3 冒険者ギルド
ネイルーマの街は多くの人が行き交う、賑わいのある街だった。
最初に僕らが訪れたダリアードと、同じくらいの街だ。
沢山の建物と商店。やっぱり、都会の感じだ。
「クィード、どうやってシュート・クローネさんを探します?」
さすがにプリシアも、道行く人にとにかく訊く――という方法はやめたらしい。
僕は少し考えて言った。
「多分、冒険者ギルドって処に行って、話を聞いてみるのがいんじゃないかな。僕たち、冒険者登録してるらしいし」
「あ、そうですわね。じゃあ、そうしましょう――けど……冒険者ギルドって、何処にあるんでしょう?」
「それは――訊いてみるのさ」
僕は笑ってみせた。
と、通りにある果物を売ってる露店に近づく。
「おはようございます」
「はい、おはようさん」
店番をしてるのは老婆だ。僕はそこにあった梨を一つ手にして、老婆に言った。
「これ一つください」
「あいよ、100ワルドだよ」
僕はお金を払いながら、老婆に訊く。
「すいません、この街の冒険者ギルドって何処にあるかご存知ないですか?」
「ああ、冒険者ギルドはね、この先の角を右に曲がって少しいった処で、武具屋のある角をもう一度左に曲がる。そして少し行くと石造りの建物が見えてくるから、そこがギルドさ」
「ありがとう、お婆ちゃん」
僕は微笑むと、老婆もにっこりと笑って返してくれた。
「場所が判ったよ、行ってみよう」
僕らは教えられた道順に従って歩くと、ほどなく石造りの建物が見えてきた。
「これだな」
僕は扉を押して入る。中には、鎧などを身に着けた冒険者たちが大勢いた。
建物に踏み出すと、急に視線がこっちに集まる。なんだ?
「おい――あれ」
囁き声がする。見ると冒険者たちは――プリシアと、手をつないでいるレーナを見てる。
まさか……竜だって気づかれたのか?
「凄い美人だな……」
「けど、子連れだぜ。ああ見えて、意外と歳なのか?」
「っていうか、あの子供もパーティーの一員か?」
どうやら、プリシアとレーナの二人が冒険者っぽくなかったらしい。
よかった。とりあえず竜だとバレたわけではない。
安堵の息をつくと、どうやら奥のカウンターが受付だと気づいた。
僕はそこまで歩いて行く。
プリシアが通ると、そこに視線が集中している。
――やっぱり、プリシアって美人なんだよな。
「あのぉ――」
「はい、なんでしょう。新人登録ですか?」
受付の黒髪をショートにした女性が、にっこりと笑う。
「あ、いえ、僕らはもう登録はしていて――」
僕は登録証を出してみせた。と、女性が驚きの顔になる。
「まあ! Bランク冒険者! これは失礼しました。よその街からおいでになったのですね。ようこそ、ネイルーマへ」
受付の女性はにっこりと微笑んだが、その声で周囲に驚きの声があがる。
「なんだあいつ、Bランクだってよ!」
「とてもそうは見えねえが――凄腕なんだろうぜ」
「あの美人もそうなのか?」
色々、憶測してるようだけど――もう気にしない。
「実は、この街には人探しに来てるんです。それを教えてもらえないかと」
「あ、そうですか。一体、どなたをお探しでしょう?」
「それは――」
僕がそう言いかけた時だった。
突然、ギルドの入り口ドアが開いて、声が上がる。
「大変だ! 街の外れに竜が出たぞ!」
――え!?
僕はプリシアと顔を見合わせた。
僕らの事じゃ――ない。じゃあ、別の竜が? 何処に?
「衛兵が討伐しようとして、負傷してる!」
その続けられた声に対し、受付嬢が声をあげた。
「皆さん、竜討伐に行ける方は行ってください! これはギルドからの特別クエストとして、報酬を出します!」
その声に対し、冒険者たちの反応は微妙だった。
「いや……竜って――ランク幾つなんだよ」
「Cランクの俺じゃあ、竜なんて無理だぜ」
「竜は……あの連中に任せとけばいいんじゃねえの?」
皆、動こうとはしない。けど……
僕はプリシアに囁いた。
「プリシア、とにかく行ってみよう」
「判りましたわ」
僕は踵を返した。
「あ、Bランク冒険者さん!」
背後で受付嬢の声がする。けど、僕らは竜討伐に行くんじゃない。
ここで話をすると面倒になる。
僕たちは急ぎ足で、ギルドを出た。
「何処だ?」
外に出ると、人が右方向から走って来る。
「こっちの方か!」
僕らは逆に、走って来る方向で向かっていった。
しばらく走ると、声が聞こえる。
「ギャアァァッッ!」
男の声だ。その声の方へ行くと、少し開けた場所で戦闘が展開していた。
衛兵らしき数人が、その対象を取り囲んでいる。
が、既に何人かは倒れ、何人かは傷ついている。
その衛兵が取り囲んでいるのは――
「え? これが……竜?」
それは――僕が知ってる竜とは、似ても似つかぬモンスターだった。
黒い巨大な蜘蛛のような身体。多分、体長は10mほどはある。
八本の脚がその身体から地面に伸び、その前の一本は衛兵を叩き飛ばした。
「ぐあぁっ!」
飛ばされた衛兵が、凄まじい勢いで吹っ飛び傍の建物の壁に激突する。
身体は巨大な蜘蛛だが、蜘蛛じゃないのは、その頭部の部分から長い首が伸び、そこに三角の頭がついているからだ。
その頭部が竜っぽいと言えなくもない。が、真っ黒な三角の頭には、黄色い目がついており、それは瞳のない窪みのようにも見えた。
「これが――竜って……違うだろ、これ」
「クィード、だけど……少し竜の気配がしますわ」
「え?」
プリシアの声に、僕は驚いた。
「じゃあ、こいつも竜ってこと?」
「いいえ。こんな竜は――聴いたことがありません」
プリシアは首を振る。
と、視線の先では、衛兵が剣を振り上げて、蜘蛛モドキに斬りかかっていった。
しかし、向かっていったその衛兵は、横から飛んできた前脚に叩き飛ばされる。
地面に転がった衛兵に向かって、黒い頭が何か吐きかけた。
「危ない!」
僕は思わず飛び出して、その向かって来るものに気流の渦を展開した。
「小気旋!」
渦に弾かれた白いものが、地面に落ちる。どうやらそれは、蜘蛛の糸のようなものだ。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あんたたち――滅竜士かい?」
倒れた衛兵は、苦しそうな顔で僕にそう声をあげた。




