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辺境の治癒士が竜姫と出会ったら ~癒しの魔法に女性たちはメロメロ!?~  作者: さとうはるか


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4 黒仮面卿


 突然、部屋の隅にある影から、人影が音もなく昇ってくるように現れた。

 その気配に、攻魔四元将の四人が凍り付く。


「黒仮面卿、そなたはどう思う?」


 ゼーレ司教はその影に声をかけた。

 黒い鎧に黒い兜。そして黒い外套をまとったその者は、兜に下に黒い仮面をつけていた。


 まっ平らな黒の仮面は、眼だけが細く鋭い形で赤く光っている。

 その仮面の下から出た声は、闇から出たような重低音だった。


「それらの者たちでは、くだんの者を倒すことは不可能と思われます」

「そんなことはねぇっ!」


 『炎爆の』バルガスが赤い髪を振り乱していきり立とうとする。

 と、突然、バルガスの傍の影から黒い影の腕が伸びて、立とうとするバルガスを床にねじ伏せた。


「ぐぉっ!」

「司教の御前であるぞ……慎め」


 黒仮面卿と呼ばれた男が、バルガスにその仮面を向けている。


「ぐ……ぐぅ――」


 首を影の腕が抑えつけ、バルガスは小さく呻いた。


「もうよい、黒仮面卿」

「は――」


 バルガスを拘束してる影の腕がなくなり、バルガスは息も絶え絶えにまた片膝の姿勢に戻った。


「して、どうするのがよい?」

「既に選伐した者を呼んでおります」


 黒仮面卿がそう言うと、その部屋の扉が大きく開かれた。


「お呼びになりましたか、ゼーレ司教様……」


 濃緑の髪をざんばらに伸ばした男は、不景気な表情で入ってきた。

 その背中が曲がっていて、目つきが悪い。


「『蟲使いの』ゲゾン……」


 シュラが眼鏡の奥の眼を見開く。

 と、さらにもう一人の声が、部屋に響いた。


「お呼びになりましたあ? 司教さまぁ」


 白いフリルをあちこちに着けた少女は、場違いに明るい声を出して部屋に現れた。と、その少女は、片膝をつく四人を見て笑い声をあげる。


「あれ? 攻魔四元将の四人、失敗しちゃったのぉ? アタシってば、その尻拭い? ……あ、やぁだぁ! 尻拭いって、ちょっとエッチな言葉ね!」


 そのピンクの髪を左右でぐるぐるに巻いた少女は、ぺろりと舌を出した。

 黒髪のディランが、目を剥く。


「『菓子姫』キャンディーヌ……特滅衆が、直々に――?」


 キャンディーヌはにこにこしながら、片膝をつく四人に近づく。

 恐れの表情を浮かべるディランに、キャンディーヌはポケットから出したものを差し出した。


「はぁい、これでも食べて元気だしてねぇ」


 掌の上には包装紙に包まれたキャンディー。ディランは恐る恐る、それを受け取った。


「あ……ありがとうございます…」

「みんなもね~」


 四人にキャンディーを配り終わると、キャンディーヌは司教の方を向いた。


「それでぇ、攻魔ちゃんたちがやられたのってぇ誰なんですかぁ?」

「……光龍王の娘。と、それに加担する者だ。名前はクィード・ロラン」

「ふぅん……竜の味方するなんてね~」


 キャンディーヌのあどけなく見えた顔が、一瞬にして歪む。

 さっきまでの甘ったるい声とは異なる、唸るような低い声で呟いた。


「……許せないわ」


 その様子を、背中の曲がったゲゾンがうろんな目で見ている。

 と、キャンディーヌは一瞬で、また笑顔に戻った。


「ところでぇ、アタシと一緒に行くのが、この虫くんなの?」

「そうだ。ゲゾンとともに竜と、その仲間を討伐せよ」


 キャンディーヌはゲゾンを見ると、嫌そうな顔をした。


「アタシのお菓子に虫がたかりそうでヤだなぁ」

「……別にオレは、一人でいいんだがな」


 ゲゾンが気怠い顔で、そう口にした。


「攻魔四元将は実質、クィード・ロラン一人にやられている。彼の者を侮るな」


 ゼーレ司教は高圧的な口調でそう言った。

 が、傍に控える黒仮面卿が、重々しく口を開く。


「しかしこれらの者は優れてるとはいえ、魔法の基本四元素、火・水・土・風の属性魔法の者。特滅衆はそれぞれ特殊魔法を使う者たち。――しくじる、という事はありますまい」


 黒仮面卿はそう言うと、プレッシャーをかけるようにキャンディーヌとゲゾンを見た。

 キャンディーヌは不敵に笑い、ゲゾンは生気のない顔で頷いた。


「――よかろう。二人とも期待しておるぞ。攻魔四元将は……一、二ヶ月ほど休暇でもとれ」


 ゼーレ司教の言葉に、ディランは顔をあげた。


「し、司教様、我らはまだ――」

「休め、と言ったのだ、ディラン」


 ゼーレ司教の言葉に、ディランは平伏して頭を下げた。

 キャンディーヌはそれを見ると、ゲゾンに近寄って笑顔を浮かべた。


「それじゃあ、行こっか! ね、虫くん」

「……その呼び方、やめろ」


 ゲゾンは少しも笑わずにそう答えた。



○  ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○



 僕たちは森の中を歩いていた。結構、暗くなってきてる。


「プリシア、そろそろ野営しようか?」

「野営って、どうするんですの?」


 プリシアが首を傾げるので、僕は答えた。


「テントを張ってそこで泊まるんだ」

「テントの中で……クィードと二人きりですのね」


 プリシアはそう言って、赤くなって横を向いた。

 そ……それは――そうだけど……。


 と、その時、何か獰猛な吠え声が聞こえた。


「まあ、野獣の声――あれは森ジャカルですわね」

「プリシア、声で判るんだ」

「ええ、あれは結構、美味しいんですのよ」


 プリシアがにっこり笑う。……森ジャッカルを食べるなんて話、聞いたことないぞ。さすが竜だ。

 は、いいが。その後からも声がする。


「――ここで絶対、食い止めるんだ!」

「ギャァッ!」

「ケリーガ! 大丈夫か!」


 人間の声だ。多分、森ジャッカルと戦ってる。


「プリシア、行こう! 助けないと!」

「はい!」


 僕たちは駆け出した。森の暗い道を抜けると、少し開けた場所に出る。

 そこで見たのは――まさに森ジャッカルの群と激戦中の人たちだった。


「グワッ――」

「くそ! 数が多すぎる!」

「怯むな! ここで食い止めないと――村が守れないぞ!」


 そこにいる男は十数人。いや――一人、倒れてる人がいる。


「プリシア! 少しの間、迎撃して!」

「判りましたわ!」


 プリシアは戦闘中の中に突っ込んでいって、手から光弾を放った。


「竜光弾!」


 幾つもの光弾が飛来して、森ジャッカルを攻撃する。森ジャッカルが怯んだ。

 僕はそこを駆け抜けて、倒れてる人の元に駆け付けた。


「大丈夫ですか! 今、治癒します!」


 僕は倒れてる人を見た。喉笛を噛み切られていて、そこから大量に出血してる。

重傷だ! けど、まだ息はある。今なら間に合う!


治癒(ヒール)!」


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