第十一話 滅竜士たちとの戦い 1 クィードの怒り
僕は気力を上昇させて、僕と竜の姿のレーナの外側に気流の竜巻を起こした。
これで蜂の大群は近づけない
「レーナ、このまま上空へ飛んで逃げるんだ!」
「え……でも――」
「大丈夫、必ず後から迎えにいく。やってきた街外れの処で待ってて」
僕は笑ってみせた。すると竜の姿のレーナは納得したらしく、頷く。
ばさり、と羽ばたいて竜巻の中を垂直に浮いた。
僕は宙に浮いたレーナに言った。
「それとレーナ、さっきは助けてくれて、ありがとう」
「うん!」
元気よくそう頷くと、レーナは竜巻の中を垂直に飛び上がっていく。
それを見届けた僕は、足元のプリシアを見た。
プリシアは小さく痙攣をして、完全に白目を剥いている。
「治さないと。解毒!」
僕はしゃがんで、プリシアに解毒の光を浴びせた。
村でもたまに、有毒な生き物にやられたり、間違って毒キノコを食べたりする人がいたから、解毒魔法は必需だった。
解毒魔法の効果で、プリシアの痙攣がとまり、やがて眼に生気が戻って来る。
「あれ……わたし――どうしたんですの?」
「スズメバチの毒にやられたんだ。けど、もう解毒したから大丈夫」
「レーナちゃんは……?」
レーナがいないのに気づいて、プリシアが問う。
自身もまだ辛いだろうに――やっぱりプリシアは優しい子だ。
「先に逃げてもらった。後から合流するって伝えてある」
「そう……すいません、クィード。何もかもまかせきりで……」
「何言ってるのさ。僕らも――」
此処から脱出する準備を――と言いかけた僕に、急に衝撃が走った。左わき腹に何かが当たり、しかもそれは体内に喰い込んでいる。
「ぐぅっ! く――」
見ると腹部に穴が開き、血が染まっていく。しかもまだ――何かが、体内に深く入り込もうとしてる。
「ぐ……まずい。内臓を喰われる――発力!」
僕は身体に気力を充実させると同時に、腹の穴に指を突っ込んで、その異物を取り出した。
つまんだ指先で、そいつはもぞもぞ動いている。鋭い牙を持った、カナブンだ。
ふと気づくと、竜巻の眼の地面からカナブンが沸いて来ていた。
と、そいつは弾丸のような速さで、僕に突進してくる。
「この!」
僕は気流渦を掌に展開し、掌打で飛んできたカナブンを叩き潰した。
が、カナブンが次々と飛んでくる。
「くそ! まさか竜巻の中まで攻撃してくるなんて――翼の盾」
棒はブレスレットを翼の盾に展開した。
気力を込めると、金色の盾本体から翼状の光のシールドが伸びてくる。
僕はそれで、僕自身とプリシアを包んだ。
やがて竜巻がやんで、歪んだ笑みを浮かべているゲゾンが眼に入る。
が、ゲゾンは僕らの姿を見ると、笑みをとめた。
「なんだぁ? そんな妙な魔道具も持ってるのか? チッ……心底ウゼぇ」
ゲゾンは不愉快そうに言った。その向うには倒れたままのキャンディーヌ。そして――
「そういや、てめぇ治癒士だったな……雌竜まで回復してるじゃねえか。チッ」
そう苛立たしそうにするゲゾンの足元で、シュラが倒れていた。
痙攣し、白目を剥いて口から泡を吹いている。明らかに、毒にやられてる。
「どういうことだ! その人は仲間じゃなかったのか!?」
「あ、仲間? オレたちにそんなもん関係あるか。こいつがこうなったのは、てめぇのせいだからな」
「なんだって?」
僕が激昂すると、ゲゾンは愉快そうな口調で言った。
「てめぇがキングスズメバチを攻撃して暴走させたんだ。使い手のオレと、失神してる菓子姫には攻撃してこなかったが、後は無差別だ。こいつはうっかり、手で払うかなんかしたんだろう。あちこち刺されて――もう虫の息だ。いや、虫より息してねえかもな。ケケッ!」
自分の仲間が死にそうなのに、ゲゾンはそれを愉快気に喋った。
「おい! 僕に治癒させろ。今ならまだ助かる!」
「バカか、お前? 敵を治してどうする。それに、こいつを救うより――お前らを殺す方が優先事項なんだよ!」
ゲゾンはそう吠えると、手を前に出した。
「やれ! 弾丸カナブン!」
カナブンの群が突如、空中に現れ、眼にもとまらない速さで突っ込んでくる。
――こいつは……本当に仲間を助ける気がない!
「お前……許さないぞ!」
僕の中で、怒りが沸き上がった。
僕は翼盾を展開して、最大速度でゲゾンに突っ込む。
飛来してくる弾丸カナブンが、翼盾に当たってガンガンと音をたっている。
その衝撃を押し切って、僕はゲゾンの元に接近した。
「心底、死ね!」
ゲゾンが虫捕り網で、僕を攻撃してくる。
「把気!」
僕は手を伸ばして、その腕を捉えようとした。
が、把気が腕に触れた瞬間、相手の気力に弾かれる。
「そんな手が、オレに通じると思うな!」
「く――」
自分の身体に気力をまとい、僕の把気を受け付けない。
把気で相手を捉えなければ、投げることはできない。
僕は素早く後退した。
「逃がすかよ!」
いきなりゲゾンの虫捕り網が伸び、僕に襲いかかってくる。
しまった! 目測を誤った。
そう思った瞬間、僕の頭から虫捕り網がかぶせられる。
「しまった――」
「捕まえたぜ! ケケッ」
すると虫捕り網が急に小さくなり、僕の首を絞めつけくる。
と同時に、身体に電気の衝撃が走った。
「ぐわあぁぁぁっっ!!!」
まずい――意識が遠のく。
「竜光刃!」
けどその瞬間、虫捕り網の柄の部分を、巨大な三日月型の光の刃が断ち斬った。
「なに!? クソ! あの雌竜、まだ動けたのか!」
見るとプリシアが、竜光刃を飛ばした姿勢で立っていた。
解毒したとはいえ、ダメージはまだ身体に残ってる。立ってるのも、やっとなはずだ。
「プリシア、ありがとう!」
僕は頭を覆った虫捕り網を投げ捨てると、武器を失ったゲゾンに突進した。
「くっ――キングスズメバチ!」
スズメバチの大群が押し寄せてくる。
が、僕は翼盾で身体を包んで、そのまま突進した。
直前で、身体を包む翼を広げ、スズメバチの群を振り払う。
ゲゾンは折れた柄で、僕を突き刺しに来ていた。
それを入り身しながらかわしつつ、僕は身体を翻した。
「気流回転蹴り!」
気流の渦の力を利用した後ろ回し蹴りを、ゲゾンの水月に見舞う。
爆発的な威力が、ゲゾンの身体に直撃した。
「が――ハァッ!」
一気にゲゾンの身体が吹っ飛び、離れた屋敷の壁に激突した。
その身体が崩れ落ち、うなだれるような姿勢で地面に落ちる。
そしてそのまま動かなくなった。
僕は治癒士だけど――正直、仲間を見殺しにするような奴を助けたくない。
「――それより、あの人を!」
僕はシュラの元にかけつけ、すぐさま解毒魔法を浴びせる。
何か所も刺されたらしく――明らかにプリシアより症状がひどかった。




