第一話 竜姫との出会い 1 何故、こんな処に少女が?
今日ものどかな一日だ。天気はいいし、村のみんなも元気。
村の皆の往診を終えて、僕はそんな気分で森を歩いている。
そう、僕はこの山深い村の唯一の治癒士、クィード・ロラン。17歳。
なんで17歳で治癒士をやってるかというと、治癒士だった父さんが半年前に死んだからなんだ。
治癒魔法は父さんから習ってたから使えるけど、まさか自分がその技で村のみんなを癒すことになるなんて、あんまり現実味はなかった。
けど村には他に治癒士はいないから、僕が頑張らなきゃいけないんだよね。
と、言っても村の人口は22人。村にいるのは基本はお年寄りばかりで、平均年齢は多分、70歳くらい。どちらかっていうと、孫を可愛がるみたいに僕を可愛がってくれる人ばかりだ。
そんな感じだから往診に行くと、どこも悪いところがなくても採れた野菜とか、保存食をくれたりする。正直、そんなに収入はないけど、それでなんとか食べていってる感じ。それが僕の――この辺境での暮らし方。
このイブカー山中のカタナカ村周辺には、危険なモンスターもいないし、のどかなものだ。村のみんなで一番危険なのは転倒で、これが一番治癒が必要な症状。まあ……大怪我なんかほとんどしないから、そんなに治癒の大技も使ったことないんだけどね。
「今日は蕪を貰ったから、蕪のスープにするかなあ」
そんな独り言を言いながら、僕は山道を一人で歩いて行く。
木漏れ日が綺麗で、この村の風景が僕は好きだ。
――と、ふと見慣れないものが山道の先に見えた。
獣の死骸……じゃないぞ。多分、人だ!
僕は慌てて駆け付ける。やっぱり人だ!
顔を見ると――女の子だ! 若い。金髪が顔にかかって、眼は閉じたままだ。
白い鎧を着ていて、地面に横たわったまま動かない。
「ちょっと! 大丈夫ですか!?」
声をかけるが、返事はない。――いや、何故、こんな処に少女が?
よく見ると、頬に擦り傷があるし、手にも血の乾いた痕がある。怪我してるんだろう。
「すいません、鎧を脱がせますね!」
一応、声をかけてから鎧を脱がせようとする。が――
「……え? これ、どっから脱がすの?」
なんか、留め金とか紐とかの類がなくて、どっから脱がせるのか判らない。
本当は患部が判ったほうが、治癒魔法も効果的なんだけど……
「仕方ない。このままで治癒!」
僕は少女に手をかざして、どこが負傷してるか判らないから、まんべんなく治癒の光を降り注いだ。
「ン……うン…」
小さな声が少女の口から洩れる。
「ふぅ……とりあえず生きてる。よかった」
ちょっと安心した。とりあえずこんな山道に放っておけないから、家に運ぼう。家は診療所も兼ねてるし。
そう思って僕は少女の上半身を起こして腕を取り、肩越しに担ごうとした。が!
「え――? ちょっと! 凄く重たいんだけど!」
簡単に担ぐのは難しく、信じられないくらい重たい。
「なんだこの重さ……? この鎧のせいなのか?」
判らないけど、運ばないわけにもいかない。
僕は少女の両腕を持って、なんとか背中に背負う感じにする。
「うん――くしょっ!」
脚に力を入れて、なんとか背中に担ぎ上げた。
けどやっぱり、凄い重たさだ。僕は村のみんなの農作業手伝ったり、老人が多いから重い物運ぶのを手伝ったりしてるから、それなりに力はあるつもりだ。
――けど重い!
ヒィヒィ言いながらなんとか家にたどり着くと、僕は診療所の方のベッドに少女を降ろした。腰まである長い金髪が、ベッドに広がる。
「ふうぅぅ……いや、めちゃくちゃ疲れたな。しかし、改めて鎧をちゃんと見てみるか」
が、やっぱり鎧の外し方が判らない。
「しょうがない。もう一度、入念に治癒をかけて――」
治癒魔法を全身にかけると、少女の口から吐息が洩れ始めた。
「あ……はっ…ん――クゥ……」
心なし顔が赤くなり、血色がよくなってきた。とりあえず、命に別状はなさそうだ。少し休ませておこう。
一仕事を終えた僕は、もらった蕪を洗って料理の準備などし始めた。もうすぐお昼時だしね。
「――お~い、クィード。おるか~い?」
外から声が聞こえてくる。ガスパル爺さんだ。
「いるよ~」
僕は返事をしながら、表へ出て行った。ガスパル爺さんが、にこりと笑う。
「山鳥のいいのが獲れたから、持ってきてやったわ」
「あ、ありがとう爺ちゃん」
ガスパル爺さんは僕の祖父ではないけど、もう爺ちゃんって昔から呼んでる。
けど、このカタナカ村の村長なんだ。弓の名手で、鳥を獲るのがうまいんだ。
ほれ、と手渡された山鳥を貰うと、思わず笑みがこぼれた。
「ありがたい、ちょうど栄養価のあるものが欲しいなって思ってたんだ」
「ん? 誰ぞ、来とるんかの?」
「あ、村の人じゃないよ。なんか、森に女の子が倒れてたんだ」
「女の子?」
ガスパル爺さんは訝りながら、僕と一緒に診療所に入って来る。
「この子だよ」
「ふ~ん、おなごじゃのう。まだ若い。こんな山奥に何しに来たんじゃろうな」
「起きたら聴いてみるよ」
何かあったら知らせてくれ、と言ってガスパル爺さんは去っていった。
僕は庭に出て、山鳥の下ごしらえをする。首を落として血抜きをし、羽毛を取って産毛を焼いて――
「……そこで……なにをしている――?」
ふと気づくと、診療所の方から声がした。振り向くと、あの少女だ。
立っているのがやっとの様子で、柱につかまってこちらを睨んでいる。
「あ、気付いたの? ちょうどよかった。今、お昼を――」
「わたしも……切り刻むつもりか――!」
歩いて庭に出てきた少女が、そう声をあげた。
と、突然、その身体から眩い光が迸る。
「う――眩し……」
僕は思わず、眼を腕で覆う。が、その間に少女から放たれる光は、どんどん大きさを増していった。
「え……」
僕が絶句するなか、光は家の高さを越え、その倍くらいにもなる。
と、不意に光が止んだ。そしてそこに現れたのは――
「ド……ドラゴン――??」
白い竜だ。全身は白く、たてがみや角、そして眼は金色に輝いている。
あの少女が――竜に変身した!?
「わたしを――誰だと思っている! このニンゲンがっ!」
白い竜が吠える。が、その威嚇とは裏腹に、僕はその竜の姿の美しさに、少し魅了されていた。
こんなにも綺麗な生き物が、世の中にいたのか――
「わたしをどうこうしようなどと、思い上がりも――うっ……く――」
なんか竜が威勢よく啖呵をきろうとしていたけど、その途中で声が止まる。どうやら苦痛がひどいらしい。
見ると、右わき腹にひどい裂傷がある。血こそ止まっているが、傷跡はまだ全然ふさがってない。
「あ、ひどい傷じゃないか! 動いちゃダメだよ、おとなしくして!」
「く……この…ニンゲンめ――」
白い竜はそう声を洩らすと、その巨体をバタンと地面に倒した。
「あ! だから、おとなしくって言ってるのに!」
と、その竜の身体からまた光が出始める。と、それはみるみる小さくなって、元の少女の姿に戻ってしまった。




