4 テントでの一夜
少し困った僕を見て、プリシアが声をかけてきた。
「クィード、どうしました?」
「うん……いや、とりあえず、今夜は野営しようか。街に戻るのも不安があるし」
「そうですね」
プリシアはそう言って、にっこりと微笑した。
僕らはもう少し森の奥に入り、少し開けたいい場所を見つける。
「うん、此処で野営しよう。テントを張るから、二人は食事の準備を始めてて」
「は~い!」
レーナが元気よく声をあげる。
テント張りはレフィーナの処で、『必ずこの先に必要になるから』という事で教え込まれた。もう大分、手早く設営できるようになったんだ。
テントを設営してしまうと、食材の下準備を終えたプリシアたちと合流する。
「プリシア、火つけて」
「はい」
プリシアの光魔法で火を起こしてもらうと、後は僕が調理した。
レーナはテントを始めてみるらしく、中に入ってはしゃいでいる。
「ご飯ができたよ~」
夕方、森が薄暗くなってきたところで、僕らは食事をとった。
焚火の灯りが、プリシアとレーナを照らす。
二人は嬉しそうに、食事をとった。
あんな危険な目にあったのが、嘘のようだ。
――このまま三人で、楽しく旅を続けられたらいいのに。
けど、シュラに龍王具の場所を訊き出さないことには、光龍王を助けられない。
そして多分、光龍王を襲った滅竜士の場所が判らないと、レーナの妹リーナの居場所も判らないだろう。
……今は束の間の休息だ。けど、だったらなおのこと、楽しく過ごしてもらいたい。
ご飯を食べると、レーナはもう眠たそうな顔をしている。
無理もない。急に襲われて、僕を身をもって助けてくれたりした。
緊張もしたろうし、疲労もあるだろう。
「じゃあ、もうみんな寝ようか」
「うん」
「そうですね」
僕らは揃ってテントに入る。テントは三人なら充分に寝られる広さだ。
寝袋に潜りこむと、レーナはもう寝始めていた。
「おやすみ、レーナ」
「おやすみ……なさい…」
レーナが寝てしまう。と、僕はプリシアに囁いた。
「プリシア、身体はどう?」
「実は……」
プリシアがそっと囁く。テントに吊るしたランタンのオレンジの灯りで、プリシアの顔がほてって見えた。
「さっきからもう……疼いてしまっていて――」
プリシアが目を伏せて、顔を苦しそうな顔をしている。
すると――力が抜けたように、寝袋の上に横たわった。
プリシアの身体が光ると、薄着のタンクトップとショートパンツの格好に変わった。ランタンの弱い灯りで、身体の陰影がくっきりと浮かび上がる。
その豊かな隆起を覆うように胸を抱きしめて、プリシアは小さな声で囁いた。
「お願い……クィード…わたし、もう――」
プリシアが切なげな顔でそう口にする。
「判ったよ、プリシア」
けど――ふと、思った。
例によって、プリシアはどうしても声をあげてしまうんじゃないだろうか?
そうすると、レーナが起きてしまう。
……それに、ちょっと、レーナのあの声を聞かせたり、悶える姿を見せるのはどうも――刺激が強すぎる気がする。
「プリシア、ちょっと待ってて。レーナが起きるといけないから、睡眠の魔法をかけとくよ」
僕はレーナに睡眠の魔法をかける。これで相当の物音でも起きることはない。
「クィードって、睡眠の魔法も使えたんですね」
「睡眠は身体回復の基本だからね。治癒士は大概使えると思うよ。ただし、強制的に対象を眠らせることができるほど、強力じゃないんだ」
僕はそう微笑んだ後に、プリシアに言った。
「それじゃあ、プリシア――いくよ」
「はい……」
僕は横たわるプリシアの脇腹を少しめくる。
やはり――滅竜の紋章がくっきりと浮かび上がっている。
僕は治癒の光を浴びせた。
「治癒」
「あ……」
プリシアの唇から、声が洩れる。
僕はそのまま、治癒の光を浴びせ続けた。
「あ……ン…」
「大丈夫、プリシア?」
「ンく……なんだか、いつもより……その――」
プリシアが顔を赤くして、涙目になっている。
「どうしたの? 苦しいの?」
「いいぇ……逆で――刺激が強すぎて……あン!」
プリシアの身体がビクリとのけぞる。
僕はそのまま、掌をかざし続けた。
「あ……は…うン――あン、あっ、あぁ……」
プリシアが白い喉をみせて、顔をあげる。
その豊かな胸がランタンの灯りの下で、柔らかく揺れた。
「あぁ――あン、ああン……くぅ――ハッ、あ、ハンっ、あぁンッ――」
プリシアが手を伸ばして、かざしていない方の手を握ってくる。
その細い指は、探るように僕の指に絡めてきた。
僕はその指を握り返しながら、プリシアの身体を癒した。
「あっあっあぁっ――ああンッッ!」
プリシアが一際大きな声をあげて、身悶えした。
と、その動きが止まる。紋章の光も収まった。
プリシアは荒い息を吐いている。
「大丈夫、プリシア?」
「だいじょうぶ……じゃないです」
「え? そうなの? まだどこか痛む?」
僕は心配になって、涙目になっているプリシアに訊いた。
プリシアが小さく首を振る。
「どこも……痛くはありません」
「じゃあ、どうしたの?」
僕は不思議に思って訊いた。と、プリシアが恥ずかしそうに、顔を横に向ける。
「わたし……どうしたら、いいんですか? こんな風に毎日…クィードに癒してもらって……」
プリシアが頬を赤らめて、僕を見つめる。
多分、ランタンの灯りのせいだけじゃない。その薄明りの中で、プリシアがとても可愛く見えた。
「大丈夫だよ……僕が毎日、癒してあげる」
「クィード―――」
プリシアが嬉しそうに微笑み、僕の手をギュッと握ってきた。
僕はその手を――柔らかく握り返す。
「けど……やっぱり辛いよね。ネフィーラが解呪の方法を探してくれてるけど――僕らも、それを探そう」
「そう……ですね」
プリシアはそう言って、小さく微笑んだ。
朝になり、僕は用意した朝食を食べながらプリシアとレーナに言った。
「やっぱり、あのシュラに龍王具の場所を聴かなきゃいけないと思うんだけど、それと並行して滅竜士の呪いについても調べたい。で――街には図書館ってものがあるってネフィーラに聴いたんだ」
「「図書館?」」
プリシアもレーナも、首を傾げる。竜の暮らしには、図書館はないらしい。
「本が沢山置いてある処だよ。本には色んな事が書いてあるから、それを調べれば過去の事とか、解呪のこととか判るかもしれない。それで、また街に戻ろうとおもうんだけど――」
「――滅竜士たちに見つからないかどうか、不安ですわね」
プリシアが言った。僕は頷く。
「そうなんだ。それでとりあえず二人には――変装してもらおうと思う」




