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辺境の治癒士が竜姫と出会ったら ~癒しの魔法に女性たちはメロメロ!?~  作者: さとうはるか


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3 功魔四元将の襲撃


 馬車を出た辺りは、崖に囲まれた峡谷地帯だった。

 峡谷の上から攻撃した影が見える。が、それより僕は馭者席のネフィーラが気になった。


「ネフィーラ、大丈夫!?」

「うむ……少し、気付くのが遅かったな――」


 見ると、ネフィーラの脇腹が赤く染まっている。鋼鉄の礫を被弾したんだ。


「治癒するよ、ネフィーラ!」

「――そんな余裕を与えると思ってるのかい?」


 上方から声がする。と同時に、何かが発射されてきた。

 僕は翼盾を展開して防御する。


 縦に当たったのは――水だ。水鉄砲?

 しかし水の線は崖のでっぱりに向かったと思うと、その岸壁を削り取った。

 水と言っても、凄い威力だ! ネフィーラが叫ぶ。


「危ない、逃げろ!」


 落ちてくる岸壁を避けるために、馬車から離れた。

 脱出した後に、荷馬車が岸壁に潰される。馬の断末魔の悲鳴が峡谷に響いた。


「く……なんてひどいことを――」


 僕らを見下ろす崖の上に、四人の影がすっと立ち現れた。


「誰だ、お前たちは!」


 光の中に姿をまず現したのは――予想に違わず『鋼鉄の』ギルガインだった。


「絶対にお前たちを逃がしゃあしねえよ……」


 その呟きに応えるように出てきたのは、青い髪を短くした眼鏡をかけた端正な顔立ちの人だ。


「彼らがギルガインを傷つけた連中? ……とてもそんな感じには見えないけど――」

「へっ! 大方、美人がいたんで眼がくらんでたんだろうぜ!」


 そう軽口を叩きながら出てきたのは、真っ赤な髪が炎のように逆立ってる男だ。

 獲物を前にした猫のように、舌なめずりをしている。


「てめぇの言う美人がどれだか知らねえが……金髪が竜だ」

「何!? あの子がか?」

「そうだ。人間に擬態している。そして紫の髪は柔術士だ。――かなり使うぞ」


 ギルガインが苛立ちを抑えながら、赤髪に言った。


「紫の髪の柔術士――失礼ながら、冒険者のネフィーラ・クルムさんではありませんか?」


 そう言いながら最後に姿を現したのは、黒髪を長く伸ばしたすらりとした男だ。

 整った顔立ちだが、眼に鋭さがあった。


「……そういうあんたたちは、滅竜士だろ? 何の用だ」

「察しの通り我々は滅竜士(ドラゴン・スレイヤー)。私は『風雅の』ディラン」


 黒髪がそう名乗る。と、赤髪が口を開いた。


「オレは『炎爆の』バスカル!」

「……ボクは『水禍の』シュラ」


 最後に青色髪で眼鏡の人が名乗った。この人は……男? 女性?


「我々はこの地域の滅竜士の中でも選ばれた、『功魔四元将』と呼ばれてる部隊だ。ギルガインが負傷するほどの相手という事で全員が出てきたが……今の奇襲で二人――いや、一人と一匹は負傷したようだな。もはや勝敗は明瞭、無駄なことは止めて、その竜を引き渡してもらいたい」


 黒髪のディランが、僕らにそう告げる。


「引き渡して――どうするつもりだ!」

「決まってんだろ! 竜は滅するんだよ!」


 赤髪のバスカルが声をあげる。僕は歯噛みをした。


「絶対に、プリシアに手を出させないぞ!」

「ネフィーラ殿、貴女ほどの大人が、そこの子供と同じ考えなのですか? そこの子供は竜の擬態に惑わされてるだけだ。竜を我々に引き渡した後、よく言い含めてはもらえませんか?」


 ディランはそう静かにネフィーラに言った。僕がプリシアに惑わされてるだって? ――何を言うんだ、こいつ!


「あいにくと――うちの甥っ子は、正しいものを見る眼を持っていてね……。それに、この竜の子も素直ないい子だよ」


 ネフィーラがそう言って、僕らを見て笑う。

 ネフィーラは……僕らのことを判ってくれてる! 


「やれやれ、そういう事なら――実力行使しかありませんね!」


 黒髪のディランは、最後にその本性を現したように凶悪な笑みを浮かべた。

 と、その瞬間、峡谷に竜巻が起こる。ディランは崖から飛び降りてきた。


「私の獲物は、貴女だ!」


 ディランは竜巻に身体を預けながら、腰の鞘から抜刀した。

 片刃の――刀だ!


 風に乗ってディランがネフィーラに斬りかかる。

 ネフィーラが大気旋を使って、その攻撃を躱しつつディランの身体を崖に向かって投げた。


 しかし飛ばされるディランは竜巻を起こし、崖に衝突する寸前でそこに留まる。


「私を投げますか! ……面白い!」


 地面に降り立ったディランは、ネフィーラに向かっていった。


「あ~、始めちゃったね。ボクらも行くか」

「オレが竜を片付けてやるぜ!」


 赤髪のバスカルは両足を広げて崖下に飛び降りてくる。と、地面に着く前に足から炎を噴射して、落下の衝撃を逃がした。


 上からは滝のような水がいきなり振って来る。

 その空中にある川の激流に乗って、青髪のシュラが滑り下りてきた。


「水線射」


 細い高圧の水がシュラの向けた指先から発射される。あの岩盤を斬った水だ。


「旋気掌」


 手の中に気流の渦を作り、最小限の動きでその水を逸らす。


「へぇ……君も気流柔術を使うの? 面白いね」

「ウラァッ! 爆轟拳!」


 その間に、バスカルはプリシアに真っ赤に燃える拳を叩きつけようとしていた。

 プリシアが手から光の剣を作る。


「竜光剣!」


 光の剣と炎の拳が衝突する。と、そこで閃光が放たれた。


「くぅ……」


 プリシアが顔を歪めている。そうだ、プリシアは肩を怪我しているんだ。


「プリシア!」


 そう言えばネフィーラもそうだ。ネフィーラの脇腹の方が重傷のはずだ。

 ネフィーラの方を見ると、黒髪のディランと交戦している。


 相手は『風雅の』という異名よりはるかに激しい、凄まじい速さの動きだった。

 あまりの速さに、ネフィーラが相手を把気で捉えきれてない!


 なんとか攻撃をいなして躱しているが、かなりその猛攻に追い詰められている。

 あのディランって人――かなりできる。


「そんなものなんですか、ネフィーラさん? 冒険者ギルドでは特別顧問を務める有名人なんでしょう?」


 ディランは笑いを浮かべながら、竜巻に身体を浮かべて上下左右とあちこちから攻撃を仕掛けている。

 ――あの竜巻も、気流を作りにくい原因の一つか。


 と、僕にふと影が差した。慌てて上空を見る。


「オウリャアァッ!」


 振ってきたのはギルガインだ。僕はその上空からの一撃を躱す。

 地面に降りたギルガインは、足を鋼鉄化して落下の衝撃を相殺した。


 地面にあのノコギリ剣が突き刺さっている。

 その姿勢のまま、ギルガインが三白眼で僕を睨んだ。


「お前には、脇腹をやられた借りがあるからな……」

「別に返してくれなくてもいいけど!」


 僕がそう言い返した時、ネフィーラと戦ってるディランの声が上がった。


「奇襲の傷が効いてるみたいですね! 残念ながら――期待外れだ! 風刃嵐!」


 見えない風の刃が、幾つもネフィーラに襲いかかる。


「小気旋!」


 風刃をネフィーラが防いでいる。――かに見えた。


「見えましたよ、気流の綻びが!」


 ディランが見えない程の速さで動き――ネフィーラの胸に刀が刺さっていた。


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