2 滅竜士の紋章
ネフィーラは僕らに厳しい事を言った後で、にっこりと笑ってみせた。
「とはいえ、今日はとりあえず疲れたろう。食事をとって休むことだ」
「はい! ……あ、という事は、僕らはしばらく、ここに住むってことなんですね?」
「ま、そうなるな」
ネフィーラはそう言うと、微笑して家の中に入っていく。
僕とプリシアは見つめ合うと、互いに微笑んだ。
全然、先が見えなかった僕らの旅に、道先案内ができたことの安心感。それを僕らは感じていた。
「――というわけで、自分の家だと思って、気兼ねなく過ごしてくれ。必要な物があったらメモしとくように。明日、私が街に行って買い物をしてこよう」
「ありがとう、ネフィーラ」
僕は改めてネフィーラに礼を言った。
と、からかうようにネフィーラが言う。
「なあに、可愛い甥っ子のためだよ。クー坊」
「もう! クー坊ってのはやめてってば!」
「ハハハッ」
可笑しそうにネフィーラが笑う。つられるようにプリシアも笑ってた。
ネフィーラの作ってくれた食事も美味しく、僕らは夕食を堪能した。
ようやく、安堵の中で楽しい夜を過ごせて、僕はちょっと幸せな気分だった。
「それじゃあ、二人はこっちの部屋で寝てくれ。ベッドはないけどマットは二枚あるから、それを敷いて寝具にしてくれ」
「え、プリシアと同じ部屋なの?」
僕は驚いて言った。と、ネフィーラはジト目になりながら、僕を見る。
「嫌なのか?」
「いや……嫌じゃないけど――」
「部屋がないんだ、我慢してくれ。けど――仮に二人が恋人同士だとしても、私の家にいる時はヘンなことするなよ?」
ネフィーラの言葉に、僕は思わず赤くなる。
「もう! そんなことしないよ!」
「ハハッ、冗談だ! ちょっとお子様には早い話だったな。じゃあ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
なんだか赤くなってるプリシアが、小声で言った。
二人で残された部屋で、なんか僕はちょっと意識した。
「そ、それじゃあ寝具を敷こうか」
「そうですね!」
マットを敷くんだけど――なんかプリシアはわざわざ二つのマットを隙間なく並べてる。
……いや、まあいいんだけど。
「それじゃあ、寝ようか」
「はい!」
布団に入ろうとして、僕はふと気づいた。
「あ……そういえば、傷の方は大丈夫?」
「あの……ちょっとだけ…疼いて来てるかも…です」
プリシアが顔を赤らめて、小声で囁く。
「じゃあ、治癒かけてから寝ようか。その方が安心して寝れるでしょ?」
「お願いします……」
僕は横たわっているプリシアの傍によって、タンクトップの脇腹をめくる。
――やっぱり、白骨竜の紋章は紫の光を帯びていた。
「放っといたら夜中に苦しくなるところだったね。よかった。じゃあ、治癒」
「あン……ふぅ……」
僕は治癒の光を紋章にあてる。
プリシアは顔を赤らめて我慢している感じだったけど、そのうち堪えきれずに喘ぎ声をあげ始めた。
「あぁン……ンく――ふっ、うン……ああぁン――」
プリシアの金髪が揺れて、ベッドの上で波打つ。薄着の下の豊かな胸のふくらみが、大きく揺れた。
「あはっ――ンっ、くぅ……あン、ああン……ンンぅ――」
「――コラーッ! ヘンなことするなって言ったろーっ!」
そのとき突然、ドアが開いて、ネフィーラが入ってきた。
僕はびっくりして、ネフィーラに言った。
「いや、これはヘンなことじゃなくて――治癒です!」
「なにぃ? 治癒だと…!?」
ネフィーラが近寄ってきて、プリシアを覗き込む。と、その顔色が変わった。
「これは……滅竜士の紋章――?」
「そうなんです。僕が幾ら治癒しても完治しない――多分、呪いだと思うんです」
「あン、あはッ、ンっ、んんンッ――ああぁぁンッ!」
ネフィーラの訪れをよそに、プリシアは喘ぎ声を上げ続けてる。
その様子を見たネフィーラの顔が赤くなった。
「呪いはともかく……このプリシアの状態はなんだ?」
「判らないけど――竜には人間の治癒魔法が刺激的すぎるというか……どうも快感になるみたいなんです」
「そ、そうなの…か――」
ネフィーラが、悶えるプリシアを見てさらに赤くなってる。
「あん、あン、ああぁぁンッ――」
プリシアが一際大きな声をあげて、身体を弾ませた。
「はぁはぁはぁ……」
大きく息をつくプリシアを見て、顔を赤らめるネフィーラは口元を抑えながら僕に訊いた。
「こ…これで終わりなのか?」
「はい。これ以上は治癒しても変わりがないんです。けど、深部のダメージが残ってる感触があります。こうして夜に治癒しておくと、日中は大丈夫みたいなんですが――」
僕の説明を聴いて、ネフィーラは少し冷静さを取り戻したようだった。
「この滅竜士の呪いを解呪する方法を探ることも必要だな」
「判るんですか?」
「ツテを探ってみよう。それまでは……まあ、仕方ない」
ネフィーラはそう言うと、少し顔を赤らめたまま戻っていった。
なんか、ネフィーラの方が恥ずかしそうにしてたな。
翌朝は、すっかりなんでもなかったように、ネフィーラは出てきた。
「プリシア、体調はどうだ?」
「あ、大丈夫です!」
「そうか。じゃあ、今日から朝食前の朝練をするぞ。――と、その前に、クィードはこれを着けろ」
そう言ってネフィーラは、大きなベルトを差し出した。
「なんです、これ?」
「猛獣を弱体化させる弱体化ベルトだ。着けてみろ」
幅の広い革製で、留めるのは後ろ。前面の真ん中に、大きな銀色の円盤が着いている。と、着けた途端に、僕はがくん、と身体が沈んだ。
「え――なんか…うまく力が入らないんだけど――」
「Aランクモンスターも弱体化させる強力ベルトだからな。竜の力を得たお前の力を、元の人間状態――いや、それ以下にさせるかもしれん」
「どうして、こんなことを?」
僕の問いに、ネフィーラは答えた。
「柔術は力を使わないことが肝だ。だが、竜の力を得たお前は、つい力に頼ってしまうだろう。それでは柔術の習得が遅くなる。今日からは、風呂に入る時以外は、そのベルトを着けろ」
うわぁ……着けた感触から判るけど――これ、地味にキツい。歩くのにも体力がいりそうだ。
その後、僕らは庭に出る。ネフィーラは僕の前に立って言った。
「よし、まず気力を使えることが肝心だが……クィード、気力を使った経験は?」
「え、ないけど――」
「そうか。なら充気相伝を行う。腹を凹ませて空気を吐き、腹を膨らませながら息を吸え。腹式呼吸だ」
僕は言われた通りに腹式呼吸をする。
「よし、なら今度は腹の膨らみを維持したまま、息を吐け」
言われた通りにする――と、突然、ネフィーラが僕の腹に触れた。
その瞬間、僕の内部にドン、という感じで衝撃が伝わる。
「うわっ! ――なに、今の!?」
「大きく呼吸をしてみろ」
言われた通りに呼吸すると、自分の体内で熱いエネルギーが生まれてくるのが判る。
「あ……これが気力――」
「どうやら会得したようだな。だが、それは第一歩にすぎない。その気力を自在に使えて、ようやく技となる。が――それはいいとして、プリシアはそのお嬢様みたいな服しかないのか? もっと動きやすい格好がいいんだが」
「あ、じゃあ変えますわ」
そう言うとプリシアは、薄いタンクトップとショートパンツの姿になった。




