3 エルフの族長、ラプンシェル
まだ12、3歳にしか見えないが、実は120歳のエルフの族長ラプンシェルは、じっと僕を見つめている。
と、にい、と笑った。
「そう、簡単には教えられんじゃろ」
「えぇ~」
僕は思わず不満の声を洩らす。と、ラプンシェルは笑いを引っ込めて、真面目な顔で言った。
「確かにシャロンに、おぬしたちを追い出すのは無理だと言った」
「はあ……」
「しかし、おぬしたちが招かれざる客――『災いをもたらす者』であることに変わりはない」
ラプンシェルの見つめる眼を、僕は見返す。
「けど、僕らはあなた方に危害を加えたりしません」
「おぬしたちがせずとも、おぬしたちが連れてくる者がそうする――と言ったら?」
あ――と思った。そうか、僕らを追って、滅竜攻団がこのエルフの里に来る可能性だってあるんだ。
「けど……簡単には、この島には入れないんじゃ――」
「おぬしたちはどうやって入った? 竜の助けを得て来たんじゃろう。同じ真似をせんと言いきれるかのう」
――確かにそうだ。ディードは竜の中に裏切り者がいる可能性がある、と言っていた。その竜が手を貸せば、滅竜士たちがまた襲って来ることだってありうる。
「けど、奴らの狙いは僕たちです。里のエルフは無関係なんじゃ?」
「そうとも言えんからの」
「……どういうことです?」
ラプンシェルは神妙な面持ちで口を開く。
「おぬしたちの敵は、我らにとっても敵となる――ということじゃ。だからのう、約束してほしいのじゃ」
「何をです?」
「我らとともに戦い、我らを裏切らぬ――と」
ラプンシェルはそう言って、真剣な眼差しを僕に向けた。
「判りました。むしろ一緒に戦ってもらえるなら、これほど心強いことはありません。こちらこそ……よろしくお願いします」
僕はそう言って、頭を下げた。
他のみんなが僕に倣う。
「うむ! これでよし。シャロン、もう安心してよいぞ。彼らはもう、招いた客人だ。丁重にもてなすがよい」
「は、姉上」
「あの……それで、光龍王の居場所は――?」
僕は顔を上げて、話を戻した。
と、ラプンシェルが笑い声をあげる。
「カカカ、実は教えようにも――まだ判らんのじゃ」
「えぇ!?」
「そんなのズルだぞ!」
ライラが抗議の声をあげる。
「すまんすまん。いや、実はちょうど探索隊が昨日出発して、現在探索中なのじゃ。それが帰って来るまで、待つがよかろう」
「なあんだ……」
僕は拍子抜けして、息をついた。
どうもこの族長が相手だと、あっちのペースになってしまう。
「妾の予言が降りてきたのが、昨日のことじゃったからのう。それで探索隊を出した次第じゃ」
「予言――未来のことが判るんですか?」
ラプンシェルは首を振る。と、それまで黙って訊いていたシャロンが、口を開いた。
「姉上は――使童としてお生まれになったのだ」
「使童というのは?」
「使童は稀子とも呼ばれ、生まれながらに特殊な力を有している。特に未来に関する予言や、神の言葉を伝えるため、一族の中ではとても貴重な存在として扱われるのだ」
シャロンの言葉に、ラプンシェルは微かに苦笑した。
「その特殊な力のために、見かけ上は成長が止まる。妾のこの姿はそのためじゃ」
「そう……だったんですか――」
この人は――生まれながらにして、一族の運命を支える者だったということか。
それは……どんな気持ちだったんだろう?
「しかし、真の『災い』は三日後に来る――と、妾の予言は言っておる。
「三日後――」
三日後に、この精霊島に滅竜士たちが来る、ということか。
「まあ、それまでは里で仲良くやってくれ。シャロン、後は頼んだぞ」
「はい、判りました姉上」
シャロンはそう返事をすると、席から立ち上がった。
「それでは、君たちを別殿に迎えよう。ついてきなさい」
シャロンにそう言われて僕らも席を立つと、盛り上がってたもこもこがまた引っ込む。
そして僕らは再び昇降機に乗り、族長のいた大樹を出た。
シャロンは傍で控えていた少年と少女に声をかける。
「ミリア、ミリオ、この人たちを賓客殿へ案内してくれ」
「「判りました――では、こちらへ」」
ミリア、ミリオと呼ばれた少年たちは、多分、僕らと同年代だ。
彼らに促されて、僕らはまた別の大樹に入り込む。
しっかりとした扉が根元にあり、それを開く。
と、中は空洞で、すぐに居間になっていた。
そして大樹の内側に、階段がついている。
「皆さんの個室は、あの階段の上になります」
少女――ミリアがにっこりと微笑んだ。
さすがエルフだと思わせる凄い美少女だ。
「そしてこの先に『癒しの泉』があります」
少年、ミリオが微笑しながら案内する。
こっちも――物凄い美少年だ。男の僕でも目が眩む思いがする。
ミリオが案内したドアを開けると、一つ狭い部屋がある。
「ここは脱衣所です」
そう言ってさらにドアを開けると――その先は屋外だ。
そこに大きな泉が湯気をたてていた。
「温泉です。森の祝福により、癒しの効果があります。是非、疲れた身体を休めてください」
「わ~い! お風呂なんだぞ!」
ライラが嬉しそうにはしゃぐ。
しかし露天風呂か――
泉の周囲は背の高い樹木が覆っていて、外から見られないような造りになっていた。
「それでは今夜は、広場で皆さんを招いての晩餐会が開かれます。その時間まで、ゆっくりおくつろぎください」
ミリアとミリオはそう言うと、揃って頭を下げて退出していった。
残された僕らは、豪華なツリーハウスの中で顔を見合わせる。
「それじゃあ……とりあえず、各部屋を決めとこうか」
大樹の内側に階段が四つある。僕らはそれぞれ部屋を決めると、プリシアが口を開いた。
「せっかくだから、温泉に入りましょうよ。まず、クィードからどうぞ」
「え? 僕から?」
「わたしたちは、後からみんなで入りますから」
プリシアがそう微笑したので、僕は頷いた。
個室に入るとベッドがあり、手洗い場にはタオルのセットなどが用意されている。タオルは何の生地か判らないが、気持ちいいくらいふわふわだった。
それを持って癒しの泉に行く。
脱衣場で服を脱ぐと、広い温泉に一人で浸かった。
「うわぁ……これ、気持ちいいなあ……」
思わず声が洩れる。温度も最適で身体に染み入る感じだが、やはり特殊な癒し効果を実感した。
あまりに気持ちよくて、ぼーっとしてると、なんか入口の方で気配がする。
「まさか……無防備なところを狙ってきたのか?」
僕は思わず、風呂の中で立ち上がり身構えた。
と、いきなり入ってきたのは――ライラだ。
「待ちきれなくて、あたしも来たんだぞ!」
「ちょ――ちょっと、ライラ!?」
僕は慌てて湯船に浸かる。しかしライラは若干、前を隠してたタオルを放ると、いきなり湯船に浸かってきた。




