2 竜姫プリシア
また少女の姿に戻った竜は、地面に倒れたままだ。
「仕方ないな……また、ベッドに運ぶか」
僕は少女に近づいて、腕をとって肩に担ごうとする。と、少女が眼を見開いた。
「お、お前、わたしに何をするつもりだ!」
「なにって……治療だよ。ひどい怪我してるじゃない」
「治療――?」
「あ、僕は治癒魔導士のクィード。安心して、治せばラクになるから」
僕はそう言って笑ってみせる。
患者さんに不安を与えない。これは僕が父さんから習ったことだ。
「そ……そう…なの……」
なんか少女はそう呟くと、おとなしくなった。
今度は背負わなくても、なんとか肩を貸して歩いてもらえた。で、ベッドに寝てもらう。
「あのさ。傷口に集中した方が治りが速いから、その鎧を脱いでもらえないかな」
「この――衣装ね…」
少女がそう言うと、全身が光って、止む。
と――いきなり、裸の乳房をあらわにした少女の姿が横たわっていた。
「わ! わわっ!! あのっ、上半身には何か着てください!」
僕は眼を覆いながら、少女にそう言った。
「え……見るのもイヤなの…?」
「そうじゃなくて! その……女の子は、胸とか異性に簡単に見せるものじゃないから! だから、脇腹が見えるような服を着てください!」
「わかった」
そう言うと、少女の身体が光る。恐る恐る目をやると、薄いタンクトップを上半身に身に着け、下にはショートパンツをはいた少女の姿があった。
……充分、露出の多い格好だとは思うが、とりあえず患部を見ないと。
「ちょっと傷口見せてね」
僕は脇腹のところを少しめくる。痛々しい傷口が、そこに広がっていた。
「治癒!」
僕は手をかざして、治癒の光をあてる。と、少女の表情が、なにか妙な感じになってきた。
「ちょ……ちょっと…これなに?」
「これって――治癒魔法だけど」
「なんだか…気持ちよすぎるんだけど……」
少女が赤い顔でそう言う。と、不意にその首をのけぞらせ、少女が喘いだ。
「あンぅ……」
「え? なに――」
「ん、んン……あ、あぁン……」
ちょっと少女の様子がおかしい。何か悶えてる。
「ああン、あっ、あはンッ……んんっ――くふぅ……」
少女はピンクに濡れた唇を半開きにして、喘ぎ声を洩らし続けている。
「あン、ああァンッ、んっ――んっ、んうっ、くふっ、あああぁぁンっっ!」
少女がビクンと身を震わせると、はぁはぁと息をついて僕を見る。
「ちょっと……わたしに…なにするんですか――」
「いや、だから、治癒ですってば!」
「ほんとなんですか……」
少女は顔を赤らめたまま、涙目になって僕に眼を向けている。
「あ、あの――傷の具合はどう?」
「あ……ちょっといいみたい…。まだちょっと痛むけど……」
少女は上半身を起こして脇腹を手でさすると、納得したようだった。
けど、僕は納得できなかったんだ。
「どうして――完全治癒できないんだろう?」
患部に対して、かなりの治癒を施したはずなのに、まだ深部が治ってる感じがしない。それは僕も感じてた――完治してないんだ。
「多分……滅竜士から受けた傷だからです」
「ドラゴン・スレイヤー?」
悪い竜を退治するっていう――あの伝説の職業?
「けど……僕が父さんから聞いた話では、ほとんどの竜は悪いことはしないって」
「わたしたちもそうです! 何も悪いことなんか――わたしたちの間だけでなく、人に対しても悪いことなんかしてません! それなのに突然……兵士たちがやってきて、わたしたちの集落を襲ったんです。あ――」
そこで少女は我に返った。
「どうしたの?」
「お父様……」
少女は両手で顔を覆った。
「滅竜士に傷つけられた、わたしに逃げるように言って――兵士たちを一人で相手にしてた。お父様が……どうなったのか――」
少女はそう言うと、くすんくすんと泣き始める。
困った。実のところ、僕は女の子の慰め方なんか知らない。
というか、同年代の女の子に会うこと自体、初めてなんだ。
ずっと山奥で父さんと、村の年寄りに囲まれて暮らしてたから、同年代の子と会ったことがなかった。こんな時、どんな風に女の子を慰めていいか判らない。
「あの――きっと心配だろうけど……まず、君の身体を治すことも大事だと思うよ。君が元気にならなきゃ、その後、なにもできないしね」
僕がそう言って微笑んでみせると、少女は涙目ながらも僕を見た。
「あなた……優しいこと言うのね」
「治癒士のクィード・ロランだよ。ね、君の名前は?」
「……プリシア」
少女がそう名乗ったので、僕は言った。
「君が竜ってことは、お父さんも竜なんでしょ? そんなに簡単にはやられないんじゃないかな? 君を逃がした後に、お父さんも逃げてる可能性も高いよ」
「そっか……」
プリシアは、少し元気が出たように、僕に向けて微笑んで見せた。
「ありがとう、クィード。うん、そんな気がする」
「そうだね。元気になったら、お父さんを探しにいけるんじゃないかな」
僕がそう言うと、プリシアはにっこり微笑んだ。
その時、不意に気付いたが――この子、凄く美人な上に可愛い顔立ちをしてる。
「――お父様はね、光龍王レイミアードなのよ」
「へ~、光龍王レイミアード……ってぇっ!? ええぇっ!? ちょっと待って、伝説の龍王?」
「うん」
「ってことは……君は竜姫?」
「はい」
プリシアは屈託のない顔で微笑んだ。
が、僕は驚愕のあまり声も出なかった。
龍王と言えば、光・影・火・水・土・風の六属性に連なる、六大龍王のことだ。
もう、それは伝説の域だ。その伝説の龍王の娘が――この子?
僕はその可憐な笑顔の正体に、驚くしかなかった。が、その時、ぐ~っと何かなる。と、プリシアが顔を赤らめた。
「あの……ちょっと、お腹が空いたみたい…です」
「あ、そうだね。とりあえず、昼ご飯にしようか」
よかった。龍王の娘、竜姫もお腹すいたりするんだ。
ヘンな安心感が出たので、僕はやっと緊張が解けた。
「立てる? あっちのテーブルまで行こうか」
「あ……はい」
僕が手を出すと、プリシアは顔を赤らめながら、僕の手をとってベッドから足を降ろした。
プリシアが席に着くと、僕は蕪と山鳥のスープ、それとパンを出す。
「一応、こんな山の中じゃご馳走なんだけどね。口に合うといいけど」
「……凄く美味しそうな匂い――」
プリシアは匂いをすぅーっと吸い込むと、スープを口にした。
「美味しい!」
「そう、よかった」
正直、竜が何を食べるのは知らないが、美味しいならよかった。
「人間の時に食べるものって、こんなに美味しいのね」
「竜の時は――どんなもの食べるの?」
「生肉!」
……まあ、そりゃあそうか。と、思った時、不意に玄関から声がした。
「おい! この家の住人は何処だ!」
そう怒鳴り声がしたかと思うと、二人の兵士がズカズカと家に入ってきた。




