4 竜核授与
歩いて来るプリシアは凛とした顔つきで、こちらを見つめている。
その姿に、僕に剣を刺している隊長が声をあげた。
「ほう! どうやらお前は、結構な力の持ち主らしいな! 俺とやろうというわけか」
隊長は下舐めずりをして、僕の腹から剣を引き抜いた。
しかしプリシアは隊長の言葉には答えず、僕だけを見ている。
そして両掌を僕に向けた。
「竜核授与」
その掌から白く輝く光の球が発射された。
光球は隊長の傍を通り抜けて、倒れている僕の胸に当たる。
「うっ――」
光の球が――僕の中に入り込む。
すると、自分でも判った。
――力が沸いて来る。
腹の傷が、勝手に治っていくのが判る。
僕は立ち上がった。が、代わりにプリシアが、その場で膝をつく。
「大丈夫、プリシア!」
「わたしは大丈夫……クィード、あなたに力を授けたの。判るでしょ?」
僕は黙って頷いた。
と、隊長が声をあげる。
「なんだ、貴様は! ――おい、こいつを始末しろ!」
その声とともに、村の皆を刺した兵士たちが、僕を取り囲んだ。
いきなり一人の兵士が、僕に斬りかかってくる。
僕は下がりながら、思わず腕で頭をかばった。
と、その剣が僕の腕をかすめる。
「痛っ!」
僕の腕から血が流れる。その兵士は下まで振り下ろした剣を、もう一度振り上げようとしてる。
攻撃させちゃダメだ! 剣を振り上げる前に、僕はその兵士に向かった。
「わあぁっ!」
僕はその兵士を両手で突きとばす。
――と、その兵士が信じられないほど凄まじい勢いで吹っ飛んでいった。
かなり先にある大木に当たって、がくりと崩れ落ちる。
「え……」
僕も――その兵士たちも、驚愕に眼を見開いていた。
考えられない程の力で吹っ飛んだ兵士を見た後に、僕に視線が集まる。
「――そいつを殺せ!」
隊長の声で、兵士たちが我に返る。兵士たちが剣を振り上げて向かって来た。
見ると、一番近い兵士がもう迫ってきている。
僕は先に駆け出した。速い! 今までの僕では考えられない速さで走っている。
その兵士がまだ剣を振り上げてる時に、僕は兵士の懐まで入り込んでいる。
「わああぁぁっっ!」
またその兵士を両手で突き飛ばした。やはり兵士は凄い勢いで吹っ飛ぶ。
やっぱり……僕は自分の手を思わず見た。
力も――速さも、考えられないくらい能力が上がっている。
プリシアを見ると、プリシアは微笑みを浮かべていた。
「これが……竜の力――」
呟く僕の背後から、兵士が斬りかかって来る。
僕は瞬時にかわすと、その兵士の顔を鎧の上から殴った。
「ごはぁっ!」
兵士が吹っ飛んで動かなくなる。
あ――いや、こんな事をしてる場合じゃない!
「この野郎!」
斬りかかって来る兵士の腕が上がったところを、僕は踏み込んで止めた。
ふと気づいたが、さっき斬られた腕の傷がもう治っている。
「邪魔しないで!」
僕はその男の脚の間に腕を入れると、頭上に担ぎ上げた。
「わああっ、降ろせっ!」
「降ろすよ!」
僕は兵士たちの集団に向かって、担いだ兵士を投げつけた。兵士たちが転倒して、もつれあう。
その間に僕は魔力を上昇させた。
「範囲治癒!」
僕の周囲に治癒の波動が広がる。傷つけられた村のみんなを治さないと。
「う……」
村の皆が、治癒がきいて動き始めた。
あ、ちょっと痛めつけた兵士まで回復してる。が、まあ仕方ない。
ぼくは治癒を止めると、村の皆の方に駆け寄った。
「みんな大丈夫!? まだ致命傷の人はいる?」
「大丈夫じゃ、クィード。お前のおかげで、わしも平気になった」
ガスパル爺さんが、身体を起こしながら僕にそう言う。
僕は傍に落ちてた兵士の剣を拾うと、ガスパル爺さんの縄を切ってやった。
「みんな、こっちに集まって!」
村の皆に声をかけると、プリシアを含めてみんなが集まる。僕はガスパル爺さんに剣を渡した。
「みんなの縄を切ってあげて」
「まかしとけ!」
ぼくは村の皆を背に、兵士たちに向かって一歩前に出た。
「お前たち……よくもひどいことをしたな。許さないぞ」
僕が兵士たちを睨みつけると、隊長が声をあげた。
「あいつを殺せ!」
兵士たちが動く――その前に僕は飛びこんでいた。
自分が彼らよりずっと速く動ける。もう、その自覚がある。
彼らが眼で追えない速さで急接近すると、僕は一人の兵士の腹に拳を叩きこむ。
鎧が凹む――が、威力は内部にまで伝わってる。
「グファアァッ!」
声をあげて吹っ飛ぶ兵士を見もせず、僕は次の兵士の側頭部を殴る。
さらに身体を回転させて裏拳で別の兵士を殴った後、横から向かって来てる兵士に前蹴りを喰らわせた。
その一瞬の時間の後、一斉に兵士たちが吹っ飛ぶ。
「ヒ……ひぃぃ――」
「バ、バケモノだあっ!」
一人の兵士が逃げ出そうとした。その兵士の前に隊長が立ちはだかる。
次の瞬間、逃げ出そうとした兵士の背中から、剣が貫き現れた。
「ご…ぶぅっ――」
兵士が口から血を吐いて地面に倒れる。
「なんてことをするんだ!」
僕は思わず声をあげた。が、隊長はかまわず兵士たちを怒鳴りつける。
「逃亡する者は俺が処刑する! 死にたくなければ――そいつを殺せ!」
「ヒィ――」
「は、はぃぃっ!」
兵士は恐怖の表情を浮かべながら、僕に襲いかかってきた。
「なんて奴だ……」
もう、兵士たちに戦う気力はない。動きに勢いがない。
僕は攻撃をかわすと、兵士たちを次々と殴り倒した。
僕に倒された方が、まだマシなはずだ――
「チッ、どいつもこいつも……使えん奴らだ!」
「お前……」
僕は隊長を睨みながら、歩を進める。
「僕は……この村に生まれ育って、この村の人以外に会ったことないから
――人を嫌いになったことがなかった……」
「ははんっ! そりゃあ、お花畑で育ったお姫様のようだな!」
隊長は小馬鹿にするように、僕に向かって口を開く。
「けど、今――僕はお前のことが嫌いだ!」
僕は剣を拾いながら、隊長に突進した。




