2 ギルガイン戦、決着!
気渦流・無限の型――それは気流を∞の形に展開する技。
この∞の形は『メビウスの輪』の形。即ち、帯を一回ひねって切り口と切り口を接合した形。この形は表が裏に――そして裏が表につながる形。
これを気流で実現したこの型は――
「――向かって来たものを、その方向に返す!」
『鋼鉄の』ギルガインが飛ばしてきた大型の金属片の嵐を、僕は気流の渦に巻き込む。そしてそれはそのまま、ギルガインに返す。
「なに……俺の攻撃が――」
ギルガインの驚く顔が見えるが、その顔は突っ込んでいった沢山の金属片の嵐にかき消された。
凄まじい爆炎が、ギルガインを包む。
その爆炎が消えると、ギルガインが姿を現した。
「……この野郎――」
自分の攻撃でボロボロになってる。けど、身体のあちこちを鋼鉄化して、後半は防いだらしい。
「やりやがったな!」
「やったのは、君自身だけどね!」
ノコギリ剣で直接攻撃に来るギルガインを、僕は迎え撃つ。
遠距離攻撃が防がれた以上、そう来ることは予想済みだ。
ギルガインがノコギリ剣で袈裟に斬りかかる。
が、僕は剣を振り上げたところで、既に入り込み、上に上げた腕を抑えている。
「く――」
胴体はガラ空きだ!
が、ここで勢いのある打撃を打たない。それはギルガインの鋼鉄化で防がれる。
僕はそっと掌で、ギルガインの胸に触れた。
「――?」
「旋気内撃破!」
渦を巻く気流が――ギルガインの背中に現れる。
「ぐ……お――」
気力の衝撃が渦を巻いて、体内に浸透していく。
慌てて掌に対し鋼鉄を作るが――それはもう無駄だ。
「ガ……ハッ――」
口から鮮血を吐き、ギルガインの身体から力が抜ける。
僕は掌を外し、間合いをとった。
ギルガインが崩れ落ち、仰向けに倒れた。
身体中が、気力の衝撃にやられてるはずだ。
「く……そ――」
口の端に血を垂らしながら、ギルガインは歯噛みをした。
僕は残った『水禍の』シュラに眼を向ける。
「あなたも戦うつもり?」
「仲間を殺すのであれば……やむをえない」
焦りを押し隠して、シュラが身構えた。
僕は目線を外して、倒れているギルガインに歩み寄る。
「待て! ――どうするつもりだ!」
「治癒」
僕は掌を向けて、ギルガインに治癒魔法を浴びせた。
ギルガインは驚きに眼を見開いた後、唸りながらこちらを睨む。
「貴様……どういうつもりだ――」
「あなたは見境なく竜を殺し、竜を庇う人も殺すかもしれないけど――僕はそうじゃないんだ」
僕はそれだけ言って、致命傷ではなくなったところで治癒をやめた。
次にディラン、そしてバルガスに治癒魔法をかける。
「君は……一体――」
「僕は治癒士だ、人を殺したいわけじゃない。仮にそれが自分や自分の大切にしてる人に、いきなり悪意や殺意を向けてくる相手でもだ。……あなたたちにも、何らかの正義感があるんだろうけど――けど、言っておくけど、いきなり罪のない者を殺そうとするあなたたちは、僕にとっては充分に悪だ。断言しておくけど……あなたたちは間違ってる」
僕はそれだけ言うと、目を覚ました滅竜士たちにそれだけを言った。
だが、ギルガインが声をあげる。
「俺たちは……間違ってなどない!」
「もう、あなたが判らず屋なのは判ったからいいよ。話しても無駄な人がいるって……初めて判った。じゃあ」
僕の村では――みんないい人たちで、ちゃんと話を聞いて一緒に考えてくれた。
この世界は、そういう人たちばかりじゃない。
判り合えない人がいるんだという事実を、苦い想いで噛みしめた。
「プリシア、ネフィーラ、行こう」
「クィード……立派だったぞ」
「うん。クィード、ありがとう」
ネフィーラとプリシアが、僕に微笑みかけてくれる。
うん……今は、この笑顔を守れたことだけでも満足しておこう。
その場を立ち去ろうとする僕らに、背後からギルガインの声が響いた。
「待て!」
僕は足を止めて振り返る。ヨロヨロになってるギルガインが、それでも立ち上がって僕を睨む。
「貴様の名は……」
「クィード・ロランだ」
僕も正面から、ギルガインを睨み返した。
ギルガインが口を開く。
「いいか……こんな事で情にほだされるなんて思ったら間違いだぞ……。俺は必ずお前たちを探し出して、その雌竜を殺してやる。俺を生かしておいたことを――後で後悔するんだな」
僕は正面を向けて、ギルガインに言った。
「仮に後であなたに災いをもたらされるとしても――今の決断に、僕は後悔したりはしない!」
僕はそれだけをはっきり言って、ギルガインに背を向けた。
と、僕の後にプリシアが声をあげる。
「あのね! わたしのことを雌竜、雌竜って失礼ですわよ! わたしはプリシア! ちゃんと名前があるんですから! ベーッ」
驚いたことに、プリシアがアッカンベーをしてみせる。
その可愛さに、僕は思わず吹いた。
「そんな顔、どこで覚えたの?」
「品が無くて申し訳ありません……。恥ずかしいですわ、クィード」
「いや、ちょっと可愛かったよ」
僕が笑うと、プリシアは嬉しそうに微笑んで、いきなり腕を組んできた。
「あ、あの、ちょっと!?」
「なんだかダメージがまだ身体に残ってるみたいです」
プリシアはぴったり寄り添って、僕の隣を歩いた。
荷馬車が破壊されてしまった僕たちは、そこから目的の山岳地域まで歩いて行く。やがてネフィーラが口を開いた。
「さて……私はここまでだ。ここからは――二人で行きなさい」
「ネフィーラ――どうしても一緒に来れないの?」
僕は言った。あんな連中が狙って来るんであれば、ネフィーラがいた方が心強い。けど、ネフィーラは苦笑してみせた。
「クィード……竜の力を解放したお前は、今や総合的には私より強い。私が一緒にいても、足手まといだ」
「そんな! そんなことないよ!」
「いや……それに、私にはやることがある。プリシアのその紋章の呪い――滅竜士の呪いを解除する方法を探すつもりなんだ」
ネフィーラの言葉に、僕らは息をついた。
「そういうつもりだったんだ……」
「だから、ここからは二人で行くんだ。荷馬車が燃やされてしまって食料の備蓄もなくなったが、山奥にも村はある。対価を払って寝泊りや食事をもらいなさい。道中で路銀がなくなったら、Bランク冒険者として登録してあるから、クエストをこなして稼ぐんだ。いいね?」
僕らは頷いた。が、ふと、疑問が生じてネフィーラに訊ねる。
「けど、冒険者ギルドに出向いたら、僕らの足取りが滅竜士たちにバレるんじゃないの?」
「冒険者ギルドは政府機関じゃないが、そもそも滅竜士を束ねる『滅竜献身攻団』も、政府の機関じゃない。そしてギルドと『滅竜団』は、あまり仲が良くない」
ネフィーラはそう言って笑った。
「そうなんだ。え? 滅竜士って、勝手に竜退治やってるってこと?」
「勝手とは言い難いが――総本部はノーストリア教国にある『来神教団』の傘下にある」
『来神教団』? 僕は村では、そんな名前は聞いたことがなかった。




