4 混浴温泉
僕が入ってるのに、赤い髪を揺らしながらライラがいきなり温泉に現れる。
しかも前を隠してたタオルを放ってしまうと、いきなり湯船に入ってきた。
「わっ! わわっ!! ライラ! なにしに来たんだよ!」
「なにって――お風呂に決まってるんだぞ?」
「そうじゃなくて! まだ、僕が入ってるだろ!」
「もう……待ちきれなかったんだぞ」
ライラは悪びれる様子もなく、にぃと笑った。
僕はその様子に、呆れて苦笑した。
「何を考えてるんだ、ちょっと恥じらいってものを持ってくれよ」
「治癒の時に、さんざ見られてるんだから、クィード相手に今さらだぞ」
そう言いながら、ライラは広い湯船の中を、僕の方まで移動して来た。
全裸のライラが、お湯を通って傍まで来る。
僕は慌てて眼を逸らした。
――が、逆にライラはすぐ傍まで来ると囁く。
「それとも……あたしでも、少しは女の子だって意識してくれるのかだぞ?」
「そりゃ――そうだよ。当たり前だろ」
僕は眼を向けないようにして、そう答えた。
と、いきなりライラは僕の隣に来て、ぴと、と肌を寄せてきた。
「わ――ちょっと、ライラ!」
「……なんか、いつもお子様扱いだから――そう聴くと、ちょっと嬉しいんだぞ」
僕がすぐ左に座ったライラを見ると、ライラはテレたように微笑んで、赤い髪をポニーテールにした頭を、僕の肩にもたれさせた。
「そりゃ、あたしはプリシアみたいな気品もなければ、ミシュレイみたいな美人でもないけど――けど、おっぱいはプリシアに負けないくらいあるんだぞ」
そう言うなり、ライラは僕の左腕に自分の腕をからめてくる。
そうすると――ライラの豊かな弾力が、僕の左腕に触れた。
「ちょ――ライラ!」
「フフン、ちょっとはクィードを動揺させたんだぞ。戦ってもちっとも慌てないから、たまにはいい気分だぞ」
「そんなつもりで、こんな事してるの? もう……。ライラは戦闘力がありすぎるから、必要な時以外は戦ってほしくないだけだよ。子ども扱いしてるつもりもないし――ライラにはいつも驚かされてるよ」
僕はそう言って笑ってみせた。
と、ライラが少し眼を丸くして僕を見つめている。
「本当に……そんな風に思ってくれてるのかだぞ?」
「そうだよ。だから――凄く頼りにしてる」
僕がそう言うと、ライラは急に赤くなって、下を向いた。
「……ちょっと…嬉しいんだぞ……」
「――抜けがけはよろしくありませんことよ!」
と、いきなり温泉に別の声が響いてきた。見なくても判る、プリシアだ。
が、見てみると――やっぱりプリシアも、タオルを一枚をまとった姿で入って来てる。
「だから! どうして君も来るのさ!」
「ライラが抜けがけしたから、わたしも温泉を御一緒しようと思って。――ね、ミシュレイ?」
プリシアがそう言って振り返ると、後ろからこれまたタオル一枚のミシュレイがやってる。
ミシュレイは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、眼を逸らしてやってきた。
「ミシュレイ、君まで!?」
「その……プリシアに言われてだな――やってきたんだが……」
ミシュレイが恥ずかしそうにそう言うと、恥ずかしそうな顔のまま僕を上目遣いに見た。
「……迷惑だったろうか――?」
「いや……あの――」
そういう問題じゃなくて、ですね。
と、プリシアがにこやかに口を開く。
「まあ、いいじゃありませんの。みんなでお風呂に入りましょう」
プリシアはそう微笑むと、タオルをとって美しい裸身をさらす。
「わっ! ちょっと――だからさぁ……」
「いいじゃありませんか」
プリシアはそう微笑むと、湯船にすらりとした足から入ってきた。
それに続くように、ミシュレイが恥ずかしそうにタオルをとる。
「……」
赤くなりながらタオルをたたんで床に置くと、ミシュレイも湯船に入ってきた。
と、プリシアがライラとは反対側の僕の右に移動してくる。
そこで背中をもたれかけさせて、プリシアは、ほぅとため息をついた。
「あ~、いいお湯……とてもいい気持ですわね、クィード」
「まったく……みんな、何考えてんだか――」
僕は呆れて、そう息をついた。
と、少し離れて座ってるミシュレイが、苦笑する。
「確かにな……けど、とても気持ちのいい温泉だ」
ミシュレイはそう言うと、少し微笑んでみせた。
と、ライラが声をあげる。
「あ~、またミシュレイが落ち着いたおとなの感じを出してるんだぞ! けど、本当はあたしと一コしか違わないんだぞ!」
「別にボクは、おとなの感じなんか出してない」
ミシュレイはそう言うと、湯から細い腕をあげてもう一方の手で撫でた。
「……うん。なんだか、肌にもよさそうだ」
「あ~っ! そんなこと言いながら、さりげなくお色気アピールだぞ!」
「――失敬だな。ボクはそんなことはしない」
ミシュレイは澄まして、横を向く。
そんな二人をよそに、プリシアが僕の傍で笑いかけた。
「フフ……楽しいですわね、クィード」
「もう、どうしてこうなるのかな?」
僕は苦笑するしかなかった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
通りを歩いていたのは――滅竜士九門の一人、『消手』ギッターだった。
小柄の中年で、少し背中を丸めて歩く姿を見たら――誰もそんな風には思わない。冴えない中年男が、寒そうに歩いてるとしか思わないだろう。
深夜、ギッターは人気のない通りを歩いていると、四人の男たちの集団にでくわした。
男たちは既に酔っており、声を高々に笑いながら歩いて来る。
向いから歩いてくるギッターのことなど、気にも留めてない。
ギッターはわざわざ避けていこうとしたが、千鳥足の男の一人がよろけた。
「うぉっと――」
男がギッターにぶつかる。
と、顔を赤らめた男が、ギッターに言った。
「お……悪ぃ悪ぃオッサン、カンベンな。な」
男はヘラヘラ笑いながら、ギッターに言った。
ギッターは一瞬だけムッとした顔をしたが、すぐに表情を素に戻して口を開く。
「いいえ、こちらこそ――どうも失礼しました」
ギッターはそう言い捨てて通り過ぎようとする。
と、別の男が声をあげた。
「おいおい、オッサン! 人にぶつかっといて、ただで済むと思ってんのかよ!」
「そうだぜオッサン、ワビいれてけよ!」
酔っぱらってる男たちは、威勢よく声をあげる。
ギッターは、男たちを見る。
「あの……ワビと言いますと?」
「察しが悪ぃな、オッサン! 金に決まってんだろ! 有り金置いてけよ、そしたら痛い眼には合わせずにおいといてやるぜ!」
別の男がそう解説して、ゲラゲラと笑う。
――と、最初にぶつかった男が、苦笑しながら片手を立てる。
「悪ぃな、オッサン。運が悪かったと思って――な?」
男は片目を開けて、軽く顎を下げてみせた。
ギッターはそれを見て、口を開く。
「……お断りします。と、申し上げたら?」
「ふざねてんのか、コラァッ!」
男の一人が大声をあげる。最初にぶつかった男が、申し訳なさそうに言った。
「おいおい、オッサン。こう見えてもオレたちBランク冒険者だぜ? 悪いことは言わないから、こいつらの言うこと聴いといてくれよ」
男の一人が薄笑いを浮かべて剣を抜く。
別の男は魔法杖を出し、別の男は拳を掲げる。
「おい――腕の一本くらい斬っとかねえと判らねえかぁ?」
剣士の男がそう言った瞬間――男の首が飛んだ。




