第九話 竜の少女 1 少女の心の中へ
どういう理由でかは判らないが、僕は石眠状態にある竜の少女の記憶を見ている。そこでは今、まさに兵士が家の中に押し入ってきたところだった。
「お前たちを駆除してやる!」
兵士たちが怒号をあげ、剣を振り上げる。
そこに立ち向かったのは、父親だ。
「勝手な真似はさせんぞ! 竜風爪!」
父親が腕を一振りすると、真空状態による空気の爪が兵士を襲う。
「ギャアッ!」
「怯むな! そいつを殺せ!」
三人の兵士が一斉に襲い掛かる。一人の兵士を父親は風の爪で斬り裂き、二人目の剣を手で受け止めたが、三人目の兵士が横から襲い掛かった。
「死ね、竜!」
父親の横腹に、深々と剣が刺さる。
「お父さん!」
「あなたっ!」
娘と母親の声があがる。
「むぅ……」
父親は唸ると、剣を抑えた兵士をもう一方の爪で斬り裂いた。
しかし横腹に剣を刺した兵士は、さらに剣をねじこむ。
「やめてっ!」
少女はそう叫んで、父親の元に走り出した。
父親が焦った顔で振り返る。
「来るんじゃない!」
「――クソが!」
横腹から剣を引き抜き、その兵士は向かって来る少女に剣を突き出した。
「あ――……」
少女の胸が剣に貫かれる。父親が驚愕に眼を見開いた。
「貴様ァッ!」
父親は風の爪でその兵士を切り裂く。兵士は倒れたが、少女もまた倒れた。
「レーナ! ……ぐぅ――」
父親が少女に駆け寄ろうとして、その場に倒れる。
「レーナ! あなた!」
「わ~ん! お父さ~んっ、お姉ちゃ~ん!」
もう一人の娘が泣き声をあげる。
倒れた父親は、傍に駆け寄ってきた母親に言った。
「ルーナ……リーナを連れて――逃げるんだ……」
「あなた! けど、レーナを置いていけません!」
母親の必死な声に、父親は言った。
「レーナを……石眠状態にして…床下に隠しなさい――これを……」
父親は胸からペンダントを取り出した。
「竜の気配を隠すペンダントだ……これを石眠化した後に…つけてやれば、見つからない――うっ……」
父親が口から血を吐き出す。
「あなた、しっかりして!」
「俺はもうダメだ。ルーナ……娘たちを…頼む――」
父親はそう言うと、こときれた。
母親は両手で顔を覆うが、泣いたのはほんの一瞬だった。
「判りましたわ、あなた……娘たちを――守ります」
母親は傷ついて倒れた少女に向かうと、その身体を抱きかかえた。
そしてキッチンまで行き、カーペットの下の床下収納に運ぶ。
「お母さん……痛い…よ――」
「大丈夫、すぐに痛くなくなるわ。そこに座りなさい」
「ん……」
少女が座ると、母親は少女の肩に両手を触れた。
「傷が治るまで――ここで寝てるのよ」
「嫌だよ……お母さんと一緒に行く――」
少女は泣きながら、母親に訴えた。
しかし、その母親が触れた両肩から、石化が始まる。
その少女の声に、母親は優しく微笑んで見せた。
「大丈夫よ。お母さんは、ずっとレーナの傍にいるわ」
「お母さん……」
そして少女の視界が――完全な闇となった。
僕はその闇の中で立っている。
どうしたらいい? もしかして僕は、少女の心の中に囚われてしまったのだろうか?
ふと見ると、闇の端の方に、少女が膝を抱えて座っている。
僕は少女に歩み寄った。
「君――レーナって呼ばれてたね」
少女は顔をあげた。
「あなた……人間? けど――少し竜の感じもする。誰なの?」
「竜の友達の人間だよ。……僕はクィード。君のお母さんに呼ばれて、君を助けに来たんだ」
「お母さん!」
少女は顔を上げる。
「お母さん、いるの?」
「いや……」
僕は――嘘はつけなかった。けど、本当のことを言うこともできない。
躊躇していると、少女は僕に言った。
「お母さんも……殺されちゃったの?」
僕は苦渋の想いで頷く。
少女の眼から、涙が溢れてきた。
「もういいよ! もう行かない。もう……痛いのも、恐いのもイヤだよ!」
無理もない――そう思った。
多分、この子は12、3歳だ。まだほんの子供なのに、恐ろしい目にあって、父親を眼の前で殺された。そして、母親に起きた悲劇もうっすらと判っている。
それでも……
「レーナ……それでも君のお母さんは、僕たちを此処に呼んで、君を助けてほしいと頼んだんだ」
「お母さんが?」
「うん」
僕は微笑んでみせた。しかし少女――レーナは怯えた眼で僕を見る。
「けどあなた……人間なんでしょう? 人間は、竜を殺しに来たわ」
「一緒にいる僕の友達はね……竜なんだ。光龍王の娘――お姫様なんだよ」
「お姫様! 凄い!」
少女の眼が、少し輝いた。
「お姫様も、君のことを待ってるよ。……一緒に、会ってくれないかな」
「うん……」
少女は座ったまま、頷いた。
僕は腰をかがめて手を差し出す。その手を、少女がそっと握った。
僕は少女の手を引いて、その場から立たせる。
――と、視界が急に、元に戻った。
僕は石像化した少女に治癒の光を浴びせてる。
「あ――あれ……今のは?」
「どうしたんですか、クィード?」
傍にいるプリシアが、不思議そうな声を出す。
と、プリシアが言った。
「あ――今まで効果がなさそうでしたのに、石化が解けてきましたわ!」
見ると、治癒の光をあててる胸から、石化が解かれていく。
治癒の光は少女の胸の傷を治すと、さらに石化解除を進めていった。
「頑張れ、もうすぐだよ、レーナ」
石化がその身体からなくなり、首から顔に移る。
そして遂に、その顔の石化がなくなり、完全に解除された。
少女は目を開けた。
僕は少女に、声をかける。
「大丈夫かい、レーナ?」
少女は不思議そうな顔をしていたが、横にいるプリシアを見て言った。
「……あなたが、龍王のお姫様?」
「え――そうですけど……どうして?」




