2 エルフの里
森を抜けて里に出た――と思いきや、まだそこは森の中でもあった。
というのも、そこに現れた家々は、樹木それ自体が住宅になっていたからだ。
一本の樹がそのまま家になってるものもあれば、巨大な木の各枝に、小窓がついた住宅が乗ってるものもある。
「素敵だなあ……木の家だ」
僕は思わず、ため息を洩らした。
シャロンが僕に振り返る。
「我々は樹木とともに暮らす、森の民だ。森は我らに恵みをくれる」
シャロンはそう口にした。――僅かに微笑んだ気がする。
「可愛いおうちが、いっぱい」
プリシアも微笑みながら、エルフの里の風景を見ている。
と、エルフの子供たちが三人、シャロンの傍に駆け寄ってきた。
「シャロンさまだ!」「シャロンさまぁ!」
シャロンは足元に寄ってきた子どもたちに対し、腰を落として微笑してみせた。
「元気にしてるようだな」
「あのね、グリドンの実、いっぱい採ったの!」
「ぼく、ジコダケ見つけたんだ!」
子供たちはシャロンと触れ合えること自体が嬉しいらしく、笑顔で話をしている。それを聞いて相手をしているシャロンも笑顔だった。
凄い美人で冷たい印象かと思ってたけど、笑顔はとても素敵だった。
子どもたちの頭を撫でてやると、シャロンは立ち上がる。
「我は仕事があるからな。みんな、イイコにしてろよ」
「「「うん!」」」
シャロンは微笑むと、僕らに言った。
「すまんな、先へ急ごう」
「急がなくてもいいですよ。とても――いい里だ」
僕がそう言うと、シャロンの表情が少し柔らかくなった気がした。
「それに、貴女も笑顔の方が素敵だ」
ついでにそう言うと、シャロンが少し眼を見開く。
ぷい、と視線を逸らすと、背中を向けてシャロンは言った。
「……族長の家は、もうすぐだ」
そう言うと、シャロンは歩き始める。
あの子どもたちに見せた笑顔が、僕らに向けられないのが残念だ。
と、侍従らしいイセリナが、僕を睨む。
「シャロン様を懐柔しようとなさっても、許しませんからね!」
それだけ言い捨てると、イセリナはシャロンの後を追った。
僕は肩をすくめて、仲間を見た。
「僕、なんか怒られるようなことした?」
「いや、いつものことだ」
ミシュレイが少し不機嫌そうに口にする。
――なにか、ミシュレイを怒らせるようなこともしたかな?
やがて僕らは、一本の大樹の前にやってきた。
その根元のうろは、ほとんど洞穴のような大きさで、シャロンはそこに入っていく。
僕らも入ると、木の中なのに通路になっている。
それを歩み進むと、行き止まりになった。
「こっちへ来てくれ」
シャロンに言われて、より近づく。するとイセリナが、格子状になってる物を広げて、部屋の壁にした。
と、シャロンが壁にあるボタンを押す。
途端に、足元の重心が浮く感覚がした。
「な――なんだ!?」
「昇降装置だ。今は上に向かっている」
シャロンがなんでもないように、そう口にする。
やがて、その部屋の動きが止まり、重心が落ち着いた。
「到着だ。降りてくれ」
イセリナが格子を開けたので、僕らはそこから出る。
僕は訊いてみた。
「今の昇降装置って、魔法で動いてるの?」
「魔法ではなく、この精霊樹の霊力だ。と、言っても、基本は植物が地中から水を吸い上げる力――と、理解した方がいいだろうがな」
「へえぇ、凄いんだねぇ」
僕は感心する。
とシャロンは先にあるしっかりとした扉に声をかけた。
「族長、侵入者を連行して参りました」
「入っていいぞお」
なんか、気の抜けた幼女の声がする。
――今のが族長の声?
「失礼します」
そう言って入ったシャロンに続き、僕らも部屋に入る。
と、その視線の先には、大きな椅子に腰かける12、3歳くらいのエルフの少女がいた。
「シャロン、ご苦労じゃったの」
「は……このような事になって――申し訳ありませぬ」
シャロンは軽く目を伏せた。
と、少女はカラカラと笑った。
「だから言ったであろう? 多分、追い出すことは無理じゃと」
「しかし姉上……あの時は、まだ――」
シャロンは少し悔しそうに、少女に向かって声をあげる。
…のはいいが――姉上?
「客人たち、失礼したな。まあ、くつろいでたもれ」
少女が軽く手をあげる。よく見たら――袖が長すぎて、手が見えてない。
袖をぶら下げた手が上がると、急に僕らの足元がもこもこと盛り上がってきた。
シャロンの足元にも、同じような緑の盛り上がりが現れる。
シャロンはそこに座ると、僕らに言った。
「おぬしたちも、座るがいい」
僕は恐る恐る腰を下ろす。――と、それはふわふわした、とても座り心地がいいものだった。
「なんだこれ? とても気持ちがいいんだぞ」
「何か……苔のような――」
嬉しそうな顔のライラに対し、ミシュレイは考えながら椅子を観察している。
そこに少女の声が飛んできた。
「ようこそ、エルフの里へ。妾は族長のラプンシェルじゃ」
エルフの少女――ラプンシェルはそう名乗った。
「族長? こんな小娘が?」
ライラが驚きの声をあげる。
「こら、ライラ! 族長に向かって失礼だぞ」
「だぁって、あたしは戦う相手によく小娘扱いされるんだぞ。相手を小娘扱いできる機会は滅多にないんだぞ」
「しなくていい!」
ライラとミシュレイは、そんなやりとりをしてる。
と、ラプンシェルは微笑みながら、口を開いた。
「心配せずとも、妾は120歳。おぬしたちよりは、すこぉし長生きしておるぞ」
「「120歳!?」」
ライラとミシュレイが驚きの声をあげたが――僕も少なからず、驚いた。
と、僕はシャロンの方を見る。
僕の視線に気づいたのか、ラプンシェルがにやにやしながら言った。
「ふふん、妹のシャロンは60歳じゃ」
僕は思わず息を呑む。と、シャロンは真面目な顔で僕らに言った。
「エルフ族はお前たちより長命だ。お前たちの三倍くらいは寿命がある、と言われている」
……ということは、僕ら換算するとシャロンは20歳くらいの娘さんか。
けど、ラプンシェルの40歳は、それにしたって見た目と違い過ぎるだろ。
「カカカ、色々驚いたかの。まあ、世の中には色々と、不思議なことがあるものじゃ。天から龍王が降ってきたりのう」
僕らはラプンシェルの言葉に、すぐに反応した。
「それです! 僕らはその龍王を探しに来たんです! 何処に行ったら会えますか?」
勢い込んで訊く僕に対し――ラプンシェルは僕をじっと見つめた。




