第二話 二人の旅立ち 1 謎の化物
剣を振り上げて、僕は隊長に斬りつける。隊長がそれを自分の剣で受けた。
グン、と隊長の身体が沈む。
「む……ここまでの力か――」
「こんなものじゃないぞ……僕の怒りは!」
僕は剣を合わせた状態で、隊長に前蹴りを放った。
モロに喰らった隊長が吹っ飛んで、後方の大木にぶつかる。
結構な衝撃のはずだ。隊長の身体が崩れ落ちていく。
「いけない――あの人を!」
僕は隊長に刺された兵士の元に駆け付ける。まだ息がある。僕は治癒をかけた。
「う……何故…オレを――」
「僕は治癒士ですから。……見捨てておけないでしょ」
我ながら苦笑した。治癒されながら、兵士が涙ぐむ。
「――ヒャーハッハァッ! すげぇ力だ! そうか、オレは当たりを引いたワケだな!」
隊長が起き上がって来る。……なんてタフな奴だ。
と、思った瞬間、様子のおかしさに気付く。
「な……なんだ?」
隊長の顔に黒い毛が生えてきて、大きな耳が生えてくる。
頭は耳のシルエットで逆三角形になり、その身体から鎧が落ちた。
その身体も黒い体毛で覆われており、足がいびつな形に変わる。
と、その背中には羽が生えてきた。――コウモリの羽だ。
隊長はコウモリ人間に変化していた。しかし妙なのは、コウモリは腕が羽になるのに、こいつは腕は別にあることだ。
そして何より奇怪なのは、その頭――三つめの眼が、額に縦に現れている。
「魔物……なのか?」
「ギッギッギィ! 魔物――とは、ちょっと違うがなあ!」
コウモリ隊長が飛んでくる。その振ってくる剣を、僕は受けた。
すぐに反撃をしようとするが、その時にはコウモリ隊長は宙に浮いていた。
「くっ――なら!」
僕はジャンプして斬りつける。が、空中で、その一振りはかわされた。
「ヒャッハーッ! 空中じゃあ、うまく動けねえだろ!」
コウモリ隊長の剣が、僕の背中をかすめた。
「うっ――」
痛覚! 斬られてる。着地した僕は上空を見上げた。
が、もうそこにいない。
「こっちだよ!」
後ろから側頭部を蹴られて、僕は吹っ飛んだ。
「クィード!」
プリシアの声がする。くそ……相手が空中だと攻撃できない。
「オラオラオラッ!」
コウモリ隊長は空中から、僕に向かって連続で斬りかかってくる。
僕はなんとか剣で守っているが、反撃をしようとした瞬間に上空に逃げられる。
「く……このままじゃ――」
せめて――地上に落せれば。そう、思った瞬間だった。
「竜閃光!」
眼の前を閃光が通り過ぎる。
その閃光の先には、コウモリ隊長。光線はコウモリ隊長の、右羽を斬り裂いていた。
「な――なんだとおぅっ!」
コウモリ隊長が地面に落ちてくる。
プリシアだ。――プリシアが、人差し指から光線を放ったのだった。
「オオォォォーッ!」
僕は咆哮した。剣を肩に担ぐと、斜めになって落下しているコウモリ隊長の肩から真下に斬り下ろす。
剣が――コウモリ隊長の身体をすり抜けた。
「ガ……ガバッ――ブエッ!」
奇怪な声をあげて、コウモリ隊長の上半身が斜めに割れて落ちる。
二つになったコウモリ隊長は地面に落ち、そのまま動かなくなった。
「ふぅ……」
僕は息をついた。手に持った剣を見る。
「――あんまりいいもんじゃない。僕は治す方が専門だし」
そう言うと、僕は剣を放ってプリシアの元に駆け付けた。
「ありがとう、プリシア。おかげで助かったよ」
「まだ少し、力が残ってたようですわ」
プリシアが微笑む。僕は周りの兵士たちを見回した。
ほとんどが倒れて動けなくなってる。と、その兵士たちの身体から、何か紫の光の粒が浮遊してきた。
「な……なんだ?」
その紫の光の粒はしばらく空中に漂うと――やがて消えた。
「今のは――」
「なにか……その隊長に近い雰囲気を感じましたわ」
プリシアの言葉に、ようやく僕は思い至った。
「あの光の粒が、兵士たちを操ってたのか……」
操らないまでも、暴力衝動を増大するとか――何か、そういう類に違いない。
そう考えると、兵士たちにも少し同情心が沸いてきた。
「みんな、兵士たちを一応、縛って」
村の皆にそう言いながら、僕は魔力を上昇させる。
「範囲治癒!」
兵士たちにも治癒をかけて、死人がいないことを確かめた。
「クィードは優しいのう」
ガスパル爺さんが、苦笑しながらそう僕に言ってくる。
「けど、こ奴らは連行して、警備隊につきだすぞい」
「うん。事情も事情だし、しょうがないよ」
そう僕が答えると、ガスパル爺さんは頷いた。
「――ヤード、こ奴らは集会所に留置しておいてくれ! さて……クィード、そしてそこのお嬢ちゃん」
ガスパル爺さんは、僕とプリシアを真顔で見つめた。
「ちいと、わしの家に来てくれんかの」
「うん……」
僕とプリシアは、そこから近くのガスパル爺さんの家に行った。
テーブルにプリシアと並んで席に着く。
向かいに座ったガスパル爺さんが、口を開いた。
「お嬢さん、あんた……竜なんじゃろう?」
僕は息を呑んだ。確かに――バレるかもとは思ったけど。
ここはなんとか隠し通して……
「はい」
――って! 素直に認めてるし!
「うん……そうか。そういう時がきたか――」
そう呟くと、ガスパル爺さんは立って何処かへ行く。
少しして小さな箱を抱えて戻ってきた。
それをテーブルの上に置いて、ガスパル爺さんは言った。
「これはな、お前の父――ルヤードから預かったものじゃ」
「父さんから?」
ガスパル爺さんは、小箱の蓋を開ける。
そこには、金の平たい板でできた輪っかが入っていた。
「これは――ブレスレット?」
「そうらしいのう。これはルヤードが亡くなる前にわしを呼んで、『もしこの村に竜が現れたら――クィードにわたしてほしい』と頼まれて預かったものじゃ」
僕はガスパル爺さんの言葉に、驚愕を抑えきれなかった。
「父さんが……この村に竜が来ることを――予見してた?」
――一体……どういうことなんだ?




