第三十七話 エルフ族の里 1 エルフの娘、シャロン
エルフの女性が、厳しい眼で僕を睨んでいる。
「いや、予言の――とか言われても困ります。僕らは別に、あなた方に関わるつもりもないんですから」
僕はそう言ったが、エルフの女性が聴く耳をもたない。
「――それだけ高い戦闘力を有しながら、何もするつもりはないなどと……白々しいにもほどがある! 各隊、霊力支援陣!」
エルフの女性がそう言うと、数多くいたエルフたちの剣を持ってる者だけが前に出てくる。その数は五人。
そしてその背後から、四、五人の者がその代表者に何かエネルギーを送っている。それは気力とも魔力とも違う波動で、エルフ特有の力のようだった。
「よし、各員――一斉攻撃!」
エルフの女性の掛け声で、そのチームの力を得た五人が襲い掛かって来る。
「ムッ――」
速い! さっきまでとは段違いの速さと攻撃力だ。
僕は気流渦で襲い掛かってくる五人を投げようと思うが、次々にやってくる凄まじい速さの攻撃をかわすのがやっとだ。
こうなったら……
「行くぞ、気流竜巻!」
僕は自らも回転して、身体の周囲に一気に竜巻を作り上げる。
その気流の竜巻に、攻撃しようとしていたエルフたちが舞い上げられた。
「うわあぁぁっっ!」
が、その竜巻の気流を破って――剣の切先が目に飛び込んできた。
ギリギリのところでかわす。と、反射的に拳が出た
「キャアァァッッ!」
鋭い突きを放ってきてたのは、指示を出してたエルフの女性だった。
あまりにも鋭い突きだったので、つい反撃が出てしまったのだ。
僕の拳を腹に受けたエルフの女性は吹っ飛び、近くの大木にぶつかった。
その身体が崩れ落ちる。
と、同時に、空中に舞い上げられたエルフたちが、ボトボトと落ちてきた。
「だ――大丈夫ですか!?」
僕は大木に打ちつけられたエルフの女性の元に駆けようとするが、その行く手を彼女のチームのエルフが遮る。
「シャロン様には近づけさせん!」
4人のエルフが、それぞれ武器を構えて僕を睨んだ。
奥では倒れたエルフの女性を、別のエルフが抱き起こして呼び掛けている。
「シャロン様! 大丈夫ですか、シャロン様!」
――強く打つつもりはなかったんだけど……当たった感触と、飛んでいく速度を見ると、かなりの威力だったようだ。
ほんの触るくらいの当てのはずなのに――威力が大きすぎる。
剛術を習ったせいだろうか?
「シャロン様、しっかりなさってください!」
エルフの女性は呼びかけているが、シャロンと呼ばれてるエルフは口から血を流してまだ目覚めない。
……内臓にダメージがいってしまったか? 本当は直接、治癒したいけど――仕方ない。
「範囲治癒!」
僕はその場にいる者全員に、治癒魔法を広げた。
エルフたちの顔に、驚きが走る。
「こ…これは――」「治癒魔法だ!」
少しダメージを負ってた人たちも、治癒で回復して起き上がる。
そしてシャロンと呼ばれてる指示役のエルフも、眼を覚ました。
「……う…イセリナ――これは……?」
「どうも――あの者が使ってる治癒魔法でございます」
シャロンがこちらを見ている。
その身体の負傷が治ると、眼を見開いてシャロンは身体を起こした。
遠くからシャロンは僕を見つめ、その様子を周囲のエルフは注視していた。
シャロンが立ち上がり、僕に近づいて来る。
「……どういうつもりなのだ?」
「だから言ってるでしょう? 僕らはあなた方と戦うつもりはないって」
僕は微笑してみせた。
シャロンが、僕の笑みに怯んだ顔をみせる。
「な……なんなのだ、お前は?」
「クィード・ロラン。治癒士です。そして――新光龍騎士……と、名乗るべきなのかな」
僕はそう言って笑ってみせた。
シャロンがその美しすぎる顔に、懸念をみせる。
「光龍騎士? ――竜の使者ということか?」
「仲間の一人は、光龍王の娘――光竜姫ですよ。プリシア、もういいよ!」
僕は黄金のドームに包まれているプリシアたちに手を振った。
と、ドームを解除して、プリシアたちがやってくる。
と、それに合わせて周りのエルフたちも近寄ってきた。
ただ、ライラだけがぶりぶり怒っている。
「クィードだけ戦って――ズルいんだぞ!」
「だから、戦いに来たんじゃないって話をしてたの。君が出てくると、ややこしくなるからやめて」
「ぶ~」
ライラのふくれっ面を無視して、僕はシャロンと向き直った。
「僕らは新光龍騎士。そしてこちらが――」
「プリシアと申します。光龍王レイミアードの娘です」
プリシアがスカートを少しつまんで、礼をする。
そして親愛の情を示すように、にっこりと微笑した。
……なんだか、高貴な者の典雅なオーラがある。
シャロンもそれを感じとったのか、少し怯んだ顔をした。
「龍王の娘――か。ならば無視するわけにもいかぬか……。そなたたち、我についてきてもらえるか? ――族長に会わせる」
「シャロン様!」
シャロンの言葉に、お付きの者らしい女性――さっきイセリナと呼ばれてた人が声をあげた。
「この者たちを、里まで入れるということですか? 危険なのでは!」
「この者が本気ならば、我らは既に全滅してるはずだ。……危害を加える気なら、最初からそうしているだろう」
シャロンが僕を見つめる。僕は口を開いた。
「だから言ってますよ、最初から戦う気はないって」
「確かにそうだな……治癒してくれたこと――礼を言っておく」
シャロンは軽く目を伏せた。が、すぐに顔を上げる。
「しかし、お前たちを信用したわけじゃない。……判断は、族長にゆだねる。ついてきてくれ」
シャロンはそう言うと、踵を返した。
「全員、里に戻るぞ!」
その命令に、エルフの人たちが従う。と、シャロンが振り返った。
「言い忘れていたが――我はシャロン。族長の娘だ」
「そう。よろしく、シャロン」
僕はにっこりと笑ってみせた。
と、シャロンが少し眼を見開く。
「……なんだなのだ、一体――」
そう呟くと、シャロンは背を向けて歩き出した。
僕らもそれについていく。
と、プリシアが微笑みながら、僕を見た。
「クィード、あんまり手を広げないでくださいね」
「え? なんの話?」
なんか、ちょっとプリシアの笑顔が固い。
ミシュレイが少し呆れ顔をしている。
「無自覚なのが恐いんだよ……」
「え? 何が?」
ミシュレイは肩をすくめてみせた。
僕は訳が判らずに、そのまま歩く。
先を歩くシャロンは、道もないような森の中をどんどん歩いていく。
しばらく歩くと、やっと森を抜けて開けた場所に出た。
「わあぁ……」
僕はその里の風景に――思わずため息を洩らした。




