3 蜂の無差別攻撃
僕はゲゾンに憤っていたが、疑問もあった。
あいつは、こんな大規模な魔法が使えるほどの奴だったろうか?
けど、本人を眼の前にして、その疑問が解けた。
「――何か……薬を使ってるな」
「え?」
僕の呟きに、プリシアが驚いた顔をする。
ゲゾンはよく見ると顔の血管があちこち浮き出て、眼が今にも飛び出そうなくらい血走っている。明らかに異常状態だ。
僕はゲゾンに言った。
「お前、何か薬を使ってるだろ!? そんな強い薬を使ったら――お前自身に反動が来るぞ」
「ハン! こっちの心配か? 心底余計なお世話だぜ、オレはお前らをどうしても殺さなきゃいけねえ。お前らが、こうさせた。そして、お前らのせいで街の連中は巻き添えになったんだよ!」
ゲゾンはそううそぶく。自分でやっておきながら、他人に責任をなすりつけるとか――まったく許せない奴だ。
「話が通じる相手じゃない」
僕は呟いて、気力を高めた。
右手を掲げて、そこを中心に気流の大きな渦を作る。
翼盾の外側に気流の流れを作り、大きく回転させた。此処なら屋外で、竜巻が作れる。
「プリシア、竜巻が出来たら竜光弾をなるべく沢山放って。巻き込まれた虫を一斉に焼き払う」
「判りましたわ」
竜巻を作りながら、僕は左腕の翼盾のブレスレットを外して、レーナに渡した。
「レーナはこれを持ってて、竜巻が切れたら、そのまま遠くに行って隠れてるんだ。いいね」
「わかった」
レーナが真剣な面持ちで頷く。
「よし。――一気に行くよ」
僕は自分の中にある竜核から、竜気を高めた。
しばらく眠らせていた竜気が、ようやく解放される喜びに暴れたがっているようだ。僕はその竜気で、気力を爆発的に高める。
竜気は使い方次第で、魔力・気力のどっちにも転換できる。今は気力に使ったのだった。
「ウオォォォォォォッッ!!!」
僕は咆哮を上げる。気流竜巻が、その規模を爆発的に拡大した。
中央広場一帯は、完全に気流竜巻の圏内だ。
「今だ、プリシア!」
「判りましたわ! 竜光弾!」
両手を頭上に掲げると、光の弾がその空中に一斉に現れる。
プリシアはそのおびただしい数の竜光弾を、竜巻の中に放った。
竜光弾は、巻き込まれた虫を焼きながら竜巻を金色にしていく。
プリシアはどんどん、竜光弾を投げた。
「ようし――ハアァッ!」
僕は一気に竜巻を拡大させて――消失させた。
「行くよ、プリシア!」
「はい!」
僕は竜巻が消えた瞬間、一気にダッシュした。
狙いはゲゾン一人、ゲゾンはまだ竜巻の威力に腕で顔を覆っている。
「ゲゾン!」
僕は爆発的な踏み込みと同時に、掌打をゲゾンの腹に繰り出した。
「旋気内撃破!」
打ったゲゾンの背中側に、気流の渦が起こる。
ダメージは内部に浸透してるはず――ギルガインを倒した技だ。
「……なるほど――通常のオレならこの一撃でやられてたろうな」
眼の前のゲゾンが、血走った眼でにやりと笑う。
「――が、今の俺にはきかねえんだよ!」
ゲゾンが僕をぶん殴った。――凄まじい力で、僕は吹っ飛ぶ。
「あ――が…」
顎が砕かれた。口の中から、血が滴り落ちる。
「クィード!」
僕の様子に気付いたプリシアが悲鳴をあげる。だがそこに、『菓子姫』キャンディーヌが襲い掛かっていた。
「竜の娘、よそ見してる場合じゃないでしょ!」
キャンディーヌは白いパラソルの先端をプリシアに向けて、飴玉の弾丸を連射した。
「あぁっ!」
プリシアが数発被弾した後で、光の壁で防御する。
――く…どうして、ゲゾンに内撃破が通じなかったんだ?
僕が口から血を吐きながらゲゾンを見ると、打ったゲゾンの身体が何か虫の外骨格のような鎧に包まれている。
「クク……虫にはな、脊柱がない。外骨格で身体を支えてるのさ。その『蟲鎧』をオレの周囲に展開させた。つまりオレの身体は今、二重構造の防御力ということだ。お前の浸透系打撃は、蟲鎧を揺らしただけさ」
そう言いながら、ゲゾンの顔まで外骨格に覆われた。
目玉の処が複眼になっていて、頭部に三本の角が生えている――カブトムシのような頭部だ。
「お前はオレが、直接叩きのめしてやる!」
変身を終えたゲゾンが、透明な羽を羽ばたかせながらこっちに突進してくる。
脚力に加え、羽のはばたきが速度を上げている。
「オラッ!」
繰り出した左拳を、僕は後退してかわす。
ゲゾンの拳は数センチ手前で、届いてない。
が――その瞬間、ゲゾンが笑った。
左腕の膨らみから、二本のクワガタの牙状の武器が展開し、僕の身体を挟んだ。
「しまった!」
気流柔術に最も必要な間合いをとれない。
「へっ! 捕まえたぜ……オラァッ!」
そして右腕の膨らみからは、蜂の針のような突起が伸び出す。
ゲゾンはそれを、僕の胸に突き立てた。
「グアァァァッ!」
なんとか心臓を直接刺されるのだけは、避けた。
が、胸に突き刺さった毒針が――僕の体内に毒を注入し始める。
「あ……ぐぅ――」
眩暈がする――息があがって……うまく呼吸ができない。
身体に、力が入らない。
「へへ……ざまあねえな。心底いい気味だぜ」
すぐ近くのゲゾンの声が、遠くから聞こえる気がする。
とにかく――息が苦しい。
まずい……このままじゃ死ぬ。
僕は竜気を魔力に転換した。
「解毒……」
なんとか魔力を振り絞って、僕は自分自身を解毒した。
少しずつ――視界が正常に戻り始める。
「なに……? てめぇ、まさかこの猛毒も解毒してるってのか? ――が、そうはさせないぜ!」
ゲゾンがにやりと笑うと、さらに僕の身体に針を押し込んだ。
毒がさらに僕の身体に流し込まれる。
「ぐぅ……」
駄目だ――毒が強すぎて解毒が追いつかない。
このままじゃ……
「――なんだっ!?」
突然、ゲゾンが僕から跳び退いて距離をとる。クワガタの牙は残したままだ。
と、僕とゲゾンの間を、水の三日月形カッターがすり抜けた。
「あ……あれは――」
僕の霞む視界のなかで――『水禍の』シュラが立っていた。




