2 隠れ里の光景
プリシアの身体が光り輝き、その光が巨大化していく。
――と、その光が止んだ時、出会った時に見たプリシアの竜の姿が現れた。
その背丈は優に7、8mはある。
「うわぁ……やっぱり大きいね」
白い身体に、金のたてがみがゆらりとなびく。
その細めの顔が僕の方に近づいてきた。頭部だけでも、僕の肩幅くらいはある。
「わたしの竜の姿……恐くはないですか?」
「全然。最初に見た時からさ――とっても綺麗だと思ったんだ」
「嬉しいです……クィード」
竜の顔で、プリシアが微笑む。ちゃんと竜でも表情は判る。
そしてこれがプリシアの姿だということも。
……凄く美しい生き物だ。竜って――
いや。光竜であるプリシアだからか。それとももっと言えば……
プリシアだからなのか?
「わたしの背に乗ってください。上空からなら見つけられます。あまり……時間をかけられません」
「そうか……紋章が痛むんだね。早く済ませよう」
僕はそう言うと、プリシアの背に乗った。
「じゃあ、飛びますよ」
プリシアはそう言うと、美しい白い翼をはためかせた。
その翼が大きく風を起こすと、プリシアの身体が宙に浮く。
あっという間に上空へと舞い上がり、僕たちは断崖を横から観察した。
「崖の何処かに、横穴があったりするものですが――」
空と飛びながら、プリシアがそう口にする。
かなり広い範囲で見たが、パッと見た感じ――それらしい穴はない。
「くぅ……」
「苦しいの、プリシア? もう止めた方が――」
「もうちょっと……頑張れます――」
プリシアが、振り向いて微笑む。
僕は頷いた。――けど、なんとかして早く見つけないと。
待てよ……穴じゃなくて、穴自体も隠されてたら?
崖のところどころに茂みがある。
「プリシア、茂みの傍を探そう」
「判りましたわ」
プリシアが茂みがある処をめがけて飛んでいく。
三つめの茂みを見た時、その陰になってる処に穴があるのを見つけた。
「プリシア、あれだ!」
「はい!」
プリシアが飛んでいって、茂みをかき分けて横穴に入り込む。
横穴に降り立つと、僕はすぐにプリシアから飛び降りた。
――と、プリシアの身体が光る。
「ん……」
光が縮み、プリシアが人間態に戻った。
「大丈夫、プリシア!?」
「大丈夫……です…」
プリシアは苦しそうに微笑んだ。いや、明らかに強がりだろ。
「大丈夫って顔じゃないよ。無理しちゃダメだ。少し治癒しておこう」
「あの……ここで…ですか?」
「え? まあ…それはそうだけど――」
何故か、プリシアが顔を赤らめている。と、プリシアの身体がふらついた。
「危ない!」
僕はプリシアの身体を抱きとめる。
柔らかなプリシアの身体の感触が僕の腕の中に入りこみ、すぐ傍にプリシアの顔があった。
「ご……ごめんなさい…クィード――」
「プリシア、寝かせる場所もないから、このまま治癒するね。――僕にしがみついてて」
「はい……」
そう言うと、プリシアは僕の身体に腕をまわして――ギュッと抱きしめてきた。
その力の弱さ……竜なんだから、もっと力があるはずなのに、か弱い気がする。
「プリシア、それじゃあいくよ」
「あ……」
耳元で、プリシアが小さな声をあげる。
僕はプリシアの身体を抱きとめたまま、左手でプリシアの脇腹に治癒の力を送った。
「あぁン……こんな――外で……立ったままで……」
「力を抜いて――僕に任せて」
僕はプリシアの身体を受け止めながら、治癒を続ける。
「あン――んふぅ……くン――あ、あ、ああン……」
プリシアが柔らかな身体を僕に押し付けながら、身悶えする。
すぐ耳元で奏でられるプリシアの甘い声が、洞穴の中で響いた。
「あぁン……わたし…わたし――ぁン…んんン――」
ギューッとプリシアが僕の身体を抱きしめた。と、その力が抜ける。
僕はプリシアを抱きとめたまま、そっと地面に腰を下ろした。
「疲れたんだね? 少し休むといいよ」
「はい……クィード――そうさせていただきます……」
そのままプリシアは、僕に身体を預けるようにもたれかかってきた。
と、僕の胸に頭を寄せたプリシアが、口を開く。
「わたし……竜の姿に戻るのが恐かった――」
「え? どうして?」
「人間の姿に慣れたクィードが竜の姿を見たら……わたしのことを…嫌いになるんじゃないかって……」
そう言って、プリシアはそっと僕を見上げた。
その綺麗な瞳で、僕を見つめている。
「そんなことあるわけないだろ? 竜の姿でも、人間の姿でも――プリシアはプリシアだよ」
僕はそう言って微笑んで見せた。
と、プリシアが安心したような笑みを浮かべる。
「よかった……」
そう呟くと、プリシアは目を閉じた。と、静かな寝息が聞こえてくる。
「やっぱり疲れたんだね、プリシア。……ゆっくりお休み」
僕はそう言うと、僕自身も岩壁にもたれた。
あ……やっぱり、カイザーボアを五体も倒したので、それなりに疲労している。
僕も知らないうちに寝入ってしまった。
――ふと気づくと、少し陽が落ちてきてる。プリシアは……まだ寝てる。
「プリシア、起きて。もう陽が暮れるよ」
「うん……クィード――」
プリシアが起きて眼を開ける。すぐ傍に僕の顔を見つけると、プリシアは顔を赤らめた。
バッと跳び起きる。
「ハッ! わたし……クィードをベッド代わりに――重くなかったですか?」
「大丈夫だよ。それより、そろそろ陽が暮れちゃう。ここで野営してもいいけど、この洞穴の先まで行ってみてもいい。どうする?」
「だいぶ寝たので元気です! 先へ行きましょう!」
「ん」
僕らはそう相談すると、洞穴の奥へと進んだ。
光源がなくなり、真っ暗になる。
「光球!」
プリシアは光の球を空中に浮かべた。その光で辺りが明るくなる。
その明りを頼りに歩いて行くと、ほどなく先が明るくなってきた。
「出口だ」
洞穴を抜けるとそこは――
はっきり言って狭い峡谷の村だ。平地がほとんどなく、崖ばかりが目立つ土地に人の暮らしの痕跡がある。
痕跡……というのは、その見える家々が――ほとんど焼け跡だったからだ。
「これは……」
プリシアが絶句している。
間違いない――此処は、滅竜攻団が全滅させた村の跡だ。
僕らは狭隘な村の街道を歩く。
しかし点在する家々は、どれもこれも焼けた跡だった。
黒くなった柱が、無言で突っ立っている。
「ひどいな……」
僕は思わず呟いた。その家々は、ほとんど僕の故郷の家々と変わらない。そこに暮らしてる人がいたかと思うと……正直、やりきれない想いだ。
――と、僕は視線の先に揺れる白い影を見つけた。
「――誰だ!?」




