第七話 ヒジタ村の窮状 1 森ジャッカル迎撃
僕が治癒の光を浴びせると、その倒れてる人の喉の傷が回復していった。
よかった……なんとか間に合った。
「あ……あんたは、一体――」
「治癒士です。間に合ってよかった」
僕は笑ってみせた。その人は身体を起こして、戦いの続いている周辺を見る。
「く――数が多すぎるんだ……」
「大丈夫、なんとかします」
「なんとかって……あんた――」
その人が驚くなか、僕は周囲を見た。とりあえず、重傷な人はいない。
この開けた場所では――効率的に戦えない。
「皆さん、こっちの方に集まって来てください! プリシア、その間、森ジャッカルを少し足止めして!」
「判りましたわ、クィード!」
プリシアはそう言って、にっこりと微笑む。
と、プリシアはその両手を頭上に掲げた。
「竜光爪!」
大きな光の爪の線が、森ジャッカルたちを襲う。何匹かがその光の爪に斬られ、森ジャッカルの群は怯んで足を止めた。
「グガァッ!」
「グルルルル……」
その間に戦ってた男たちが、こっちにやってくる。
此処は、二本の大木の間。ここなら森ジャッカルの群をこの狭間に呼び込める。
「プリシア、戻って来て!」
「はい!」
プリシアが戻って来て、森ジャッカルたちがそろそろと近づいて来てる。
まだ、こっちを狙っている。
「おい、あんた。これからどうしようっていうんだ!?」
男の一人がそう言ったのに、僕は答えた。
「これから襲ってくる森ジャッカルを、左右の大木にぶつけます。プリシアは右を、あなたたちは左側に飛んできた森ジャッカルをやっつけてください」
「お、おぉ……」
少し当惑気味の男たちに後ろに控えてもらって、僕は前に出た。
「さあ、来い! 森ジャッカル!」
「――ガァァッッ!!」
森ジャッカルの群が一斉に襲い掛かって来る。
僕は両腕を回し、気流の渦を作り出した。
「気流柔術、双円転舞の型!」
左右二つの巨大な気流の渦に、森ジャッカルが飛び込んでくる。
と、飛び込んできた森ジャッカルは左右に飛んでいく。
「ギャン!」
「キュウ――」
左右に飛んだ森ジャッカルは、傍の大木にぶつかり地面に落ちる。落ちた森ジャッカルは、ダメージで少し動けない。
「竜光剣!」
その動けなくなった森ジャッカルを、プリシアは斬り捨てていく。
「お、オレたちもやるんだ!」
「お――おう!」
男たちは地面に落ちた森ジャッカルに襲いかかる。
森ジャッカルの群は凄い勢いで向かって来て、どんどんと左右に飛んでいく。
プリシアはそれを次々に斬り払い、男たちも数人がかりで森ジャッカルを仕留めていった。
30匹以上はいたと思う森ジャッカルが、10匹以下になった。
僕は双円の気流を作り続けながら、森ジャッカルに呼びかける。
「おい! もういいんじゃないのか? 全滅したいのか!?」
「グルルルル……グワオゥ!」
リーダーっぽい森ジャッカルが吠えると、群れはこちらに襲いかかるのを諦め、背中をみせた。群れが去っていく。
戦いは終結した。
「どうやら行ってくれましたね。ところで、怪我してる人いますよね。今、治癒しますから。――範囲治癒!」
僕は男たち全員をカバーできるように、範囲型の治癒魔法を使った。
男たちが光に包まれる。
「お、おぉ……」
「傷が治っていくぞ――」
男たちが呆然としたままで、声をあげた。
と、僕が最初に治した重傷者だった人が僕の前にやってきた。
「ありがとう、治癒から森ジャッカルの撃退まで。――何から何まで助けてもらったな。私はこの先にあるヒジタ村のケリーガだ。ところで、君たちは一体――」
ケリーガは、僕らに問うように目線を向けた。
「僕は通りすがりの治癒士で、クィードっていいます。こっちは……ペアを組んでる――光魔導士のプリシアです」
「まあ、ペアだなんて……もっと別の言い方でもいいんですのよ」
プリシアはなんか赤くなって、首を振っている。
光魔導士ってのは、ネフィーラがそう登録したんだ。まさか竜とは言えないし。
「通りすがりって――こんな山奥に、ですか?」
「あ、僕らは山越えをしてサウスリアのケレンに行くつもりなんです」
僕がそう言うと、ケリーガは目を丸くした。
「え? まさか、この山奥で野営するつもりだったんですか?」
「ええ」
ケリーガはぶんぶんと首を振った。
「とんでもない話です! 今、この森は森ジャッカルが溢れていて、それが村にまで来るようになったので、今日、討伐隊を作ったところでした。もし野営なんかしてたら、あの大群に夜中、襲われてましたよ」
「そうでしたかぁ」
僕は苦笑した。と、つられたようにケリーガも笑う。
「助けてもらったお礼もしたいし、是非、村に来てください。小さい村ですが、寝泊りと食事の準備くらいはできますから」
「いいんですか?」
ケリーガが頷き、他の男たちも頷いている。
僕はプリシアと目を合わせると、ケリーガに言った。
「それじゃあ、厄介になります。よろしくお願いします」
僕らはそう言って、その先にある山奥の小さな村、ヒジタ村に案内された。
村に到着した頃にはすっかり陽が落ちて夜になっている。
「クィードさんたちは、是非、我が家においでください」
「はい。それじゃあ、お願いします」
ケリーガの申し出に、僕は快く頷いた。
一軒の、比較的大きめの家に近づくと、家の中から子供が飛び出してくる。
多分――4,5歳の女の子だ。
「おとーさん!」
女の子が走って来ると、ケリーガは腰を落として女の子を抱き上げてやった。
「おとーさん、おかえりなさい!」
「ただいま、ミリー」
「――あなた……」
家の中から、女性が顔を出す。ケリーガの顔を見て、明らかな安堵の表情をみせた。多分、奥さんなんだろう。
ケリーガはその女性の顔を見ながら、微笑む。
「ただいま、リーネ」
「……おかえりなさい」
リーネと呼ばれた女性は、そっと涙をぬぐうと笑顔を見せた。
「無事で――よかった……」
「この人たちが助けてくれたんだ。こちらは治癒士のクィードさんと光魔導士のプリシアさんだ」
ケリーガの紹介に合わせて、僕らも挨拶した。
家の中に案内してもらうと、リーネが温かいお茶を出してくれる。
それを飲むと、やっと落ち着いた。
「今、食事の支度をしますので、少しお待ちください」
「あ、ありがとうございます。――ところで、この辺の森ジャッカルはいつもあんな風に群れで襲って来るんですか? 森ジャッカルは、あまり自分たちのテリトリーから出ないモンスターだと思ってたのに」
リーネが去ったところで、僕はケリーガにその疑問をぶつけてみた。
と、ケリーガが顔を曇らせる。
「いいえ……群れで村を襲うようになったのは最近です。実は……竜が原因です」
「え? 竜が?」
僕は内心、驚きを感じながらも、それを必死で押し隠した。




