3 シュート・クローネの娘
突然、殺意に満ちた眼で僕を睨んだシュラは、僕に向けて怒号を上げた。
「殺してやる!」
いきなり掌を向けると、そこから水流が発射される。
僕は慌てて、それをかわした。
「待て! 君のために言ったんだ!」
「うるさい! よくもボクの心を覗いたな……殺してやる!」
シュラが手を振ると、『く』の字型の水のカッターが僕を襲う。
「く――小気旋!」
気流の渦で、水のカッターを弾き飛ばす。
シュラは激昂した表情で、何発も水のカッターを連発して来た。
「死ね! 死ね! 死んでしまえ!」
シュラの眼の色が変わってる。この人はもうちょっと冷静な雰囲気かと思っていたが、人が変わったように憎悪に囚われていた。
「やめろ! 僕を殺しても、君の記憶の謎は解けないままだぞ!」
「うるさい、死んでしまえ!」
シュラがそう叫んだ。と、急にビクン、とその身体が震える。
「あ――」
シュラは目を見開くと、突然、そのまま倒れた。
「シュラちゃん!」
キャンディーヌが駆け寄って来る。
「お前、何したんだ!?」
キャンディーヌは僕にフォークを突き出しながら、そう声をあげた。
僕はそれをかわしながら答える。
「何もしてない! そもそも、蜂の毒にやられた後で、ダメージが残ってるはずだ」
それなのに、狂気にとり憑かれたように攻撃してきた。
……何か、この人の記憶には、おかしな点がある。
が、今はそれを追求してる場合じゃない。
「プリシア、行こう。ちょっと今は、話しても無理だろうから。レーナと合流しないと」
「はい、行きましょう」
僕とプリシアは踵を返した。
その門扉を開けて、外に出ようとする。
背中を向けた僕らに、キャンディーヌの声が響いてきた。
「あんたたち、これで終わったんなんて思わないことね! 必ずあんたたちを見つけ出して――殺してやるわ!」
「……本当に、頭の固い人たちだ」
嫌になって僕は、シュート・クローネの屋敷を後にした。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
立ち去っていくクィードたちの後ろ姿が無くなると、キャンディーヌがペタンと地面に膝をついた。
「あ~ん、負けたぁ! あんな奴らに、負けたぁ!」
キャンディーヌは泣き声をあげる。と、みるみるその姿が、白のフリル衣装に戻っていく。
「え~、どうしたらいいのぉ!? シュラちゃんは倒れちゃうし、虫くんもやられちゃったみたいだし~!」
「――その呼び方……やめろ」
不意に声が響いて、壁にぶつけられてうずくまってたゲゾンが身体を起こした。
「あ、虫くん、大丈夫だったの!?」
「クソ……とっさに蟲鎧を展開したから致命傷は免れたが――それでも気絶する衝撃とはな」
ゲゾンが立ち上がる。見ると、身体のあちこちに甲虫の外骨格が鎧のように身体に貼りついている。
「う……く――」
その時、シュラは意識を取り戻して上半身を起こし、頭を振った。
「あ、シュラちゃんも起きた。よかった!」
「頭が……重い――」
シュラが眼鏡を外して、頭を抑える。とキャンディーヌが声をあげた。
「あ、シュラちゃん美人~! 眼鏡やめちゃえばいいのに」
「余計なお世話だ」
シュラが苦し気な顔でそう言うと、そこに影が差した。
眼の前にゲゾンが立っている。
「おい、どうしてあの治癒士はお前を助けたんだ。お前……連中とつるんでんじゃないのか?」
ゲゾンの言葉に、シュラは激昂した。
「ふざけるな! お前こそ、連中とグルになって、ボクを攻撃したんじゃないのか! よくもやってくれたな――」
シュラはフラつく足で立ち上がり、ゲゾンを睨む。
「ハン! またお前をスズメバチに襲わせてもいいんだぜ? 口の利き方に気をつけな!」
ゲゾンの言葉に一瞬怯むシュラだが、すぐに口元に、にやりと笑みを浮かべる。
「言っておくが、来ると判ってれば対策は幾らでもある。奴にのされておきながら、偉そうな口を叩かぬことだな」
「なんだと、てめぇ……死にてえのか?」
ゲゾンがシュラに凄んだ。が、シュラはその口元にせせら笑いを浮かべた。
「フン、特滅衆などというから、どれほどのものかと思ったが――言っておくが、あの治癒士はまったく本気を出してないぞ」
「なに――?」
ゲゾンは眉根を寄せる。シュラは真顔で言った。
「あの男は今回、全く竜気を放ってなかった。しかし我々、攻魔四元将が戦った時は、奴は竜気を発して戦った。パワーもスピードも段違いだ。バルガスとディランが一瞬でやられ――そしてギルガインが敗れた。奴は今日、本来の半分の力も出してはいない」
シュラの言葉を聴き、ゲゾンが少し眼を剥く。
「チッ……心底忌々しいぜ――」
「何にしろ、ボクの処に来た連中を叩くという作戦は失敗だ。奴らはもう、ボクを訪ねては来るまい。お前たちとの作戦は、これまでだ」
シュラはそう言うと、踵を返して屋敷の方へ歩いて行った。
残されたキャンディーヌは、ゲゾンを見る。
「ねぇ、どうする? 虫くん」
「その呼び方やめろ……しかし、今回の作戦は黒仮面卿の指示だ。黒仮面卿は連中がシュラを訪ねてくることを予期していた――。シュラが、あのシュート・クローネの娘なんて、オレたちも知らなかったことだが」
ゲゾンは忌々しそうに、そう口にする。
「ね、負けちゃったの黒仮面卿に報告する?」
「待て――連中が此処に来ないというのなら……オレに考えがある」
ゲゾンはそう言うと、口元を歪ませた。
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僕とプリシアは、街外れの場所までレーナを探しに行った。
郊外の森の中へと分け入る。
と、ほどなくして声がした。
「クィード、プリシア!」
茂みから飛び出してきたレーナが、僕に抱きついてきた。
「わっ、と。よかった、レーナ、大丈夫だった? 怪我はない?」
「うん。……よかった、二人が無事で――」
レーナがべそをかきながら、僕らを見る。僕は笑ってみせた。
「大丈夫だよ、レーナ。心配かけたね」
「うん。……二人が来ないかもって――不安だった」
そう言うとレーナは、今度はプリシアに抱きつく。
ギューっと抱き着いてるレーナの頭を、プリシアは優しく撫でた。
「一人で心細かったでしょう? よく頑張ったわね」
「うん……」
とりあえず、皆が無事でよかった。……そう思った。
しかしシュート・クローネの家族を訪ねるのは、もう無理かもしれない。
あのシュラが、シュート・クローネの家族だなんて……
けど、四つの龍王具の一つは、シュート・クローネが持ってたはずだ。
それをどう探したらいいのか――僕は途方にくれた。




