3 精霊島への上陸
胸に大穴が開いて倒れたノルストード枢機卿の身体に、ゼーレ司教は駆け寄った。
「ノルストード枢機卿様! これは――早く治癒士を!」
「もうよい……」
うんざりしたようなゼルバディス教皇の声に、ゼーレ司教は固まった。
息を吹き返したカラン大司教も、驚愕の眼を事態に向けている。
「ノルストードの出過ぎた真似のせいだ。……もうよい」
「さすが教皇様、話が早いな」
アクラムは悪びれる様子もなく、そう薄笑いを浮かべた。
その一方で、セルネリア枢機卿が、驚き隠しきれないでいた。
「こんな能力が……竜にあったというのですか――」
「あ、これはね、人間の使う『魔法』だよ。身体を変化させる魔法さ」
アクラムはそう言って、得意気な顔をみせた。
セルネリア枢機卿は、驚きのまま声をさらに洩らす。
「竜が……魔法を使う――?」
「ボクは人間界が長くてさあ――使えるかなあ、と思って勉強してみたら、実は使えたんだよ。どう? 人間の特権だと思ってたものを奪われた感触は?」
セルネリア枢機卿はムッとして、そのまま黙り込んだ。
が、ゼーレ司教が驚愕のまま声を洩らす。
「まさか……質量変換の魔法まで使うとは――超難度魔法だぞ……」
そう呟いたゼーレ司教を、セルネリア枢機卿が睨む。ゼーレ司教は、慌てて眼を逸らして口をつぐんだ。
「言っておくけど――魔法を使える竜はボクだけじゃない。ボクの仲間は、皆、魔法を習得してる」
アクラムの言葉に、ゼルバディス教皇もセルネリア枢機卿も目を見張った。
その様子に、アクラムは笑った。
「クク……読みが外れたかい? 利用するだけしたら、ボクも含めた竜を全滅させればいい――そう思ってたんだろ? 言っておくがね……ボクは竜の王になるんだ、竜を殲滅させるつもりなんかない。ただ、今の龍王たちを殲滅して、世代交代をしたいだけなんだ」
アクラムは静かに歩き出し、ゼルバディス教皇の教皇座へと近づいていく。
と、セルネリア枢機卿が席から立ち上がり、その前に立ちはだかった。
「無礼者! それ以上、教皇様に近づくことならん!」
「だからあ、言ったでしょ? 君たちの序列とか地位とか関係ないって。……君も死なないと判らないかな」
そう言うとアクラムは、すっと眼を細めた。
セルネリア枢機卿は恐怖をあらわにして一歩後退する。
「よさぬか――もういい、セルネリア」
「は……教皇様」
セルネリアは安堵した表情で、後ろに下がる。
アクラムはにっこり笑って、教皇の目の前に歩いてきた。
「ね、これは尊敬ある協力関係だ。そうだろ? ボクは君らに協力する代わりに、君らは龍王殲滅を手伝ってくれる。……そういうことでいいよね?」
「――おぬしは、我らに何をしてくれるというのだ?」
ゼルバディス教皇は、座ったままアクラムを見上げた。
アクラムは微笑を浮かべる。
「ボクなら……あなた方の手下を、精霊島へ連れて行ける――と言ったら?」
ゼルバディス教皇の口に――ほんの僅かに笑みが浮かぶ。
その様子を、レディアスは黙って見つめ続けていた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
飛竜たちが雲流の中を突っ切る。
「す……凄い風だ――」
気流渦を作ってるけど、こっちの気流が風の勢いに負けそうだ。
けど、ディードはしっかりと飛んでいる。
「みんな、大丈夫!?」
僕は周りを見回した。
ライラとミシュレイを乗せてるダムゥ、プリシアを乗せてるウィリアも飛んでいる。
――が、ウィリアが風に押されて軌道が横に逸れてきてる!
「ディード、ウィリアが風に流されてる!」
「ムッ……ウィリア、しっかりするんだ!」
ディードがウィリアが風に流されてる側に廻って、ウィリアを押しとどめる。
「す、すまない、ディード!」
「もう少しだ、頑張れ!」
ディードが支えてる間に、ウィリアがなんとかもちこたえる。
ダムゥが声をあげる。
「しっかりしろ、ウィリア!」
「チッ――思ったより、姫さまが重たくてさ……」
ウィリアの声を聴き、プリシアが口を開く。
「あ~っ!! ウィリアさん、それは言っちゃあいけないことなんじゃないんですかっ!? ひどいです!」
「ホントなんだから、仕方ないだろ! ダムゥの方が二人で大変かと思ってたけど……あんた、人間二人分より明らかに重いじゃん!」
「あんまり、重い重いって言わないでください!」
なんか二人で言い合いをしながら、竜巻を突っ切っていく。
――なんか場違いな感じではあるけど、それでウィリアも気力を回復したのか、雲流を突破した。
「出た!」
雲流から飛び出すと、青空が広がる。
眼下には地面、そして延々と続く森。
「島っていうから、もっと小さいかと思ってたけど――」
森の先が見通せないくらいに広い。
精霊島は、かなり大きな島だ。
「降りるぞ!」
ディードが声をあげて、飛竜たちが着地する。
森の外側の少し開けた場所に、飛竜たちが着地する。
地面に降りた飛竜の背から、僕らも地面に降り立った。
着地して安心すると、飛竜の姿のままウィリアが口を開いた。
「いやぁ、意外に姫様が重たくて……バランスがとれなかったのよ」
「ちょっと! それは止めてくださいってば!」
プリシアが赤くなって憤慨する。
と、やはり飛竜のままのダムゥが笑いながら言った。
「結局、クィード一人を乗せてたディードが、一番ラクだったワケか」
「いや……」
その言葉を聴いて、ディードが少し考えながら口を開く。
「クィードは――かなり重たかったぞ」
「何を言ってるんだ、ディード。まったく――」
ダムゥが笑い飛ばす。と、ディードが口を開く。
「クィード、我々が同行できるのはここまでだ」
「うん。ありがとう、ディード。本当に助かったよ」
僕は飛竜の姿のディードを見上げた。
ディードがこちらを見下ろしている。
竜の眼だけど――その眼にはある種の友情を感じることができた。
「うむ……我らこそ、同族の娘を助けてくれたこと感謝している。――そして君らがやろうとしている事に、我々も臨まなければならない。私は里に帰り、父である風龍王に、事の真相を報告し、今後の対応策を練らねば」
「うん、その辺のことは頼むよ。……そう言えば、火龍王の息子――バースドって竜にも、事態がおかしな風に動いていることは伝えたんだけど」
僕がそう言うと、ディードは眼を丸くした。
「おい! そんな大事なことを、何故、今まで話さなかった!?」
「いや……色々あったんで、忘れてたというか……」
僕の言葉を聴くと、飛竜の姿をしていたディードが、人間の姿になる。
いきなり眼鏡を抑えて、困り顔をしている。
「まったく君は……頼りになるんだか、ならないのだか――」
「ごめん、そんな重要なことだとは思わなかったんだよ。そう言えば……バースドは、火竜の里が全滅させられてことを、そこの生き残りと自称した竜に教えられ、その竜は里を早々に立ち去ったと言ってたよ」
「なんだと!?」
ディードが血相を変える。
「どうして、そんな重要なことを! ……と、言っても、まあ今さらか。しかしそれは非常に重要な事態だ。……竜の中に裏切り者がいる、ということだ」
ディードの言葉を聴いて、僕は口を開いた。
「竜災事変の時のように、操られている可能性もあるよ」
「うむ……その可能性もあるな。しかし――実は裏切り者に、心当たりがないでもない……」




