2 シュート・クローネの屋敷
僕は受付嬢のサナの言葉を聴き、思わず訊き返した。
「え? 会うのが難しいって、それはどういう意味ですか?」
「シュート・クローネは重罪人で、今はデュバース監獄の中にいると思います。だから会うのは難しいかと……」
僕は驚いた。プリシアと顔を見合わす。
「重罪人って――シュート・クローネって人は、『竜災事変』を納めた光龍騎士の一人だったんじゃないんですか?」
「それが……」
サナは顔を曇らせる。
「事変後、シュート・クローネは国の竜一掃政策に反対の立場をずっと表明していたのですが、数年後、シュート・クローネが悪竜と内通していた――と判明したのです」
「内通? ……どういうことだ?」
ちょっと、意味が判らなかった。
「国からの発表では、シュート・クローネは竜と内通することで『竜災事変』を終息させたように見せかけ、その裏で竜側と取引をしていた、と」
「取引? 竜が人間と何の取引をするっていうんです?」
「獲物にしやすい人間の居場所を教えることで、竜が活発な活動を抑えたように見せる――という取引だったようです」
僕はあまりの事に絶句した。と、僕の様子を見ながら、サナはさらに続ける。
「けど、その取引が無くなったことで、竜たちは無差別に人間を襲うようになった。今日、竜が現れたのも、その影響――と言えるでしょう」
あの竜モドキに、人間と取引するなんて知恵があるわけはない。
シュート・クローネという人は、多分、無実の罪で監獄に入れられている。
けど、それをここで言ってもしょうがない。
「ありがとうございます、色々教えてくれて」
「いいえ……けど――私は……実はシュート・クローネさんを知っているから……とてもそんな風には思えなかったんです……。これは、内緒ですけど」
そう言って、サナは苦笑した。
ちょっと考える。僕の母さんが『本当の敵』なるものに向かっていったのが、『竜災事変』終息から四年経っての話だ。
「あの、シュート・クローネが監獄に入れられたのは、いつなんですか?」
「『竜災事変』終息から二年後です。内通の罪が露見したとしても、事変終息の功績は大きい。それで死刑にはならず、終身刑になったと聞いてます」
――それでシュート・クローネは、『本当の敵』の時には母さんたちに同行できなかったんだ。二年後のことだ。
その時、僕は三歳だった。十四年前のことだ。残された僕は、本当に辛かった。
――と、ふと思った。
シュート・クローネに子供はいなかったのだろうか?
「あの……シュート・クローネって人は、家族はいなかったんですか?」
「いましたよ。奥さんと、お子さんも――」
そうなのか。きっとその人たちは――僕の辛かった気持ちが判るはず。
「シュート・クローネさんの家族の居場所って判りますか?」
「元のお屋敷なら判りますけど……今も住んでらっしゃるかどうか――」
そう言いながらも、サナはメモをくれた。
「色々、ありがとうございました、サナさん」
「いいえ。クエストの御用の時は、またどうぞ」
サナの笑顔を見ながら、僕らはギルドを後にした。
メモを見ながら屋敷を訪ねる。その途中、レーナと手をつないで歩くプリシアが、言った。
「なんだか……複雑な気分です。竜と内通したからって、監獄に入れられた人がいるなんて……」
「おかしな話だと思うよ。だって、『竜災事変』は、光龍王の助けがあって、終息できたんじゃないか。竜と光龍騎士が仲がいいのは当たり前だ」
僕は少し憤って言った。
と、レーナが口を開く。
「竜って……人間に嫌われてるの?」
僕はその言葉を聴いて、はっとなった。しゃがみこんで、レーナに目線を合わせて僕は言う。
「そんな事ないよ。竜と人間は仲良くしてたし、きっとこれからもできる。僕はレーナのことも大好きだよ」
「ホント? 嬉しい!」
レーナが笑顔になてくれた。よかった……
と、ホッとしてると、なんか視線を感じる。
「――え?」
「……わたしだって――好きって言ってもらってないのに……」
なんかプリシアが泣きそうな顔でこっちを見てる。
いやいや……プリシアに好きって言ったら――簡単な話じゃなくなるから!
「いや…その――プリシアのことだって……大事に想ってるよ――」
「え~、そんな言い方なんですかぁ!?」
「もう! そんな場合じゃあないだろ! 僕は竜も好きだし、プリシアのことも…その――そうだよ」
うん、と僕は頷いて見せた。
と、プリシアが不承不承ながら、納得したように微笑む。
「うん。ちょっと不満ですけど――その辺で勘弁してあげます」
「頼むよ、ほんと」
「ねえ、ワタシお腹がすいた!」
レーナが声をあげる。僕らは思わず、笑みを洩らす。
「そうだね。シュート・クローネの家に行く前に、お昼ごはんを食べようか」
「うん!」
レーナが元気よく頷く。
僕らはオープンテラスになっている店に入り、昼食を注文した。
出てきた食事に、レーナが眼をキラキラさせている。
「なにこれぇ……なんか、キラキラ!」
「どうぞ、めしがあがれ」
そう言うと、レーナがサンドイッチにかぶりつく。
「美味しい~!」
「フフ…よかった」
大変な目に会った子だけど――こんな風に嬉しそうにしてくれるのを見ると、ホッとする。プリシアだけじゃなく、この子も守っていきたい。
そんな風に思った。
昼食後に、僕らは改めてメモを頼りにシュート・クローネの家を探す。
ほどなくして、僕らは目的地にたどり着いた。
鉄棒の門扉がある、結構大きな屋敷だ。
「わぁ……大きいおうちぃ!」
レーナが歓声をあげる。
「――と、どうやって中の人に知らせるんだろう?」
「あの……ここに竜が輪っかを咥えた飾りがありますが」
ふむ。この輪っかで、カンカンとか鳴らすのか?
けど、そんなことで屋敷の中に通じるのだろうか?
疑問に思ったが、とりあえず鳴らしてみることにした。
――と、突然、鉄の門扉が開く。
「開いた! 魔道具なのか?」
驚いてると、屋敷の方から人が歩いてくる。
その人に……なんだか、見覚えがある。僕らは門扉の中に入った。
「あれ――なんだか知ってるような……」
プリシアにも見覚えがあるようだ。じゃあ、僕らの知り合い?
けど、そんなに知り合いなんかいないけど――
「「あぁっ!」」
僕とプリシアは、一緒に声をあげた。
「君は――『水禍の』シュラ!」
そう、そこに現れたのは、青い短髪で眼鏡をかけた――美人だ。
え? あ、前に会った時は滅竜士の格好だったから、男か女かもよく判らなかった。けど、今はシックなお嬢様風のスーツを着ているので、はっきり判る。
「……お前たちは――!?」
『水禍の』シュラの方も、僕らを見て驚いている。
シュラは端正な顔の、眉根を寄せた。
「何のつもりだ? ボクに復讐しようとでもいうのか?」
「そ、そんなつもりはありません! 僕たちは――シュート・クローネの家族に会おうと思ってきただけです」
僕はシュラにそう告げる。と、シュラはさらに一層、眉根を寄せた。
「シュート・クローネの家族……だって?」
シュラは忌々しそうに口を開く。
「なんの用だ」
「まさか……君が?」
シュラが眼鏡の奥から、僕を睨みつけた。




