第十三話 シュラとの共闘 1 巨大ゴミムシの襲来
『菓子姫』キャンディーヌは、ゲゾンの元に走りながら声をあげる。
「ちょっと、虫くん! あのデカい虫が当たりそうになったんだけど!」
「心底うぜぇ……」
「うぜぇって何よ! それはこっちのセリフよ!」
キャンディーヌが抗議すると、虫の鎧を身にまとったゲゾンが鬱陶しそうに言った。
「てめぇ、あの雌竜一匹にいつまで手間取ってるんだ?」
「あの雌竜、意外にやるんだもん! 今まで、あんな風に戦える竜と会ったことないし~」
キャンディーヌは悪びれる様子もない。ゲゾンは舌打ちをした。
「心底イラつく――もういい、オレ一人でやる」
「そんなこと言ってぇ、さっき腕やられてたじゃない」
キャンディーヌが口元を押さえながら薄笑いを浮かべる。
と、ゲゾンは右腕を振って見せた。
「フン――肘の骨が砕かれたが……外骨格で動かせばいいだけの話だ」
「ウソ! 痛そう!」
「虫の毒には感覚神経を鈍らせるものがある。それを分泌してるから、痛みはない。……もういい、無駄話が過ぎるぞ!」
ゲゾンはその右腕を振る。と、ゴミムシが羽を広げて、空中から襲い掛かってきた。
「アクアショット!」
シュラが突き出した薙刀の刃から、水の弾丸を飛ばして迎撃する。
しかし水の弾丸が当たっても、巨大ゴミムシは怯まない。
「なに――なんて装甲だ!」
「危ない! 把気!」
僕はシュラに襲いかかるゴミムシを把気で捉え、その勢いを利用して大きく回転させた。
「気流回転投げ!」
一回転させて、空中にいる別のゴミムシにぶつけてやる。
二匹のゴミムシがもみあって地面に落ちてきた。
「二人は地面のゴミムシをやっつてけて! 僕は空中の一匹をやる」
「判りましたわ!」
「なに? しかし上空の奴は、かなりの高さだぞ?」
素直に返事をするプリシアに対し、シュラは怪訝な顔をみせた。
僕はそれに笑って答える。
「大丈夫、じゃあ頼んだよ!」
僕はそう言うと、竜気を高めた。
「オオオォォォ……」
その竜気を気力に変えて、脚に貯める。そして――
一気にジャンプ!
かなり上空を飛んでいた一匹の傍まで、僕は空中に跳びあがった。
その黒い身体が眼下にある。僕は拳に、気流の渦を作った。
「旋気侵撃破!」
気流渦を巻いた拳を、ゴミムシの背中に叩きつける。
と、ゴミムシは凄まじいスピードで落下していった。
地上では、プリシアとシュラが、もみあってるところからはい出したゴミムシを攻撃しようとしていた。
シュラは水流を作りだして、ゴミムシの周囲を滑るように移動している。
そして薙刀を八相に構えた。
「アクア・スラッシュ!」
水流の勢いとともに、薙刀を斬りつける。薙刀の刃から、さらに巨大な水の刃が現れ、ゴミムシに襲いかかった。
ゴミムシの頭と胴体が、水の刃によって両断される。
水流のままにすり抜けたシュラは、振り返って残心を決めた。
「やりますわね、わたしも!」
プリシアは両手を左右に広げ、竜気を高める。
そのプリシアめがけて、羽を広げてゴミムシが襲い掛かった。
が、その空中のゴミムシに向けて、プリシアが胸の前で合わせた両掌から巨大な光線を発射する。
「行きます! 竜光砲!」
発射された巨大光線はゴミムシを呑みこみ――その光線が消えたあとには、頭と胸の一部が消し飛んだゴミムシの胴体だけが残った。
「よし、二人ともいいぞ! これで最後だ!」
ゴミムシに向けて落下する僕は、先に地面に落ちているゴミムシを見据えた。
ゴミムシが顔を上げて僕を見る。
僕は右拳を右横に構え、左拳を下段に落とす構えを作った。
「行くぞ、気流・竜巻爆進蹴り!」
背中側に巨大な気流渦を作り、それの生み出す爆発的な推進力で、僕はゴミムシ目がけて横蹴りを落としていく。
僕の足の先端には――鋭く回転する気流の渦巻。
その横蹴りを、僕は顎を持ち上げたゴミムシの頭にぶち込んだ。
「ウオォォォッ!」
頭部に打ち込んだ足から気流の渦が唸りをあげる。背後の竜巻はその勢いを加速させた。
ビシ、とゴミムシの頭にヒビが入った瞬間、僕の蹴り足がゴミムシの頭を粉砕した。その爆砕が全身に行き渡る中、僕はゴミムシの身体を粉砕して通り抜け、しゃがむように地面に降りる。
ゆっくりと立ち上がった時、背後で残ったゴミムシの巨体が倒れた。
「……さあ、ゴミムシは片付いたぞ。次はお前だ、ゲゾン!」
「心底ムカつく奴だぜ……」
ゲゾンが忌々しそうに口にする。
隣のキャンディーヌが唇を尖らせて声をあげた。
「え~、ちょっとぉ虫くん! 虫が三匹ともやられちゃったよ、どうすんのぉ?」
ゲゾンが苛立った顔で、キャンディーヌを見る。
キャンディーヌはちょっと怯んだ。
「ちょ、ちょっと、アタシを 睨まないでよ! ここまでやったら、成果あげないと大問題になっちゃうよ! なんとかしないとぉ」
そうキャンディーヌが言うと、ゲゾンがキャンディーヌを見つめる。
「え? な、なに……虫くん――」
「――その呼び方……やめろ」
ゲゾンがそう言った瞬間、キャンディーヌの身体が突然、硬直する。
「ヒッ――」
眼を剥いて、歯を食いしばり、全身を屹立させたキャンディーヌは、細かく痙攣しだした。
「一体――何をしてるんだ、ゲゾン!」
ゲゾンは答える代わりに、一匹の虫を手に乗せてみせた。
キングスズメバチより小さいが、大きなハチだ。何か長い尻尾のようなものが垂れている。
「クルイジバチだ。こいつは刺した相手の神経系を狂わせ暴走させる。狂った相手は自分の身体が傷つくのも構わずに一定時間暴れるが、やがて全てを消耗しておとなしくなる。こいつはそのおとなしくなった相手を、捕食し、卵を産み付ける習性を持っているのさ」
ゲゾンが口の端を歪めて笑う。
僕は思わず声を洩らした。
「まさか……そのジバチで――キャンディーヌを刺したのか!?」
「そうさ! この菓子は甘ったるい声で、その呼び方をやめろと言ってるのにきかねえバカ女だ。少しくらい脳みそがないくらいがちょうどいいんだよ!」
ゲゾンが笑みと声をあげた。
僕の隣に立つシュラが、怒りに震えている。
「貴様……街の人のみならず、仲間まで手にかけるとは――許さんぞ!」
「甘いねえ、シュラ。甘いのはこいつの菓子だけで充分だ。――行け、キャンディーヌ! あいつらを思いきりいたぶってやりな!」
ゲゾンの声を聴くと、眼を異常に開いたキャンディーヌがこちらを見る。
「……アタシと――アソンでくれる?」
ギィィィ、と口の端を釣りあげると、キャンディーヌはいきなり自分の白い服を破りとった。
が、その瞬間にダークチョコレートがその全身を覆う。その手には、巨大なケーキナイフとフォークがあった。
「アタシと遊んでよ!」
今までの動きとはまったく異なる速度で、キャンディーヌが迫ってくる。
キャンディーヌがフォークをプリシアに突き出した。
「プリシア!」
僕は割って入り、小旋気でフォークの攻撃を逸らす。
しかしその瞬間、ケーキナイフが僕の顔をめがけて迫って来ていた。




