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辺境の治癒士が竜姫と出会ったら ~癒しの魔法に女性たちはメロメロ!?~  作者: さとうはるか


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3 村の記憶


 白い影――それは白いワンピースのようなものをまとってる、女性の後ろ姿だった。


「あ、待ってください!」


 夕陽が差す山奥の小道を、白いワンピースの女性は移動していく。

 けど――なんか走ってる感じもないのに、追いつけない。


「どうなってるんだ? プリシア、あの人――竜なの?」

「その雰囲気もあるにはあるんですが……なんだか、ちょっと判らないんです」


 白いワンピースの女性は、すっと曲がり角を曲がっていく。

 その後を追いかけると、白いワンピースの襞が一軒の家へ入っていった。


 その家は半壊してるが、焼け落ちてはいなかった。

 足元と天井に注意しながら、家の中に入る。


「一体……何処に?」


 その時、不意に――何かぐらりと空間全体が歪んだ気がした。


「え――? プリシア、今、何か感じなかった?」

「感じましたわ……けど、なんなんだか――」


 プリシアも戸惑ったような顔をしている。

 と――屋外から声が響いてきた。


「キャアーッ!」

「やめろっ!」


 女性の悲鳴に男性の怒号。ただ事じゃない!

 僕らは顔を見合わせると、表へ出た。


 そこでは――信じられない惨状が広がっていた。

 逃げまどう女性に、甲冑を着た兵士が背中から斬りつける。


「アァーッ!」


 女性が倒れた。僕は駆け付けて、兵士の前に立ちはだかる。


「やめないか!」


 僕は気流の渦を起こし、向かってくる兵士を投げようとした。

 が――その兵士が、僕の気流を通り抜ける。


「……え?」


 そして兵士は、倒れた女性の背中に剣を突き立てた。

 女性が呻いた後に――絶命する。


「なにをするっ!」


 僕は兵士の肩を掴んで、その動きを止めようとした。

 が、僕の手が、兵士の身体をすり抜ける。


「え……?」


 どういう事だ? 兵士を掴もうとして、何回か手を振る。

 だが、僕の手は虚しく空を切るばかりだった。


「この兵士たち――実体じゃない?」

「というか、クィード……実体じゃないのは、わたしたちの方かも――」


 プリシアに言われてみて、初めて気が付いた。

 辺りの風景が変わっている。


 彼らが実体じゃないなら、風景は変わらず、その背景のまま透けてるはずだ。

 けど、風景自体が微妙に異なっている。


 というのも、この峡谷の村のあちこちで火の手があがっている。

 今、まさに燃えてる最中だ。


「僕らはもう、廃墟になった村にいた。これは……村がまだ燃やされる前の光景――今、まさに襲われてる村の……記憶の光景?」


 僕は辺りを見回した。

 大勢の兵士たちが、村の人たちを追い廻している。

 数人がかりで殺される――大勢の村の男女。


「キャアァァッ!」

「俺たちが――何をしたというんだ!」


 斬りつけられた一人の男が、その腕を押さえながら声をあげる。

 兵士たちが男を取り囲んでいる。その中から、一人の男が前へ出てきた。


「何を? お前たちが竜であること、それ自体が罪だというのだ……」


 そう口にした男は――全身が真っ黒の男だった。

 黒い外套、黒い鎧。そして何より目立つのは、その兜の下に、黒い仮面を着けていることだ。


「あ……あの…男は――」


 プリシアが声をあげる。見ると、プリシアは黒い仮面の男を見て、震えていた。


「――私を刺したのは……あの男です!」


 プリシアが震える声でそう言った。

 僕はプリシアの視線の先を、もう一度見る。


「プリシアを刺して、呪いの紋章を刻んだのが――あの黒い仮面の男?」


 プリシアは僕の問いに、恐ろし気な顔で頷いた。


「くそっ――我らを何だと思っている!」


 追い詰められた男が、突然、竜の姿になる。

 かなり大きな竜だ。10mほどはある。


 が、その巨体を、それと同じほど巨大な影が背後から襲い掛かった。

 その巨大な影は、腕らしきものを振り上げると、その爪で竜の翼に斬りつけた。


「ギャアァァァッ!」


 翼が切り裂かれた竜が、激痛の悲鳴をあげる。

 すると黒仮面の男は跳躍し、剣を振り上げた。


「うるさいぞ、トカゲの分際で!」


 黒仮面の斬り下ろした剣が、竜の眉間を割る。

 凄まじい吠え声とともに、竜の巨体がばたりと地面に倒れた。


 そして容赦なく、周囲の兵士たちが竜に群がりとどめを刺していく。


「ひどい……もう、やめてっ!」


 プリシアが叫ぶ。だが、その声はまったく届いておらず、黒仮面も兵士たちも何の反応もしない。

 黒仮面が低い声で、兵士たちに言った。


「成獣は残らず始末せよ! 幼子の竜だけ捕獲するのだ!」

「「「ハッ!」」」


 これが……滅竜攻団のやってきたことなのか?

 こんな残忍な真似を――人間が…竜に対して?


「これが事実なら――残酷な真似をする悪魔は……人間の方だ!」


 僕はたまらなくなって叫んだ。

 だが僕の声をよそに、兵士たちは次々と各家に入っていく。


 その時、黒仮面の傍に、背後から近付いた者がいた。


「黒仮面卿――これまでの家に……取り逃がしはなさそうです」


 そう黒仮面に言った顔に――見覚えがある。

 確か――水魔法の使い手…『水禍の』シュラとかいった奴だ。


 青い髪と、眼鏡――間違いない。あの時の、襲って来た四人の一人だ。


「ご苦労、シュラ。どうだね、竜の群の一斉駆除は?」

「は……」


 シュラは言葉に詰まっている。あまり顔色がよくない。


「人の姿をしているので――少し、抵抗がありますが……」

「フフ……じきに慣れる。それに、人間の姿を取り繕ったところで、奴らは竜。害悪の存在であることに変わりはない。そうであろう、シュラ?」

「はい――」


 シュラは眼鏡を押さえながら、頷いた。

 と、離れた処から兵士の声が上がる。


「――子供の竜がいました!」


 その声のした方から、兵士たちから逃げるように母親と娘が現れる。

 娘は多分、10歳より少し上なくらいで、母親はその肩をしっかりと抱いていた。母親が叫んだ。


「やめてください! わたしたちが、あなた方に何をしたというんですか!」

「竜は存在自体してる限り、必ず害をなす……。だから駆除の必要があるのだ。お前たちは害獣だ」


 黒仮面卿――と、シュラに呼ばれた奴が、そう冷酷に告げる。


「娘を…殺させはしません――!」


 母親が、巨大な竜の姿になる。と、その翼をはためかせ、突風を起こした。


「うわぁっ!」


 何人かの兵士が、その突風で吹っ飛ばされる。

 母竜は娘を掴んで、上空へ舞い上がろうとした。

 ――が、その足を急に伸びてきた影が掴む。


「こ――これは?」


 驚く母竜が、地面に引きずり降ろされ、母竜と娘が悲鳴をあげた。


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