3 村の惨劇
鎧を身にまとった兵士たちが、家の中へと入って来る。二人の兵士は、僕らを見ると声をあげた。
「お前ら、この村の者だな! おとなしくしろ!」
「どうしたんですか、一体?」
そう訊ねようとした僕と前に、いきなり剣の切先が向けられる。
「ヒッ!」
「訊ねるのは我々であって、お前たちじゃない! 席から立て!」
僕は言われた通りに、席から立つ。
「そっちの女もだ! ――我々は竜討伐戦団だ! この村に竜が逃げ込んだという情報があった。お前たち、知ってることはないか!」
僕は驚きをぐっと堪えて、兵士に答える。
「……知りません。なにも」
「女の方は、どうだ?」
「わたしは――」
「プリシア!」
僕はプリシアが何か言う前に、声をあげた。
「何も見てないし、知らないだろ? 僕ら、ずっと一緒にいたじゃないか」
「――何も知りません」
プリシアは、剣を向ける兵士を睨みながらそう答える。
兵士たちは薄着のプリシアをじろじろと見ていたが、声を上げた。
「――お前たちは、怪しいな。おとなしく縛につけ!」
そう言うと、上官らしい兵士が顎をふる。と、部下らしい兵士が縄を持って、僕の背後に廻りこんだ。
「な、なにをするんですか!?」
いきなり僕の腕が後ろに回され、両腕を手首で縛られる。
僕を縛った兵士は、今度はプリシアの背後に廻り込んで手首を縛ろうとする。
プリシアの表情が変わった。
「プリシア、待って! ……ここは落ち着いて。いう事をきこう」
「クィード――」
プリシアが口惜しそうな顔をする。
けど、この兵士たちは竜が人間の姿になれるということは考えてないっぽい。ここは黙ってやりすごした方が、プリシアのためだ。
「おい、表へ出ろ!」
「何処へ行くんですか?」
「集合地点だ」
兵士はそう言うと、にやり、と笑いを浮かべた。
僕らは剣を向けられたまま、山道を歩かされる。やがて村の集会所のある場所にたどり着いた。
そこには既に、村の人たちが全員集められている。皆、後ろ手に手首を縛られているようだった。
その村人たちを囲むように、十人ほどの兵士たちの姿も見える。
「爺ちゃん! これは何事なの?」
「わからん――おい! あんたがた、どういうつもりか知らんが、こんな勝手な真似が許されると思うなよ」
ガスパル爺さんがそう兵士に向かって声をあげる。
僕たちを連行した兵士が、一番、上官っぽい兵士に報告に言った。
「これで全戸のようです。隊長、若い女がいました。しかも素晴らしい美人です」
「なんだと? 見せてみろ」
隊長、と呼ばれた男が笑みを浮かべて、僕らを連れてきた奴に言う。
兵士はプリシアの腕を掴むと、隊長の前に引き出そうとした。
「待って! 彼女は怪我人なんだ! 手荒な真似はしないでくれ!」
僕はそう声をあげた。と、いきなり、僕を連れてきた兵士が僕の腹を殴った。
「勝手に口をきくな!」
「ぐぅっ――う……」
腹に受ける重い衝撃に、僕は呻く。
「クィード!」
振り返るプリシアが、悲鳴に似た声をあげる。が、プリシアは、隊長の前に引き出された。
隊長がプリシアの細い顎を掴んで、間近でその顔を眺める。
「ほう……これは相当の美女だ――。こんな片田舎に、こんな美女がいるとはな。お前、プリシアというのか?」
「触らないで――汚らわしい」
プリシアが顔を背ける。と、隊長が薄ら笑いを浮かべた。
「気の強い女だな……クク」
「――おい、竜討伐戦団とか言ったな? わしらは竜など知らんし、村にも来とらん。おとなしく引き上げてくれ!」
ガスパル爺さんが、そう声をあげた。
隊長はその声を聴くと、プリシアから離れてガスパル爺さんの傍まで歩いて来る。隊長は、ガスパル爺さんに言った。
「竜を見てないだと? そう言ったか」
「そうじゃ! わしらは何も知らん」
「そうか……じゃあ、用無しだな」
隊長はそう言うと、いきなり持っていた剣をガスパル爺さんに突き刺した。
「爺ちゃん!」
「ガスパル!」
「何をするんだ、あんた!」
僕も村の皆も、急に起きた惨劇に声をあげた。
「う……ぐぅ――」
小さな呻き声をあげると、ガスパル爺さんが地面に倒れる。
「爺ちゃん!」
僕は駆け寄った。と、隊長が大声をあげる。
「おい、村人はこの女以外、用済みだ! 全員、片付けろ!」
「なんだって! お前たち、正気か!」
「どういうつもりだ!」
村人たちの声に、隊長は笑った。
「お前たちを全員片付けたら、各家から金目のものを持ちだして家を焼いてやる。そして報告するのだ。『残念ながら、村は竜によって全滅させられてました』とな」
あまりことに、村人たちは声を失う。その傍らで兵士たちが全員、剣を抜いた。
僕は倒れたガスパル爺さんに、後ろ手で治癒魔法をかける。
「爺ちゃん、しっかりして!」
「クィード……逃げるんじゃ……」
ガスパル爺さんは倒れたまま、僕にそう言った。
が、しゃがんでる僕の眼の前に影が差す。眼の前に、隊長が来ていた。
「お前、治癒士か?」
「……そうだ」
いきなり前蹴りで、顔を蹴られた。
「ぐあっ――」
僕の身体が吹っ飛ばされる。
「面倒な奴がいたものだ。お前は生かしてはおけんな」
隊長は転がる僕を追ってくると、剣を振りかざした。
次の瞬間――僕の腹に剣が突き刺さる。
「うっ! ぐああぁぁぁ――」
痛い! 腹の入り込む遺物に、僕は呻き声をあげた。
「ククク……痛いか? 安心しろ、すぐにそんな痛みなど感じなくなる。――おい、お前たちもその連中を始末しろ!」
「「「ハッ」」」
兵士たちは返事をするとともに、村の皆を襲い出す。
みんなが悲鳴をあげて逃げまどう。サラン婆ちゃん、リディックおじさん、トムのおやっさん、フイーメおばさん――
みんな……みんなが次々と刺されて倒れる。
どうして……何故、こんなことに――
僕は苦痛の中で、涙を流した。痛いからじゃない。
悔しくて、苦しいからだ。みんなが倒れていくのに……治癒士の僕は、何もできないのか――
「もう、我慢が出来ませんわ!」
突然、プリシアの怒号が上がった。
「おい、おとなしく――」
プリシアを捕まえようとした兵士が、いきなり吹っ飛ばされる。
手を縛っていた縄を引きちぎって、プリシアが裏拳をあてたのだ。
「な――なんだ…」
兵士たちが驚く中、プリシアはこっちに歩きながら厳かに言った。
「クィード……あなたに――わたしの力を授けます」




