3 声を殺して――
なんとなくマットの上に移動すると、プリシアはちょこんと正座をする。
そして僕に顔を赤らめて、恥ずかしそうに言った。
「あの……もう、わたし身体が少し疼いてきてるんです……」
「え? あ、今日は戦闘もしたし疲労があるからか。大丈夫?」
プリシアはこくりと頷いた。
「じゃあ、治癒しとこうか。横になって」
プリシアの身体が光ったかと思うと、その服が薄手のタンクトップとショートパンツだけになった。
「……お願いします」
プリシアがそう言って、身体を横たえる。
すっと長くて白い脚が、伸ばされた。
僕は傍に座って、右脇腹のところをめくる。
確かに滅竜の紋章がうっすら光を放ち始めていた。
「じゃあ始めるよ――治癒」
「んっ――」
プリシアが小さく声をあげる。
僕は紋章に治癒の光を浴びせた。
「んっ、あ、あぁン――」
「プリシア、ここはよそのうちだから声をそんなにあげちゃダメだよ」
僕はプリシアに注意した。と、顔を切なげに赤らめたプリシアが言う。
「だって……気持ちよすぎて――声が出ちゃうんですもの……んっ――」
「しょうがないな――」
僕は少し辺りを見て、荷物からタオルを取り出した。
「じゃあ、プリシア、これを噛んでて。口から離さないようにね」
「わ……わかりました……」
少し折ったタオルをプリシアの口元にもっていくと、プリシアが濡れた唇を開いてタオルを咥える。噛んだ様子を見て、僕は治癒を続けた。
「んっ! くぅ……ふ、ふぅ――ン、ン、ンくぅ……」
プリシアが口元を噛みしめながら、一生懸命に声を押し殺している。
けど、身体の疼きは収まらず、悶える姿は止まらない。
「んんっ――んっ、んっ、ンく――ん、あぁ――」
遂に堪えきれずに、プリシアは口を開いた。タオルが口元に落ちる。
「あぁン、んふっ、ンっ――くぅン――」
「プリシア、ダメだよ、口を放しちゃ。それに声も出しちゃダメ」
「そ……そんなこと言って……いじわるですわ、クィード――」
プリシアが切なげな表情で、涙目になって僕を見る。
プリシアは濡れた唇を開いた。
「なんだか……いつもより――刺激が強いんですの……あンっ」
「参ったな――どうするか……」
僕はちょっと考えて、タオルを丸めて棒状にした。
「プリシア、苦しいかもしれないけど――少し我慢してね」
僕はその棒状になったタオルを、半開きになっているプリシアの口に押し込んだ。プリシアが少し、眼を見開く。
「――んぷっ! んくンっ……ん、ん、うぅん――」
「じゃあ……続けるからね」
僕は口に棒状タオルを咥えたプリシアに、治癒の光をあてる。
そのタオルを咥えた顔が、のけぞった。
「んくーっ! ンンっ、ン、んんぅ……」
「頑張って、声を出さないようにね」
「ふーっ、ふくぅ……ン、ンンっ、ンン――」
プリシアの白い顎がのけぞり、綺麗な首がいやでも目に付く。
と、プリシアは左手を伸ばし、座っている僕の膝に触れた。
プリシアの細い指が、切なそうに僕の膝を掴む。
「もう少しで終わるから、ね――」
「んふっ、ンン、んっ、んっ、ンンン――ンくぅぅぅ……」
ぐっ、僕の膝をプリシアが掴む。プリシアは、白い身体を硬直させてのけぞらせた。
――と、そこでプリシアの動きが収まる。紋章の光も弱まった。
僕は息をついているプリシアの口から、タオルを抜いてやった。
その濡れた唇から、唾液が光りながら糸を引く。
「ひ……ひどいですわ……クィード……」
「ごめん、苦しかったよね? けど、しょうがなかったんだよ」
プリシアにそう言うと、プリシアは赤くなった顔をそっと横に向けた。
「なんだか……口の中まで気持ちよくなってしまって……もう――わたし、どうしたらいいんですの?」
え? そうなの? ちょっと……僕もどうしていいんだか判らない。
「クセになってしまいそう……」
プリシアは赤らめた顔を、恥ずかしそうに僕に向ける。
どきり、とした僕は何も言えなかった。
――翌朝、僕らはケリーガ一家に見送られて、調査に出発した。
「くれぐれも――ご用心ください」
「はい、判りました。とにかく、一度は戻ってきますから」
僕がそう言うと、ケリーガは強く頷いた。
「がんばってね~っ!」
ミリーの元気な声に送られて、僕らは山の中へと分け入る。
しばらく山中を歩いたところで、僕はプリシアに言った。
「さすがに昨日、相当にやっつけたから、森ジャッカルは出ないね」
「この山の奥って言ってましたわね」
二人で山奥にぐんぐん進むと、ほとんど人の道のない山中に入っていった。
「どう、プリシア? カイザーボアの気配とか判る?」
「気配というか、匂いがしますわ」
「匂いが判るの?」
「ええ、美味しそうな匂い!」
嬉しそうに微笑むプリシアに、僕は笑うしかない。
「それで――何処にいるか判る?」
「匂いをたどって行けば、獲物にたどり着きますわ!」
獲物ねぇ……。いや、相手はBランクモンスターなんだけど――大丈夫かな?
「この先にカイザーボアがいますわ」
「よし……気を付けていこう」
僕たちは森を先に進んだ。
開けた場所に出る――
「――ぐあっ!」
いきなり、僕の身体が凄い力で押し潰された。
隣でプリシアも押し潰されている。
「こ……これは――カイザーボアの魔力!? ……重力?」
「こんな――」
カイザーボア……こんな魔能を持つモンスターだったのか?
「ぐぅ――」
地面に触れた頬が、さらに押し付けられる。
プリシアも地面に這いつくばって、苦し気な顔を浮かべている。
「カイザーボアの魔能なんて……竜の時は、なんてことなかった……のに」
プリシアが苦し気に呻く。
「そりゃ……竜の身体だったら、受ける重力の影響もそんなに……大きくないから……」
「う、動けませんわ、クィード……」
プリシアが腕の力を入れようとして――潰される。
ダメだ、プリシアの竜本来の力は、人間態の時には相当に落ちるんだ。
僕がなんとかしないと――
そう思った瞬間、頭上に影が差す気配がした。
地面からは、大きなものを引きずる音。
僕は地面に押し付けられてる顔を無理やり横に曲げて、視界を上に向ける。
カイザーボアだ。信じられないくらいの大蛇がそこにいた。
黒緑の身体をうねらせ、先が二つに割れた舌をちろちろと出し入れしている。
その眼が赤く光っていた。
「あれが――魔能を使ってるしるしか……」
大きな樽ほどの太さの胴体が、ぐるぐると廻りを囲み、重力に押し潰されてる僕らを完全に取り囲んだ。
ダメだ――逃げ場がない。そして狙いすましたように、大蛇が口を開けた。
「襲って来る……プリシアっ!」




