4 父と娘
ロメオの言葉を聴いて、ディードは少し考えていたが口を開く。
「いいだろう、ロメオ。お前やレーナが人間から魔法を学んで、今後、飛竜族の間に、それが広まればとてもいい影響になる。しかし――シュート殿はご迷惑ではないかな?」
ディードはそう言ってシュートを見る。と、シュートは笑って言った。
「生徒が増えるなんて――魔導士にとっては、誇らしいことですよ。歓迎するよ、ロメオ」
「やった!」
「え~、ズルい~、ロメオばっかり~! ウチも魔法やりたい~」
喜ぶロメオを見て、ロメリがぐすりだした。
それを見てたダムゥが、口を出す。
「いいぜロメリ、オレは二人一度に乗せるくらいなんでもないからな。ミシュレイ、オレの背中に乗って行きな」
「あ……ありがとう」
ミシュレイはためらいがちに、ダムゥに礼を言った。
それを受けて、ディードがシュートに付けくわえる。
「そういう訳で済まないが――ロメリの方もお願いできるか?」
「もちろんだよ。ロメリ、一緒に学んでいこう」
「うん! へへ、楽しみだ! ――これで、しばらく一緒だね」
ロメリは嬉しそうに笑ってレーナに言った。レーナも嬉しそうに笑っていた。
と、ライラが不意に口を開く。
「ああ、ミシュレイが一緒でよかった! 実は稲妻の防御とか、どうしようって思ってたんだぞ」
僕らは思わず、噴き出した。
△ △ △ △ △ △ △ △
夜も更けて、人も竜も眠りに着いた頃――
ミシュレイは一人、外に出て月を眺めていた。
と、その傍にシュートがやってくる。
「寝ないのかい? ミシュレイ」
「お父さん……」
ミシュレイは眼鏡をかけてない瞳で、父親を見つめた。
「なんだか少し、眠れなくて……」
「そうか――」
シュートはミシュレイの傍に立つと、自身も月を見上げた。
「……すまなかったな」
不意に、シュートがそう言って、ミシュレイは驚いて父親を見た。
シュートも、娘を寂しそうな微笑とともに見る。
「レーナとの生活が楽しくてね。まるで、娘と一緒に暮らしているようだと――しかし、お前とは長い間、一緒にいてやれなかった……。すまない事をした、と今さらながら思っていたんだ」
「お父さん……」
ミシュレイは潤んだ眼で、シュートを見つめた。
「飛竜たちに対して罪の意識はあるだろうが――お前はお前の幸せを見つけなさい。自身を不幸にしても、贖罪にはならない。その意識があるのなら……竜と人との懸け橋に、お前がなるがいい。――クィードくんのようにな」
クィードの名前を出されて、ミシュレイは思わずうつむいた。
「クィードは……凄い人だから――」
「そうだね。彼は大きな存在だ。これからもっと大きな事をするだろう。お前は……どうしたいと思ってるんだね?」
シュートに問われ、ミシュレイは顔をあげて、はっきりと答えた。
「ボクは彼のやることの力になりたい。――クィードの仲間なんだ」
「そうか。仲間、だけでいいのかい?」
シュートの問いにミシュレイは驚いて眼を見開き、赤くなってうつむいた。
シュートは苦笑気味に微笑む。
「ふむ。まあ、それは君たちに任せることにしよう。君も一人前の大人だしな。私は君が決めたことなら、どういう形であれ応援したいと思ってる。父親として――君が幸せになることを願ってるんだ。それだけは忘れないでくれ」
「お父さん……飛竜たちにもボクのことを話してくれて――ありがとう」
ミシュレイは微笑む。シュートも笑い返した。
と、ミシュレイが口を開いた。
「お父さん、抱きついていい?」
「……かまわんが――」
少し驚くシュートをよそに、ミシュレイはシュートの胸に飛び込んだ。
両手を回して、ギュウと抱きしめる。
シュートもそっと、ミシュレイの肩に手を添えた。
「お父さんに抱きつくの……夢だったんだ――」
「そうか。お前が一番甘えたい時期に、私はいなかったからな……遅いかもしれないが、これから好きなだけ甘えなさい」
「うん、そうする」
そう言うとミシュレイは笑顔になって、父親をギュウともう一度抱きしめた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
翌朝、朝食を済ませた僕らは旅立つことにした。
ディードが、レーナとロメリ、ロメオを傍に連れたシュートに言う。
「それではシュート殿、ロメオとロメリのこと――よろしく頼みます」
「ああ、判った。君たちも……元気でな」
シュートは僕らにそう言った。
「よし、それでは行くことにしよう!」
ディードの声で、ディードとウィリア、ダムゥが飛竜の姿に変身する。
「じゃあ、乗ってくれ!」
ダムゥの声に、ライラがすぐに背に飛び乗った。
そしてミシュレイに向かって手を伸ばす。ライラに引かれて、ミシュレイも飛竜の背に乗った。
僕とプリシアも、それぞれディードとウィリアの背に乗る。
ミシュレイが、シュートに向けて言った。
「それじゃお父さん――いってきます」
「ああ。頑張ってきなさい」
シュートはそう言って、笑顔をみせた。
眼鏡をかけてないミシュレイも、晴れやかな笑顔で応える。
「じゃあ――出発だ!」
ディードがそう一声上げると、その身体がふわりと浮かび上がる。
三体の飛竜が空中に浮遊すると、ライラが眼下に向かって声をあげた。
「いってきまーす、だぞ!」
そうして飛竜たちは上空へとぐんぐん昇り、やがて山を下に見下ろす高度へと達した。
「それじゃあ、一気にイーストリアの沖まで飛ぶからな。しっかり捕まっててくれたまえ」
「判った」
僕はディードの声に、飛竜のたてがみをしっかりと持った。
飛竜たちが凄い加速で飛んでいく。
下の景色がみるみる変わっていく。歩いたら何日もかかるであろう距離を、飛竜はどんどんと進んでいった。
「あはははっ! 空を飛ぶのは、凄いんだぞ!」
ライラがはしゃいだ声をあげる。見ると、その後ろでミシュレイは、少し恐そうにライラに捕まっていた。
僕はふと気づいて、ミシュレイに声をかける。
「そういえばミシュレイ、眼鏡かけてないね」
「あ……ロメオたちに破壊されてしまったから――ただ、角の冠を使い始めて、どういう訳か視力が回復してきてたから……もう必要ないかと思ってる」
ミシュレイはそう答えた。それを聞いて、僕は笑った。
「そう。その感じもいいよ」
僕がなにげなくそう言うと、ミシュレイは顔を赤らめてうつむいた。
「――また、クィードが天然で女性を虜にしようとしてますのね」
不意に隣を飛ぶ飛竜から、プリシアが笑いながら言った。
「いや、僕は別に――」
「覚えておいてください。女性は褒められると綺麗になるんですのよ」
僕はプリシアの言葉を聴いて、少し不思議に思った。
「え? ミシュレイは元から美人だろ?」
ミシュレイが驚き顔で、さらに赤くなってうつむく。と、ライラが口を開く。
「あ、あたしも褒められたいんだぞ! 強いって言われたいんだぞ!」




