2 決着! ゲゾン戦!!
プリシアを助けた僕だが、その僕に向かって来るケーキナイフがかわしきれない。まずい――そう思った瞬間、ケーキナイフが弾き飛ばされた。
弾いたのは、シュラの薙刀だ。
「シュラ――ありがとう!」
「借りを返しただけだ」
シュラは何故か怒ったような顔で、僕にそう返す。
ちょっと嬉しい気がしたが、そんな余裕はない。人が変わったような形相で、キャンディーヌが追撃をしていたからだ。
「シュラちゃんもアタシと遊んでくれるの? 嬉しいィィィィ!」
そんな金切声を出しながら、キャンディーヌはナイフとフォークを次々と繰り出してくる。尋常のスピードじゃない。明らかに、薬の効果による異常加速だ。
「ヒギィィィィッ! クケッ、クケッ、クケケケケケケッ!!!」
キャンディーヌの異常な連続攻撃を、シュラの薙刀とプリシアの竜光剣が防いでいる。プリシアが声をあげた。
「クィード! クィードはあの虫を操る人を! こっちはなんとかします」
僕はシュラを見た。シュラが眼鏡の奥の眼で、ちらりと見る。
「聞いての通りだ。――行け」
「うん!」
僕はその場から離脱して、ゲゾンに向かった。
虫の鎧を身にまとったゲゾンは、不敵な笑みを浮かべている。
「ゲゾン、味方まで虫の毒牙にかけるとは――やり方が汚すぎるぞ!」
「心底どうでもいいなあ? オレは目的が果たせれば、それでいいんだよ!」
ゲゾンが右腕の毒針をこっちに向ける。
と、その針の先端から、毒液が噴出してきた。
「小気旋!」
腕を回して気流を作り、毒液を弾き飛ばす。
飛ばされた毒液が地面に落ちると、そこから湯気と異臭が漂った。
「む――これは……」
地面が少し溶かされている。毒じゃなく、溶解液を飛ばしてるらしい。
相手にしてられない!
僕は竜気を爆発させて急接近した。ゲゾンの胸に、縦拳を見舞う。
「旋気侵撃破!」
僕の加速についてこれなかったゲゾンの胸に、僕の拳が直撃する。
その拳の周囲に気流が渦を巻き、物理的な破壊力を増加した。
「ぐぉ……」
虫の鎧に拳がめり込む。その気流の渦が、さらに拳を内部へと押し込んだ。
「――ガアアァァッ!」
僕の打撃を喰らい、ゲゾンが呻き声をあげながら吹っ飛んだ。
虫の鎧を凹ませ、ダメージは内部に達したはずだ。
倒れたゲゾンが、動かない。やったか?
そう思った瞬間、寝たままのゲゾンから笑い声が響いた。
「ヒドすぎるぜ。この威力――人間に当てていい破壊力じゃねえよな?」
何を言ってるんだ、こいつ。
僕が訝しんでいると、ゲゾンはさらに声をあげた。
「こうなっちまったら……こっちも少し、人間をやめねえとな」
そう言った瞬間、ゲゾンの身体に新たな外骨格がまとわりつき始めた。
ゲゾンは寝たままで、その身体が宙に浮く。
新たに生えてきた八本の脚が、ゲゾンの身体を宙に浮かせたのだ。
そしてその身体が起きた時――ゲゾンはサソリの下半身を持つ虫の怪物と化していた。ゲゾンが薄笑いを浮かべる。
「オレも正直、ここまでやったことないからなぁ。どうなるか――知らねえぞ?」
八本の脚に加え、ハサミを持つ二本の腕、そして毒針を持つ尻尾が伸びている。
意外なくらい速い速度で、ゲゾンが襲い掛かってきた。
そのハサミが僕を襲う。
僕は気流を展開した。
「大気旋!」
大きな気流渦で、ハサミの攻撃を逸らす。
しかし二本のハサミに加えて、自身の腕からの毒液攻撃、そして尻尾の毒針が次々と襲い掛かる。
「くっ!」
攻撃方法が多彩すぎる。
「ケケッ! 心底ムカつくてめぇを片付けたら、あの雌竜を捻じり殺してやる」
「なんだと!」
「そしてシュラと――キャンディーヌをオモチャにするのも悪くねえな。ケケケ」
ゲゾンはそう口にして、下卑た笑い声をあげた。
――僕の中で、何かが切れた。
「……お前――人間として汚すぎるぞ……」
僕は怒りが沸き起こりすぎて、その怒りを表現できない。
ただ立ち尽くし、怒りの沸点を迎えようとしていた。
「汚い? 結構だよ! 小奇麗な面した奴を、みんなオレの足元に跪かせてやる! お前はそれから、オレが踏みつけにしてやるさ!」
棒立ちの僕に、サソリの毒針が向かって来ていた。
その瞬間――僕の中で竜核が爆発した。
「オオォォォ……」
僕の身体の周囲に気力がほとばしり、それが光を放つ。
サソリの毒針は、気力の壁の前で止まっていた。
「な――気力の壁で…刺さらないだと?」
驚くゲゾンをよそに、僕はその毒針の尻尾を掴んだ。
針の部分を握りつぶす。
「く――こいつ、腕力だけで……」
「把気!」
把気を伸ばして、長い尾を絡めとるようにサソリを捉えた。
「半月投げ!」
大きな弧を描いて、僕はサソリを地面に叩きつける。
地面に頭から叩きつけられたゲゾンが、呻き声をあげた。
「ぐぁ……」
構わず僕は、連続で半月投げをくらわせる。
投げる間に、地面との衝撃でサソリの脚がおかしな方向に曲がった。
「ぐ――ぇ……」
僕は把気で横たわる巨大サソリの胴体を捉えると、全身から気流を放出した。
その気流は大きな渦を僕の周囲に展開する。それは大きな竜巻となった。
「気流竜巻投げ!」
僕は気流の竜巻の勢いで、サソリを上空に投げた。
回転しながら、サソリが宙を舞う。
「ぐわぁぁぁっ!」
ゲゾンが悲鳴をあげている。僕は跳躍して、空中にいるサソリを捉えた。
「……お前の虫の鎧が、どれだけ頑丈か――自分で試してみるんだな」
「や――やめろぉっ!」
ゲゾンが切羽詰まった顔で叫ぶ。
だが、僕は捉えたゲゾンをさらに回転を加えて地面に投げつけた。
「気流竜巻落し!」
凄まじい回転をしながら、サソリ姿のゲゾンが地面に叩きつけられた。
もう――サソリ部分の手足は、あらぬ方向に曲がっている。
と、そのサソリの外骨格が消え、意識を失ったゲゾンが白目を剥いていた。
僕は地面に降り立つ。
「ふぅ……やっと片付いたな」
プリシアたちは?
そう思って目を向けると――水流で捉えたキャンディーヌを、プリシアが撃破しようとしていた。
「竜光砲!」
「ギャアァァァァッ!」
二人の連携攻撃で、キャンディーヌの身体が光りに包まれる。
その水流が解けた時、キャンディーヌの身体も地面に横たわった。
僕は二人の元に駆け寄って声をあげた。
「やったね! いい連携だった!」
「ボクが――竜と協力するなんて……」
シュラが少し複雑な表情で横を向く。プリシアはなんだか嬉しそうだ。
僕はそれを見て――少し微笑んだ。




