2 滅竜献身攻団の残したもの
僕はケリーガに訊いてみた。
「あの……竜が原因って、どういう事なんですか?」
「正確には――竜、というより、滅竜攻団が原因なんですが……」
ケリーガはそう言って言葉を濁す。恐らく、言いにくいんだろう。
僕は敢えて、ケリーガに言った。
「また、あの人たち、何かやったんですか? 本当に困りますよね」
「あ……判って――いただけるんですか?」
「ええ。もちろん」
僕は微笑してみせた。と、ケリーガは息をつくと、話を始めた。
「実は……この村では竜は外の街のように忌み嫌われてはおらず、ずっと好ましい存在として語り継がれてきました。というのも、近くに竜の隠れ里があるらしく、そこの竜が定期的にモンスターを捕食してくれるおかげで、この近くの森はモンスターが増え過ぎず、村も安全だったんです」
竜の隠れ里が、そんな風に村に役立っていたのか……。ここでは竜は、全然、嫌われてない存在だ。
僕はプリシアの方を見ると、プリシアの表情が堅くなってる。
「あの……その竜の隠れ里が、どうかしたんですか?」
プリシアが緊張した面持ちで訊ねた。
「どうやら――滅竜献身攻団が、部隊を送ったらしいです。そして討伐を完了したと。この村に告げに来ました。そして竜の危険を駆除した報酬として、大変な額の金額を請求してきたんです」
僕は思わず顔をしかめた。けど、プリシアはその表情を険しくしている。
「村に危険でもなかったのに、勝手に隠れ里を襲って――それで報酬を要求して来たんですか」
「ええ。この村だけでなく、近隣の村一帯にですね」
僕は少し腹がたって言った。
「そんな無法な要求、断ればいんですよ」
「ある村がそうしようとしたところ――滅竜攻団のリーダーが言ったそうです。『我らの行いに感謝しないということは、竜に加担する異端信徒と見做す。村が異端信徒であるならば、悪の存在として浄化する必要があると見做すが、どうだ?』と」
「脅しじゃあないですか!」
さすがに腹がたった。法外な要求にもほどがある。
勝手なことをしておきながら、保護料を要求するなんて、犯罪組織ばりのやり口だ。
「そう言われたその村の者は恐ろしくなって、要求通り高額の報酬を払いました。そしてその村に続いて、他の村も――この村も滅竜攻団の要求に従ったのです。正直、小さな村にはとても厳しい要求で、村の財政は大変なことになりました。が――それはまだよかった」
「それで……森ジャッカルが出るようになったと?」
ケリーガが頷く。
「はい。森ジャッカルが頻繁に出るようになり、私たちは滅竜攻団にかけあいました。森ジャッカルが出るようになったのは、竜がいなくなったためだ。できたら森ジャッカルも駆除してほしいと」
「すると、どうしたんです?」
「『我々、滅竜攻団は、竜の駆除以外のことは引き受けない――と』
……ひどすぎる。
ケリーガはそう言って顔を曇らせたが、けど顔を上げて僕らを見た。
「それで村の中で戦える者を集めて、森ジャッカルの駆除に乗り出したのです。しかし向うは数が多く、我々は戦闘に慣れてなくて、もう少しで全滅するところでした。リーダーとして出て行った私が一番重傷になってしまい、クィードさんたちに助けられなかったら命を落としていたところです。……この子にも、二度と会えなくなるところだった」
ケリーガは足元にやってきたミリーと呼ばれていた女の子の頭を撫でた。
「おとーさん、帰ってきた!」
「うん。このお兄さんたちのおかげで帰ってこれたんだよ」
ケリーガはそう言って、ミリーに微笑む。
と、ととと、とミリーがプリシアのところにやってきて、にこっと笑った。
「おねーさん、きれい!」
「まあ! ありがとうございます」
プリシアは嬉しそうに微笑んだ。
と、ケリーガが改めて深々と頭を下げる。
「本当に……助けていただき、感謝してます」
「あ――それはいいんですが。森ジャッカルはあれくらい駆除すれば、大丈夫なんでしょうか? 竜がいなくなって自分たちを捕食する者がなくなかったからといって、テリトリーの外に広がって来てるんでしょう?」
僕がそう訊くと、ケリーガは頷いた。
「実は……あいつらも、あるモンスターに追われてこの辺まで現れてるんです」
「あるモンスター?」
「はい。それはもっと奥地に住むカイザーボア――です」
カイザーボア――皇帝巨蛇だ。僕も名前だけは知ってる。
「あ、カイザーボア! あれ、美味しいんですよね。肉もたっぷりで!」
そう声をあげたプリシアの言葉に、ケリーガは目を丸くした。
え? そっちが竜の好物ってこと!?
「え!? カイザーボアを食べたことがあるんですか?」
「あ、いやいや、前に売ってるのを食べたことがあるだけです。――で、そのカイザーボアが竜がいなくなったことで、範囲を広げた。そしてカイザーボアから逃げて、森ジャッカルが村まで来るようになった――そういう話なんですね」
プリシアの言葉を慌ててごまかした事には気づいてない様子で、ケリーガは話を続ける。
「そうなんです……正直、単体ならDランクモンスターの森ジャッカルまでは我々で対抗もできますが――カイザーボアはもう無理です。体長は20mほどもあり、Bランクモンスターに指定されてます」
ケリーガはそう言うと、息をついた。
「けど、少し不思議ではあるんです。カイザーボアの住む山は一つ離れていて、その山との間には深い峡谷があります。たとえ竜がいなくなったとしても、こっちの山にまで来るようになるなんて――」
「原因は判らないんですか?」
僕が訊くと、ケリーガは首を振った。
「調査に行きたいのはやまやまなんですが、その道中が危険すぎて無理なんです。カイザーボアに襲われたら、ひとたまりもない」
そう言うとケリーガは口惜しそうに唇を噛んだ。
僕は隣のプリシアを見る。と、プリシアはにっこりと微笑んだ。
うん、そうだよね。
「あの……僕らが調査に行きますよ。それで、カイザーボアができたら山越えしないような策を考えてみます」
「え! いや――それは幾らなんでも危険だ! 確かに二人は相当にお強いとは思いましたが……」
ケリーガが深刻な表情を見せる。けど、僕は笑ってみせた。
「大丈夫です。危なくなったら逃げますから。僕は治癒士なんで、戦闘より逃げる方が得意です。それに――このまま、不安の中で暮らすなんて…できませんよね?」
僕はプリシアの隣に座ってご機嫌そうな顔のミリーを見た。
ケリーガがはっとした顔になる。そう、娘さんを、モンスターがいつ襲って来るか判らない村のなかで育てたいはずはない。
「本当に……いいんですか? そんな――十分なお返しも……今の村の財政ではできませんが――」
「あ、いいんですよ。そんなこと気にしないでください。今晩ご馳走になって、泊めていただけるだけで充分ですから」
僕はそう言って笑った。
なんだか、この小さな村の、幸せそうな家族を見てると――放っておけなくなったんだ。できたら、この家族の幸せを守ってあげたい。
父さんは、よく言ってた。
“村のみんなの心と身体の健康を守る。それが父さんの治癒士としての役目さ”
僕はそんな父さんに憧れて、治癒士になったんだ。
ケリーガが涙ぐみながら、頭を下げる。
「クィードさん……本当に、ありがとうございます」
「――あの、食事ができました」
そこに、奥さんのリーネが湯気のたつ食事を運んできた。
「うわぁ、いい匂いだ。美味しそうですね!」
「おかーさんの料理、おいしいよ!」
ミリーが元気に言う。僕とプリシアは、思わず微笑んだ。
食事はとても美味しく、僕はリーネに作り方なんか聞いたりした。
途中でふと思い出したように、リーネが訊く。
「ところで――カイザーボアってどういう調理法で食べたんですか?」
「そりゃあもちろん生――」
プリシアがご機嫌にそう答えようとするのを、僕は慌てて遮る。
「――なまあああ、生っぽい、ステーキ? みたいな? いや、ちょっと人によってはお腹壊しますんで、僕はオススメしないですね。あはは」
「そうなんですか。じゃあ、あたしも機会があっても遠慮しとこうかしら。あ、お二人には空いてる部屋にマットが敷いてあるんで、そこで休んでください」
食事が終わってリーネに案内された部屋には、確かにマットが二つ並んでいた。
おやすみの挨拶をして部屋に残されると――僕とプリシアは見つめ合った。




