4 カイザーボアとの戦い
僕たちを重力の魔能で押し潰した状態にしておいて、カイザーボアは僕たちを喰うことにしたようだった。
カイザーボアが大口を開けると、僕の腕程もある牙がギラリと光る。
「シャッシャッ――シャアァ-ッ!」
カイザーボアが襲って来た。最初に狙ってるのはプリシアだ。
「プリシアッ! ――くぅっ!」
僕は重力に押し潰されながらも、横に転がってプリシアの傍に行く。
カイザーボアの僕らの背丈ほどもある、巨大な顎が迫って来ていた。
「把気!」
プリシアの身体を丸のみにしよとしたカイザーボアの眼を、僕は横から把気を伸ばして突いてやった。
「シャァァァッゥッ!」
カイザーボアが奇怪な声をあげて、その痛みに身体を跳ね上げる。と、今度は僕の方をその赤い眼でぎらりと睨んだ。
「シャアアーッ!」
今度は凄い勢いで、僕の方に牙を向けてくる。
よし! それでいい!
僕は渾身の力で気力を振り絞った。
「気流柔術――竜巻巴投げ!」
本来、押し込んでくる敵を倒れながら後方に飛ばし、その投げに回転を咥える技だ。僕はそれを寝たまま、向かって来るカイザーボアの顔に決めた。
カイザーボアの顔が僕の上方を滑るように抜け、そのまま回転しながら飛んでいく。カイザーボアは顔面から、近くの大木に突っ込んだ。
と、不意に身体が重力から自由になる。
「あ、重力が解けた! プリシア、起き上がるんだ!」
「はい!」
僕らは立ち上がった。が、僕らの身体は巨大なカイザーボアのとぐろの中だ。
カイザーボアの樽ほどもある巨大な尾が、横なぎに襲いかかって来る。
「ハッ!」
プリシアは跳躍して、うなってくる尾の攻撃をかわした。
僕は――
「把気!」
向かって来る尾に対して、把気を伸ばす。無論、その攻撃を押しとどめることはできない。
が、僕はその向かって来る胴体の上を、側転の要領で飛び越えて抜けた。
一度、とぐろの外に出た僕らは、カイザーボアを睨みつける。
「動きを止めると、重力の魔能にやられる。動きまわって、攻撃を仕掛けよう」
「判りましたわ! 竜光槍!」
プリシアは手から光の槍を出すと、向かっていってカイザーボアの胴体に突き刺した。
「ジャアァァッッ!」
怒りの声をあげたカイザーボアが、赤く眼を光らせる。
しかしプリシアは既に跳び退いて、その焦点を定めさせない。
僕は気力を練りながら、カイザーボアの胴体に当身を打った。
「旋気内撃破!」
打ち込んだ処に、気流の渦が発生し内部に浸透する。
「ジャアァァァァッ!」
怒り狂ったカイザーボアの尾っぽ攻撃がまたやってくる。
僕はそれを身をかがめてかわした。
ギルガインを一撃で戦闘不能にした技だけど――身体が大きすぎて、全身に衝撃が行き渡らない。
そもそもだが、柔術は対人間用の技であって、モンスター相手には向いてない。
「プリシア、僕の技ではあまり有効な攻撃方法がない!」
「どうしますか、クィード!」
「こっちに来て!」
僕が呼ぶと、プリシアがひらりと跳躍して僕の元に降りる。
「プリシア、プリシアの最大出力の技で倒そう」
「あ、人間相手に使っちゃダメだって、ネフィーラに言われたアレですね!」
「うん」
少し嬉しそうな顔のプリシアに僕は頷いた。
「プリシアの技に、僕の支援魔法を加える――威力強化!」
僕はプリシアに支援魔法をかけた。
実は治癒魔法だけでなく、白魔導士系の支援魔法も僕は父さんから教わってたんだ。
「凄い! 魔力がみなぎってきますわ!」
「よし、さらに魔力譲渡――プリシア、決めて!」
「判りました!」
プリシアは両手を広げて魔力を高める。プリシアの身体から、白金のオーラが立ちのぼった。
その広げた両手を胸の前で合わせ、両手の平を縦にする。
「行きます! 竜光砲!」
構えたプリシアの両手から、凄まじい勢いで巨大な光線が発射された。
その人の背丈ほどもある光線は、頭上で鎌首をもたげていたカイザーボアの首に命中する。
「シャ――」
光線は一気にその首を貫き、首と胴体を焼きちぎった。
巨大な頭が地面に落下し、頭を失った胴体が地面に倒れこむ。
勝負は決した。
「いやぁ……凄いな、プリシアの技」
「うふふ、クィードに強化してもらったからですわ」
プリシアがにっこりと微笑んだ。
僕らは落ちたカイザーボアの頭部に歩み寄った。
「これでカイザーボアは仕留めたけど――この一匹だけなのかな? まだ匂いするかい?」
「ええ、まだいそうです。けど、美味しそうな匂い……。クィード、ちょっと食べていきません?」
プリシアが眼を輝かせて言うのに対し、僕は苦笑した。
「僕はいいよ。プリシアが食べたいなら――まあ、食べたらいいよ」
「やった! じゃあ、いただきま~す!」
プリシアはそう言うと、胴体の一部に光のナイフを入れた。
僕はその間に、僕の身体ほどの大きさがある頭部の様子をみる。
「魔能を使ったから、魔石を持ってるはずだ」
僕は常備してるナイフを取り出して、その頭を斬り裂いてみた。
魔石は魔能を持つモンスターの脳内にあり、素材として売買される。
と、僕が魔石の取り出しをしていると、プリシアが声をあげた。
「え~!? 美味しくありませんわ、なんで!?」
プリシアは不満そうな顔で、手にした肉を見ている。
その口の周りが血だらけで凄いことになってるが、プリシアは気にしてないらしい。
「――人間態の時は、人間の味覚に近いんじゃないのかな? だって、今まで料理を美味しいと思って食べてたんでしょ?」
「確かにそうですけど……え~、カイザーボアの生肉を美味しいと思えないなんて……」
「まあまあ、そんなにしょげないで」
僕は苦笑しながら、カイザーボアの魔石を獲り出した。
「それじゃあ、もう少しこの近辺のカイザーボアを駆除しよう」
「わたしのモチベーションは半減しましたわ……」
「それじゃあ、困るなぁ」
僕は苦笑する。
顔を綺麗に拭いたプリシアは、残念そうにカイザーボアの肉を放った。
それから四匹、僕らはカイザーボアと遭遇し駆除した。
一匹目を倒した後はその攻撃法にも慣れたので、意外と簡単に倒せた。
「――どうプリシア? まだこの山中にカイザーボアはいるかな?」
「今ので多分、終わりですわ。もう、匂いがなくなりました」
「よし。それじゃあ駆除は完了だ。けど、やっぱり随分、こっちの山に入って来てるんだな。その原因を調査しないと」
僕らはより山中に分け入り、隣の山傍までやってくる。
その隣の山との間には、深い谷があった。谷の幅は20mくらいある。
「この谷は、カイザーボアじゃ渡れないはずだな……」
谷沿いを歩くと、ふと目に留まるものがあった。
谷にわたすように――大木が倒れている。まさか……即席の橋?
「これは……人の手で倒されたものなのか――?」




