第三十八話 襲来、滅竜九鬼門 1 レディアスの――暗躍
前に出た剣士の男が、剣を抜いた。
そこまでは、魔導士の男も重騎士の男も把握している。
しかし――次の瞬間、いきなり剣士の男の頭部が消えた。
「え――」
一瞬、二人は何が起きたのか判らなかった。
が、最初にぶつかられた男――盗賊の男は、何かの攻撃で剣士の仲間が殺されたことを瞬時に把握した。
「こいつ! やるぞ――注意しろ!」
盗賊の男は、後退しながら二人を後ろに下がらせようとする。
しかし、次の瞬間にも、その後ろで悲鳴が上がった。
「ヒッ――ガ、ガローが!」
振り返ると、既に魔導士の頭がない。
重騎士はさらに下がり、剣を抜いていた。
「こ……こいつ、よくも仲間をやりやがったな!」
重騎士はかなり憤っている。
「オオオオォォォ……」
重騎士が気力を高める。と、重騎士が、ギッターに向かっていった。
「よせ、ダガルド!」
盗賊が声をあげる。が、その瞬間、重騎士の身体が崩れ落ちた。
地面に倒れた重騎士の身体から、地面に血が広がっていく。
「こ……こいつ――」
盗賊の男は、ギッターを睨んだ。
「よくも仲間を……」
「貴方は私に謝ったし、タカろうともしなかった。見逃してあげてもいいんですよ?」
ギッターは物静かな態度で、そう告げた。
だが、盗賊の男は眼に涙を浮かべて口を開いた。
「黙れ! よくも仲間を――仲間をやられて……黙ってられるか!」
盗賊の男はナイフを抜いてギッターに向かっていった。
「……どうして、自分の幸運をドブに捨てるのでしょう?」
ギッターは呟いた。
と、次の瞬間には、盗賊の頭がなくなった。
頭のなくなった身体が、力を失って倒れる。
ギッターは、苦々しい想いでその身体を眺めた。
「これがBランク冒険者……社会のゴミの間違いですね」
「――やはり、助勢は必要ありませんでしたね」
不意に声があがって、ギッターが振り向く。
と、闇から出てきたのは、レディアス・カミュだった。
「レディアス――見てたんですか? 悪趣味ですね」
ギッターはそう言うと、うっすらと笑った。
すらりとした上背のあるレディアスが、歩み寄って来る。
「しかしギッター……少々、やりすぎなのでは?」
「なあに――社会のゴミを少し始末しただけですよ。なんて事はありません。しかし……人付き合いの嫌いな貴方が、私に何の用です?」
ギッターが、探るような目つきをレディアスに向ける。
レディアスが神妙な顔で口を開いた。
「――収集がかかったのですね?」
「ええ。まさか……あのドグランダーとラムーがやられるとはねぇ――。その連中を掃討しろというご命令ですよ。貴方、その場にいたんでしょう?」
ギッターの問いに、レディアスは頷いた。
それを見たギッターが、薄笑いを浮かべる。
「それでどうしたんです? まさか私を心配して、そいつらの能力を教えようと――そんなところですか」
「そうです……特に――奴らの一人は、『聖凱覇手』ジャック・ドゥルーズの最後の弟子……」
「あのジャック・ドゥルーズの――」
ギッターが初めて驚いた顔をみせた。が、すぐに笑みに戻る。
「フフ……兄弟子が、弟弟子の弱点を教える――ですか? いらぬ心配ですよ。レディアス・カミュ」
ギッターはそう言うと、薄ら笑いを浮かべた。
そしてさらに言葉を続ける。
「私はね――ジャック・ドゥルーズと戦ったって、負けるとは思ってませんよ」
スッ……と、レディアスの眼が細められる。
「そうですか……。その自信が――どこまで通用するか、試してみたいですね」
「ほう――私もその弟弟子と戦う前に、戦力を試してみるのもいいでしょう」
そう言うと、ギッターが微かに両手を開く。
レディアスは僅かに、足を開いた。
二人の視線がぶつかりあう。ギッターが口を開いた。
「よいのかな?」
「できるものなら……」
レディアスがそう答えた瞬間、飛来して来たものをレディアスがかわした。
さらに、もう一つかわす。
「内燃気渦!」
一気にレディアスが踏み込んでくる。と、ギッターは、背中にまわした両手に武器を出した。
それは――鎌であった。
「鎌使いのギッター……」
レディアスが呟きながら拳を出す。
が、それを迎撃するように、ギッターの鎌が拳を斬りにかかる。
「ムッ!」
レディアスは手を引っ込める。と、その瞬間、背後から気配がして、レディアスはしゃがんでそれをかわした。
それは最初にギッターが投げた鎌であった。
ギッターは手に持っていた鎌を一瞬放すと、飛んできた鎌をキャッチして瞬時にまた投げた。
もう一つ――鎌が回転を描きながら、ブーメランのように飛んでくる。
レディアスには見えていた。
(……糸を使って――飛んでるブーメランを操ってる)
極細の糸を操って、ギッターは最初にブーメランを飛ばしていた。
その投げた鎌が速すぎて、Bランク冒険者には見えない――
(恐らく、自分の首が飛んだことにすら気づかなかっただろう……)
しかしレディアスには戻ってくる鎌が見えている。
拳に内燃気渦に凝集し、硬度を高める。
「フンッ!」
ブーメランの一つを拳で弾くと、レディアスは蹴りを放つ。
それをギッターは、鎌で迎撃する。
しかしそれを読んで、レディアスは蹴りの軌道を下から上へ変えた。
「ハッ!」
ギッターの顔に蹴りがめり込む。
次の瞬間、ギッターの身体が吹っ飛び、脇の建物の壁に激突した。
「……ふぅ――やるじゃないですか……なんて言いましたっけ? 剛術?」
「気流剛術です」
レディアスは勢いを殺さず、そのまま襲い掛かる。
指を立てた掌打が、ギッターの顔を狙う。
ギッターが鎌を出してそれをカバーする。
が、レディアスの掌は止まらない。
「剛掌!」
鎌の刃に当たっても、レディアスの掌は止まらない。
鎌の背をそのまま押し込むように、レディアスの掌がギッターの顔を襲う。
鎌の刃が鼻を潰すと同時に、レディアスの立てた指がギッターの眼に入った。
ギッターが、思わず目を閉じる。
「ぐっ――」
怯んだギッターに、レディアスはさらに腹に拳を打ちこんだ。
「砕花崩閃破!」
「ゴアアァァッ!」
ギッターが呻き声とともに、口から血を吐く。
薄目を開けて、ギッターはレディアスを見た。
「わ、判った……もういいだろう。お前と――剛術の力はよく判った……」
「そうですか。けど……貴方はもう剛術と戦う機会はない」




