第十二話 無差別攻撃 1 精霊神の謎
僕が言った『変装』という言葉に二人は首を傾げた。
「あの――『変装』ってなんですか?」
「二人は人間に『擬態』してるんだよね? その際の衣装は自由に選べるの?」
僕の問いにプリシアは微笑んで答える。
「はい。イメージさえできれば、衣装は変えられます」
「顔とか体型、髪の長さや色なんかは変えられるの?」
「顔と体型はある意味自分自身なんで無理ですが、髪の長さは変えられます。けど――色は無理ですね」
僕はプリシアの答えを聞いて、二人に言った。
「とりあえず髪を短くしようか。二人ともかなり髪が長いからそれを短くして――それで帽子を被ろう。格好は……そう、僕が来てるような男の子の格好で、できたら派手な色が入ってない地味な感じで。できる?」
「やってみますわ」
プリシアはそう言うと、胸の前で両手を組んだ。
眼を閉じる――と、身体が光る。
その光が収まると、衣装が変わったプリシアがいた。
茶色のカーゴパンツにトレーナー、髪はすっかりショートになっている。そして手にした帽子を被った。
「いいね! パッと見た感じだと判らないかも――前が美人過ぎて目立ってたからね」
「まあ! ……クィードってば――美人すぎるなんて……」
そうプリシアは顔を赤らめる。――あ。
地味な格好で髪がショートでも、やっぱり可愛いや。
……いやいやいや! それじゃ、ダメなんだって!
「いや……まだ目立つな――プリシア、眼鏡つけられる?」
「眼鏡? ええ、度なしでよければ」
眼鏡が現れる。うん、これでかなりプリシアの美人度が減った。
「プリシア、すごい! ワタシもやってみる!」
次はレーナが唸ってる。レーナの身体が光ると、レーナの姿も変わった。
ジーンズのオーバーオールに厚手のシャツ、髪も短くなり黒のキャップを被っていた。
「レーナもいいね! すっかり男の子みたいだ」
「街を歩いた時に、男の子がこんな格好をしてたのを見たの。ちょっといいな――って思って」
レーナはそう言って、にっこりと笑う。
「よし、これならちょっと見には判らないだろう。街の図書館に行ってみよう」
「はい!」
僕はフードを頭から被って、少し目立たない格好にする。
とりあえず街に入って、僕らは街の人に図書館の場所を訊いた。
「ああ、それなら――」
「ありがとうございます!」
すぐに場所が判り、図書館に到着する。図書館は大きな石造りの建物で、僕らはその大きさにびっくりした。
「ここが……図書館? ここに本がいっぱいあるんですの?」
「そ、そうなんだろうね――」
こんな建物いっぱいにある本の中から、必要なことを調べられるのか?
ちょっと不安になったが、その前に僕はふと気づいた。
「……そういえば、だけど。二人とも、人間の文字は読めるんだよね?」
「読めますわ! ――ちょっと、ですけど……」
「ワタシ、あんまり得意じゃないかも……」
なんか、二人の声が小さくなる。ま、二人とも竜なんだから、当然といえば当然なんだよね。
「大丈夫、少しずつ慣れて行けばいいよ。じゃあ、入ってみようか」
僕は二人を連れて図書館に入った。
中には多くの人と、ずらりと並んだ本棚。
「わぁ……どうしましょう。本がこんなにいっぱい――」
プリシアが戸惑ったように、声をあげる。
僕は案内を見ると、とりあえず子供用の本が並ぶ一角を見つけてレーナに言った。
「レーナは、この辺で読めそうな本を見てて」
「うん!」
元気よくレーナが頷くと、通りかかった眼鏡の女性が僕らに言った。
「あの――すいませんが……」
「あ、はい?」
どうやらこの図書館の係の人らしい。
「図書館では静かにお願いしますね。静かに本を読んだり、本を探してる人が多い場所ですから」
「あ、はい――判りました」
僕らが恐縮してそう答えると、係の女性はにっこりして去っていく。
僕は気を取り直して、小声でプリシアに言った。
「じゃあ、僕らは何か――ヒントになる本を探そう。『竜災事変』や『滅竜魔法』について書かれてる本だ」
「判りましたわ」
僕らはそれで手分けして、本を探すことにした。
……は、いいけど。やっぱり本が多くて大変だ。
それに歴史書は古いことは書いてあるけど、最近のことはあまり書かれてない。
――『竜災事変』が十八年前。最近すぎるのか?
「あ、あったぞ――」
一冊、『竜災事変の真実』という本があった。薄い本だ。
本を手に取って、頁をめくってみる。
……疑問があった。『竜災事変』は一頭の龍王の陰謀によって、他の龍王が操られ、巻き起こされた事件だ。
けど、ネフィーラからも誰からも、その操っていた龍王が誰なのか訊いてない。
「ここにあるぞ――『実のところ、竜による災厄が続いていたのは事実であり、光龍騎士と呼ばれた者たちが、それを終息に導いたことは間違いがない。が、その背後にあるのは、竜たちと光龍騎士が取引、あるいは盟約を結んで竜災事変を終息させたという隠された真実である』」
――なんだって?
「なんだこれっ!」
僕は思わず声をあげた。――と、周りの人の視線が一斉に集中したのに気づく。
「あ……す、すみません――」
僕はペコペコと周囲に頭を下げた。
――しかし……なんだこれ!? なんだ、この嘘の記述は!
しかも嘘を書いておきながら、竜災事変の『真実』!?
どこが真実なんだよ! どの辺が!!!
「その証拠に光龍騎士たちは、龍王たちを操っていたという龍王の名前を明かしてない。当然である、そんな者はいなかったのだから。事実は龍王たちと光龍騎士たちが裏取引したために、その名を明かせなかっただけである」
……ちょっと怒りが沸いてきた。
けど――操っていた龍王を証てないのは事実だ。けどそれは……
「――『本当の敵』が、その龍王を操ってたからだ。けど、それを明らかにすれば、『龍災事変』はまだ終息してないことになる。けど、国はそれを明るみにすることをよしとしなかった。そのために光龍騎士たちは、『本当の敵』について語る事を禁じられた……」
――そういう事か。そうなんだろう。
けど、だからと言って……こんなデタラメを書いたのは誰だ!
「著者は――ジャルドー・クローラ。何者なんだ、この人」
裏表紙の方を見ると、『来神教団』とある。これが発行元らしい。
――教団が、こんな嘘を率先して出版してるのか?
どうも、この教団には、いい印象が抱けない。それに本が多すぎて……正直、疲れた。なんか、ネフィーラの訓練なみに疲れた気がする。
とりあえず、けっこう時間も経ったからプリシアを探そう。
そう思ってプリシアを探すと、何処にも見当たらない。
しょうがないのでレーナがいる児童書のコーナーに行くと、そこにプリシアがいた。レーナに小さな声で本を読んでる。この一角は、小さい声ならいいらしい。
「プリシア、ここにいたんだね」
僕が声をかけると、プリシアは恥ずかしそうにうつむいた。
「すみません……ちょっと、向うの本は厚くて難しそうで――尻込みしてしまいました」
僕は笑ってみせた。
「そうなんだ。まあ、今日は初めて来たんだし、まだ慣れてないんだから」
「そうですね。――ただ、ちょっと気になることがあって」
「なに?」
僕が訊くと、プリシアは答える。
「わたしは子供の頃から、精霊神について聴いてたんですけど――」




