
後ろでシュラの呻く声がする。僕は振り返った。
そこには苦しむシュラの姿があった。
「な――一体、何をしたんだ!?」
シュラの首元から、紫色の炎のような痣がせり上がってきている。
その痣のせいで、呼吸ができないようだ。
「今すぐ止めろ!」
僕は猛ダッシュで、ディカードに突進した。
が、ディカードの横に、等身大サイズのカード――スペードのキングの絵札が現れる。
僕が到着する直前に、ディカードはカードのなかに、扉を開けるように消えた。
「な――」
「あなた方と戦う気はありませんよ。――今日のところはね」
ふと気づくと、倒れているゲゾンの傍に、ディカードがカードを開けて現れている。
「瞬間移動? カードの魔法か!」
ディカードは手にしたカードをゲゾンに向かって投げる。
と、その小さなカードに吸い込まれるように、ゲゾンの身体が消えた。
「く……なんだ、あの魔法は!?」
「クィード、シュラが!」
僕が振り返ると、シュラが倒れて痙攣している
その顔が紫色になりかかっていた。
「まずい、呼吸ができてない!」
「――愚かな娘でしたね。ジャルドー様に育てられていながら、その言いつけを守らないとは」
今度はキャンディーヌの傍に現れたディカードは、そう言いながらキャンディーヌをカードに吸い込んだ。
「それでは、さようならクィードくん。そして――光龍王の娘よ」
そう言い残すと、ディカードは絵札を開いて、なかに入り消えていった。
「く……もう、術者を止めることで、効果を止めることができない。シュラ!」
僕はシュラの元に駆け付ける。もう、シュラは息をしてない。
顔色が完全に紫に変わって、眼に光がなかった。
「治せるかどうか判らないけど――治癒!」
僕は倒れているシュラに治癒魔法を浴びせた。
――かなり抵抗が強い。顔色を染めた紫の痣は、なかなか消えない。
「くぅ……全開だ!」
街の人々を助けるために、ほとんど魔力を使ってしまっている。
けど――ここで死力を尽くすしかない!
「治癒! 治癒! 治癒!」
「クィード! わたしも――手伝います!」
プリシアが魔力をくれる。その力も補てんして、シュラに治癒の光を浴びせ続ける。
――と、その顔から少しずつ紫の痣が引き始める。
「効果がある! 続けるよ、プリシア!」
「はい!」
僕らはさらに魔力を込める。やがて紫の痣が首元まで引いた。
「う……く……」
シュラが呻いた。声が出たということは――呼吸が戻った!
「やった、呼吸が戻った! もう少し頑張れば、この痣を消せるかもしれない」
「――すいません、クィード……わたし――もう…限界です――」
そう小さい声で言うなり、プリシアが倒れた。
魔力切れだ。けど――僕も限界に近づいてる。けど、シュラはまだ危険状態だ。
「く……助けられないのか――」
「クィード! このブレスレットが光ってる!」
傍に少女姿のレーナが駆け寄ってきて、『翼の盾』のブレスレットを差し出す。
確かにその金色のブレスレットは光り輝いていた。
「何か……役に立つのか?」
僕は金色のブレスレットを受け取ると、左腕にはめた。
と――魔力が、グンと沸き起こる。
「――助けてくれるのか、龍王具! ウオォォォ!」
僕は最後の力を振り絞った。紫の痣が首から姿を消す。
恐らく全身に行き渡っている痣が、収束していってるはずだ。
そして――その反応が落ち着いた。
多分、治癒魔法でできるのはここまでだ。
「――あとは……解呪…しか――」
眼が霞む。ここで倒れたら――僕らは三人とも動けなくなってしまう。
「クィード、しっかりして! プリシア!」
レーナの声が聞こえて――僕はなんとか倒れるのを防いだ。
「大丈夫……レーナ、その女性を運べる?」
「うん、できるよ!」
レーナは意識のないシュラを軽々と担ぎ上げた。さすが少女の姿でも竜だ。
僕はプリシアに向けて、回復魔法を使う。
「回復……」
「う……クィード――わたし……」
僅かだけどプリシアの体力を回復させると、プリシアが眼を覚ました。
「プリシア――なんとか…休めるところまで歩くんだ」
「休むところって……?」
そうして僕らがたどり着いたのは――シュラの屋敷だった。




