第七話 竜の隠れ里 1 お人好し過ぎる?
かなり幅の広い谷だが、かなりの巨木が倒れることで両岸がつながっている。
これは――即席の橋として作られたものなのだろうか?
僕とプリシアは近づいてみた。
その大木は、上辺だけが綺麗に枝を落とされている。歩きやすくするためだ。
「――間違いない。これは人の手で渡された即席の橋だ」
「誰かが此処を渡ったってことですよね? あ……」
プリシアが途中で、気付いた。
「そう。多分、これを渡したのは滅竜攻団だ」
「じゃあ――この先に……竜の隠れ里が?」
プリシアが切なげな表情で、岸の向う側を見る。
滅竜攻団は、竜の隠れ里を全滅させた――って話だったよね。
それって、竜が皆殺しにされたってことだ。
そして……プリシアも同じ目に合いかけて、逃げて来たんだ。
プリシアが自分の身体を抱きしめるように腕をまわして、びくり、と震える。
僕は傍に行って、その肩にそっと触れた。
「……辛い事、想い出しちゃったんだね?」
「それもありますが――この先にある隠れ里の竜たちのことを想うと……。クィード、わたし隠れ里を見つけて、できたら弔うなりなんなり――できることをしたいのですが――」
プリシアが潤んだ眼で僕を見た。
僕は頷いて見せる。
「いいよ、寄って行こう。ただ――一度ヒジタ村に戻って、カイザーボアの侵入の原因が、丸木橋だったことを伝えよう。僕らは向うに渡って撤去して、そのまま向う側から山を下りる。……そういうことでいいよね?」
プリシアは深く頷いた。
そして僕たちはケリーガの家に戻った。
ケリーガの家には、村の男たちが集まっていた。
戻ってきた僕らの顔を見て、村の人たちは驚きの声をあげた。
「戻ってきた!」
「大丈夫だったのかい?」
「それで――カイザーボアはいたのかい!?」
一斉に質問責めになりそうなところを、ケリーガが収める。
「まあ、待てみんな。クィードさんたちもお疲れだろう。まず、無事を祝いつつ、一息入れてもらおう」
僕たちは屋敷に招かれて、リーネの入れたお茶をもらう。
落ち着いたところで、僕は丸木橋の件を話した。
「大木を渡してあるだけなんだけど、あれをつたってカイザーボアが入ってきたんだと思う。僕らはもう一度戻って、あの橋を渡って向うの山に行きます。そしたら橋を落としますから、そうすればもうカイザーボアは山越えしてこないはずです」
おお……とため息が漏れた。と、ケリーガが口を開く。
「そうでしたか。それはよろしくお願いします。後は、既に入り込んでいるカイザーボアをどうするかですが――冒険者ギルドに、駆除依頼を出すことにしましょう」
「あ、それならもう駆除してきましたよ」
僕は笑って言った。ケリーガが驚く。
「え! お二人でカイザーボアを倒した――んですか?」
「ええ。あ、そうだ、これ」
僕は五匹分のカイザーボアの魔石を、鞄から取り出してみせた。
拳大の紫色の大きな魔石が、ごろりとテーブルの上に転がる。
「な、なんだこりゃ!」
「こんなデカい魔石――見たことないぞ……」
村の人たちが驚愕する中、ケリーガが僕に驚きの顔で訊ねた。
「クィードさん、これが――カイザーボアの魔石ですか?」
「ええ。五匹分あります」
「五匹も!! ……倒したんですか――」
呆然とするケリーガに、僕は言った。
「ええ。もう、こっちの山にカイザーボアはいないと思います。それで――この魔石は村に進呈しようと思って」
「え!? 何を言ってるんですか? こんな高級素材、受け取れませんよ!」
「そうですよ、クィードさん! 魔石は倒した冒険者の大事な収益ですよ!」
ケリーガに続いて、村の人たちも僕の提案に反対する。
けど、僕は笑って言った。
「いや、だけど村の財政が大変だって言ってたじゃないですか。使ってください――村の復興のために」
「いや……そんな――」
村の人たちが戸惑いをあらわにする。
やっぱり……相当に村は厳しい状態なんだな。
「僕らは当座、大丈夫なんで。必要な物は、必要な人の元へ――父さんがよくそう言ってました」
僕はそう微笑んでみせた。
ケリーガが、涙目になりながら口を開く。
「クィードさんのお父上が――」
「はい。治癒士だったんです。小さな、辺境の村のね。……凄くぶっちゃけて言うと、この村はまるで故郷みたいで放っておけないんです。だから受け取ってください」
僕がそう言うと、ケリーガは納得したように深く頷いた。
その上で、一つだけ魔石をこちらによこす。
「それじゃあ、ありがたくいただいておきます。けど、一つはクィードさんが持っていってください。……この先、必要になる時が来るかもしれません」
「そうですか、判りました。それじゃ」
僕は笑って、魔石を一つ受け取った。
それから僕らは村の人に見送られて、再び丸木橋の処に戻ることにした。
「それじゃあ、橋は壊しておきますから。安心してください」
「何かも、本当にお世話になりました、クィードさん。けど――私から、一つだけ言わせてもらっていいですか?」
ケリーガが苦笑しながら、僕にそう言う。
「なんですか?」
「クィードさん、お人好しが過ぎますよ。……街では人の良さにつけこむ悪人も沢山いるんで――お気を付けください」
そう言えば、プリシアと初めて街に行った時、騙されたんだったな。
「あ~……心あたりあります。ありがとう、ケリーガさん。気を付けていきますよ」
僕の言葉に、ケリーガ微笑んだ。そして僕らは村を後にした。
再び大木の処に着くと、僕らは丸木橋状になっている大木を渡る。
非常に安定した感じで、あっさり谷を渡れた。
「よし、じゃあ壊しとこうか」
「お任せください、クィード――竜光弾!」
プリシアが手から光弾を複数発射する。
光弾が大木に当たり、炸裂する。
大木は破壊されて、谷底に落ちていった。
「よし。これでカイザーボアの心配はなくなったと。――じゃあ、僕らはこの先に隠れ里を探そうか」
「はい」
僕らはしばらく山中を歩く。
「隠れ里があったら――判るの? プリシア」
「多分……ですけど」
結構、奥まで入り込むと、目の前に断崖が現れた。
これを登るのは――ちょっとしんどそうだ。
「こういう処の何処か中腹に入り口があることが多いと思うんですが……」
登るのか~い!
「そ、そう。登るのは結構――大変そうだけど……」
「確かに人間態では大変そうですわね――。普通は飛んできて、入り口に入りますから」
「竜の姿が前提か……」
これは思いやられる。と、僕はふと疑問に思って訊いてみた。
「ところでプリシア、竜の姿に戻れるの?」
「竜態に戻れるとは思うのですが……多分、紋章から受ける痛みがひどくて、すぐに戻ってしまうと思います」
「そっか――」
滅竜士の紋章は、そんなにプリシアを苦しめているのか……。まったく許せない奴らだ。と、プリシアが考えた後で、口を開いた。
「クィード……わたし、竜態になって入り口を探してみます」
「え、大丈夫なの、プリシア?」
僕が心配になって訊くと、プリシアは微笑した。
「少しの間だけなら頑張れますわ。それに――下から探しても、まず見つからないはずですから」
「そうか――それなら……。無理しないでね、プリシア」
プリシアは頷くと、その身体が光り輝き出す。その光は巨大化していった。




