4 精霊島のエルフ族
ディードの言葉を聴くと、ウィリアとダムゥも飛竜の姿のまま少し暗い顔をみせた。
「裏切り者に心当たりがあるって――?」
「残念なことではあるが……龍王継承をめぐって、各竜族の中に派閥争いがあるんだ。その継承から洩れたことを、不満に思ってる分子が数名いるのだ」
ディードはそう言うと、残念そうな顔をした。
僕は訊いてみる。
「飛竜の中にも、いるの? そういう竜」
「そうだな……その事も含めて、父――風龍王と相談せねば」
ディードはそう言うと、また飛竜の姿に戻った。
ダムゥとウィリアも、翼を少しはためかせる。
「では、さらばだ……光龍騎士と竜姫よ」
「うん、ありがとう、ディード。ダムゥ、ウィリア」
飛竜たちが空中に舞い上がる。
と、声が空中から降りてくる。
「幸運を祈る! 我が友人たちよ!!」
その声が響き渡ると、飛竜たちは雲流の中へと消えていった。
僕たちはそれを見送ると、息をついた。
「……さて、僕らも行きますか」
「行くって、何処に行くんだぞ?」
ライラがそう問うてきたのに対し、僕は答えた。
「それは――そこにいる人たちに訊いてみようか?」
僕がそう言うと、森からわらわらと人影が出てきた。
「いつの間に――こんなに!?」
ミシュレイが驚きの声をあげる。
出てきたのは全てが金髪で、耳が横に長い種族――エルフたちだった。
「……竜と一緒に来た面妖な奴らと思い監視していたが……竜を返すとはな。この島に何用だ、異邦人よ」
先頭に現れたのは、その美形揃いのエルフの中でも最も美形と言ってもいいほどの女性だった。
面立ちが美しいだけでなく、すらりとした上背を持つ抜群のプロポーションだ。あまりにも美しくて、自然物じゃないかのような印象さえ覚える。
その美しいエルフの代表らしき女性に、僕は答えた。
「この島にいるはずの、光龍王を探しに来ました」
「……知らぬな。そんなものは、この島にはいない。早々に立ち去れ」
「そんな事を言われても――飛竜たちも行っちゃったし……僕ら、帰る術もないんですけど」
僕は困り果てて、そう訴える。
エルフの美女は、しかめっ面をした。――しかし、しかめ面すら美しい。
「そんなお前たちの都合など知らぬ。帰らぬというのなら、お前たちを海に突き落とすまで!」
そう女性が言うと、背後にいた多くのエルフが武器を構える。
――総勢で22人。うち、弓が6人、9人が剣を抜いて、7人が魔法杖を持っている。
「参ったな……僕らはあなた方と戦う気はありません。なんなら、あなた方と関わる必要すらない。ただ、光龍王の所に行きたいだけなんです」
「くどい。そんなものはおらぬ、と言ったはずだ」
エルフの女性は細剣をすらりと抜くと、美しい顔で睨んでくる。
僕は後ろの皆に言った。
「みんな、龍王具を出して」
「判ったぞ」
ライラが声を上げ、プリシアとミシュレイは黙って頷く。
僕らはそれぞれ、指輪と腕輪から龍王具を展開した。
「ムッ――何をする!」
エルフの女性が細剣を構えて警戒心をあらわにする。
その間に、僕らは全員が眩く光る龍王具を装着した。
僕は皆に訊く。
「どう? 光龍王の居場所、感じない?」
「感じるんだぞ。明らかに近くにいる」
「そうですわね。間違いありません」
ライラとプリシアが答える中、角の(・)冠を着けたミシュレイが口を開いた。
「ボクには、はっきりと判るぞ。光龍王はこの先――上空から見えた、あの中央に聳え立つ山の中にいる」
ミシュレイは確信を持ってそう言った。角の冠の能力なんだろう。
「判った。――と、聞いての通りです。僕らは森を抜けて、中央の山まで行かせてもらいます」
「神霊山まで行くだと……そんな事を許すはずなかろう!」
エルフの女性が、そう怒鳴る。僕はそれに対して言った。
「……どうしても行く、と言ったら?」
「排除する」
エルフの女性の言葉に、僕はため息をついた。
――仕方がない。
「プリシア、君たちはドームの中にいて」
「判りましたわ」
プリシアが盾の翼を展開し、ライラとミシュレイも包んでドーム状にした。
ライラが不満そうな声をあげる。
「あ! ちょっと、今から戦うんじゃないのかだぞ!」
「だから君には引っ込んでてもらう。話しがややこしくなるからね」
「ぶ~」
不満げなライラをおいて、僕はエルフの女性に向かって言った。
「すみません。じゃあ、通ります」
「……愚か者めが。射よ!」
女性が細剣を掲げると、背後にいた弓矢隊が矢を放ってくる。
僕の元に、何十本もの矢が一斉に振ってきた。
僕は気流渦を発動させ、それを∞の形に展開した。
「気流渦――無限の型!」
∞の形になった気流渦は、飛んでくる矢を全て相手の元に返していく。
「なにっ!? あじな真似を……剣士隊、突撃!」
目の前のエルフの女性を筆頭に、僕に剣を持った人たちが襲い掛かって来る。
女性がかなりの高速で、鋭い突きを放ってきた。
僕はそれをかわしながら、女性の腕を把気で捉える。
突いてきた腕を捉えられた女性に、一瞬、驚きの顔が浮かんだ。
「半月投げ!」
僕は女性を投げ、背中から地面に落とした。
その間にも、横から他のエルフが斬りかかって来る。
「大気旋!」
大きく創った気流渦で、剣士を投げ飛ばす。が、追撃はやまない。
僕は接近して来ようとするエルフにこちらから踏み込んで、軽く気力の当てを入れた。
「渦打」
「うっ――」
少し怯んで崩れるところを、投げ飛ばす。これは剛術の応用だ。
そうやって、斬りかかって来る相手を、僕は次々に投げていた。
そしてプリシアたちを見ると、翼の盾が創ったドームに斬りかかっている者もいる。が、黄金のドームは堅固でビクともしない。
「くっ――魔法隊、一斉射撃!」
剣士たちが僕らから離れると、木の杖を持つエルフたちが構えていた。
「発射!」
女性の声で、エルフたちの杖から光熱弾が発射される。
かなりの威力で相当な数だ。けど――
「牙の(・)鎧!」
僕の装着した牙の鎧が、上下に牙を開いて口を開ける。
と、僕に向かって飛来してきた光熱弾を、牙の鎧が全て呑みこんだ。
「バ……バカな――」
エルフの女性が、驚愕に眼を見開いている。
僕は申し訳なくなって言った。
「だから、僕たちは戦う気はないんです。通してもらえませんか?」
「やはり……お前たちは予言に出た、『災いをもたらす者』――断じてここは通さん!」
エルフの女性は、覚悟の表情でそう言った。……参ったな。




