4 竜、のようなもの
衛兵の言葉に、僕は答える。
「違います、僕たちは滅竜士じゃありません。僕は治癒士です。今、治癒します」
僕が治癒の光を浴びせてる間、プリシアはその怪物に向かっていった。
「竜光弾!」
光弾を発射して、怪物に浴びせる。光弾は怪物に当たると、爆発した。
怪物が、奇怪な咆哮をあげる。
身体が巨大な蜘蛛で、そこから長い首が伸び、黒い三角の頭がついている奇妙なモンスター。――これを何故、竜と呼んでるのか判らない。
しかし、この怪物はプリシアに向けて長い前脚を振った。
「竜光壁」
プリシアが造り出した光の壁が、その攻撃を防御する。
僕はプリシアに言った。
「プリシア、少しそいつの気を引いていて。僕は倒れてる人を治癒する」
「判りましたわ! ――竜閃光!」
プリシアは二本の指から光線を発射した。
その間に僕は移動して、倒れてる衛兵たちに治癒を施す。
「大丈夫ですか! 今、治癒します」
「うぅ……すまない」
治癒を五人に施すと、全員がとりあえず立てるところまで回復した。
プリシアは独りで戦っている。
「あのお嬢さん、凄いな。君の仲間か?」
「はい。僕らも戦いに参加します」
「助かる!」
僕は首長の蜘蛛の怪物に向かっていった。
怪物が、白い糸をプリシアに向かって吐きかけている。
「竜光壁!」
プリシアが壁を作って防御する。が、白い糸はそこから大きくたわんで、防御壁ごとプリシアを取り囲んだ。
「あ――しまった!」
「プリシア!」
プリシアの身体が、白い糸に捕まる。
その白い糸がギュッと縮まり、プリシアの身体が絞られた。
「アァァッ!」
身体を締め付けられたプリシアが、顎をのけぞらせて悲鳴をあげる。
いけない!
僕は亜次元ポーチからナイフを取り出すと、プリシアに伸びる白い糸を切りつけた。が、粘る糸は、すぐに切れない。
「厄介な!」
ナイフに気力を込めてもう一度、切りつける。今度は糸を切り裂けた。
「あ……ありがとう、クィード」
「大丈夫、プリシア。待たせたね」
プリシアに笑ってみせると、プリシアも安堵の笑みを浮かべた。
「あの怪物――やっぱり竜の気配が少ししますわ。回復力も相当です」
「カイザーボアに喰らわせた技で、いってみようか」
僕がプリシアを強化して放つ、竜光砲だ。プリシアは頷いた。
――と、その時、場違いに明るい声がその場に響き渡った。
「は~い、アタシが来たからにはもう大丈夫! って……あれ? 誰も負傷してないね?」
そこに現れたのは、白いフリルの沢山ついた衣装を着た――少女だ。
ピンクの髪は左右でぐるぐるに巻かれていて、口には棒付きのキャンディーを咥えている。
「え~、ピンチにかけつけて、かっこよくキメたかったのにぃ!」
ピンク髪の少女は、両手を胸の前で立てると、膝をちょっと曲げて悔しい、のポーズをとった。
「……心底どうでもいい」
さらにもう一人――男が現れる。
こっちは髪は不健康にボサボサで、背中が曲がってる。目つきが極めて陰気な男だ。
その男が右手を掲げる。
「蟲魔法――巨大カマキリ」
その男の前に、突如、人を優に超える大きさのカマキリが現れた。
この大きさなら、首長蜘蛛と比べても遜色はない。
カマキリは首長蜘蛛に襲いかかる。
その鎌の手が、首長蜘蛛の首を捕らえた。
「ギィャアァァァッ!」
首長蜘蛛が奇怪な咆哮をあげる。
「あ、ちょっと! 虫くんのカマキリが邪魔で攻撃できないんだけど!」
「……その呼び方やめろ」
フリル少女の抗議に、背中曲がり男は聞く耳を持ってない。
フリル少女は、ぷんぷんと膨れた。
「もう! じゃあアタシ、見てよっかな~」
「勝手にしろ」
しかしその間に首長蜘蛛は、前脚でカマキリの頭を攻撃した。
何度も叩くうちに、カマキリの頭がボロリととれる。
「キャーッ! エグい光景! やめて本当に、気持ち悪いから!」
「……うるさい」
カマキリの姿が消え、背中曲がり男は鬱陶しそうに呟く。
しかしフリル少女は機嫌が直った。
「じゃあ、今度はアタシの番だね。えい!」
フリル少女は手の中に白い傘を出す。
傘はその縁にフリルがついている、可愛いデザインのものだ。
「じゃあ、いっくよーっ!」
傘の先端を首長蜘蛛に向けると、その先端から白い塊が発射された。
その白い塊は、首長蜘蛛の黒い頭を当たる。
「――?」
特に爆発したりする様子がない。というか、見るとその白いものはだらにと垂れ下がってきている。あれは――生クリームだ!
「へへ、甘いでしょ。じゃあ、キャンドル!」
と、フリル少女がパチンと指を鳴らす。と、その途端に、その生クリームから炎が燃え上がった。
「ギャアォォゥッ――」
首長蜘蛛が悲鳴のような咆哮を上げる。
「は~い、次はキャンディー爆弾!」
少女が手を振ると、幾つもの小さなものが飛んでいく。
それは――包装紙に包まれたキャンディーだ。
キャンディーは首長蜘蛛に当たると、爆発した。
かなりの火力だ。首長蜘蛛がダメージによろける。
「一見ふざけた魔法だけど……凄い威力だ」
僕は横に来たプリシアにそう言った。プリシアも頷く。
と、背中曲がり男が、声をあげた。
「王蟻の群生!」
と、突然何処からか、蟻の大群が発生する。
蟻と言っても、一匹一匹が大きく、優にご5cmくらいある蟻だ。
その大蟻は瞬く間に首長蜘蛛の身体に群がり、蜘蛛の身体が見えないほどになった。
「あン! やっぱり、アタシのお菓子に蟻がたかるんじゃない!」
「……お前のご希望のようだったからな」
背中曲がり男は、面白くもなさそうにそう言った後で、顔を歪ませて見せた。
……笑顔のつもりなのか? もし訳ないが、不気味すぎる。
「ギ……ギ…ギャァァ――」
蟻にたかられる首長蜘蛛が、どんどん身体が無くなっていく。
そして遂に、首長蜘蛛の姿は跡形もなくなった。
「はぁい、竜討伐終了――皆さん、お疲れさまでしたー!」
フリルの少女は衛兵たちに向かって、そう声を上げる。
と、一人の衛兵に近づいて、口を開いた。
「はい、手出して」
「え? あ――」
衛兵が手を差し出すと、フリル少女は包装紙に包まれた飴を乗せた。




