2 シュートとレーナ
シュートは穏やかな笑みを浮かべて、レーナを見た。
「もうすっかりレーナの世話になっていてね。凄く助けられているんだ」
そう言われたレーナは嬉しそうに笑った。
「ワタシもおじさまから色々教わってるんです。料理とか、魔法とか」
「「「「「魔法?」」」」」
飛竜たちが全員、驚きの声をあげる。
「魔法って――あの人間の使う魔法かい?」
「はい!」
ディードの問いに、レーナは元気よく答えた。
と、シュートが言葉を添える。
「どうも見ていると、竜気は魔力に転換できそうだ、と思ったんだ。それでレーナにそのコツを教えると、魔力転換できた。それで色んな基礎魔法を教えてみたら――凄く覚えが早くてね」
シュートは嬉しそうに微笑した。レーナも微笑む。
「はい、魔法は楽しいです! 色んな事をできるようになって、おじさまみたいな偉大な魔導士になりたいです!」
「竜が……魔法を使えるのか――」
ディードが眼鏡を抑えながら、呆然と声を洩らした。
すると少年――ロメオが声をあげた。
「君、魔法使えるの? 見せてよ!」
「うん、いいよ。それじゃあね――」
レーナは笑うと、誰もいない方向に掌を向けた。
「火炎球」
火炎の玉が発射され飛んでいく。お~、と歓声が上がる。
「水流弾!」
水の弾丸が発射される。おぉ~、と歓声がまたあがる。
「旋風刃!」
風の刃が幾つか飛んでいく。おぉ……と歓声が洩れる。
「土石壁!」
少し離れた場所に、土壁が現れる。えぇ!? と驚愕の声が上がる。
「そしてぇ……熱光線!」
指先から光線が発射され、その土壁を撃ち抜いた。あっ! と皆が驚く。
「――いや……まさか、これほどとは――」
ディードが驚きながら、そう口にした。
僕も驚いていた。飛竜だから風属性魔法が使えるだろうとは思ったけど、まさかほとんどの属性魔法を使いこなすなんて――
ロメオはレーナの傍に言って、声を弾ませる。
「君、凄いね! 魔法が使える竜なんて初めて見た! ボクはロメオ」
「ワタシはレーナ。よろしくね」
レーナがにっこりと笑うと、ロメオは赤くなって、少し黙る。
と、少女がロメオの傍にやってきた。
「あらぁ、ロメオはすっかりレーナちゃんが気にいっちゃったみたいね?」
「そ……そんなこと――」
「ふふ、ウチはロメリ。仲良くしてね」
「うん!」
レーナが嬉しそうに笑う。それはレーナが同年代に気を許した――初めてみる笑顔だった。
「……驚きです、シュート殿。まさか我ら竜が、こんなに魔法が使えるとは――こんなにできるまで教えていただいたこと、レーナを保護してくれたことも含め感謝します。本当にありがとう」
ディードはそう言うと、頭を下げた。
シュートは笑顔を見せながら、首を振る。
「いやいや、私は足を悪くして、色々生活上の不便があるんだ。レーナがそれを気づかって、ここに残ってくれると言ったので、助けられてるのは私の方なんだ。――まあ、外で立ち話もなんなので、家においでください」
そうして僕らは、シュートに導かれて、家に入る。
と、少女――ロメリが声をあげた。
「ね、ディード! ウチたち、レーナと庭にていい? 魔法のコツ、教わってみたい!」
「ああ。いいよ」
ディードはそう言うと、微笑してみせた。ロメオとロメリ、レーナはそのまま庭に残り、大人たちは家に入る。
「こんな形で、人間と竜がともに暮らしてるとは……驚きだ」
ディードが感慨深げにそう口にした。
と、プリシアが口を開いた。
「わたしに武技を教えてくれたレフィーナも、光竜の竜能が光属性魔法に近い――と言って、わたしに多様な使い方を示唆してくれたんです。けどレーナちゃんは、あんな多属性で使えるなんて……驚きですわ」
「なるほど……それがあんたの、変化にとんだ竜光の使い方の元だったんだね」
ふとウィリアが、そう言って頷いた。プリシアは笑ってみせる。
と、ディードは改めて眼鏡をこちらに向けると、口を開いた。
「そもそもだが――どうして光竜姫が、人間とともに修行したり旅をしてるのか……教えてはもらえまいか?」
「判りました」
それから僕は、これまでの経緯を全て話した。
長い話になったが、ディードもウィリアもダムゥも真剣に耳を傾けてくれた。
途中、プリシアがお茶を淹れて持ってきてくれる。
僕は喉を潤しながらも、これまでの事を説明し終えた。
「……なるほど――その異魔人が――竜と人間との間に諍いを作ろうと画策して、滅竜攻団をつくり、遂に飛竜の里襲撃に至った――という訳か……」
「チッ、じゃあアタシたちはまんまと、そいつらの策に乗るところだったってワケだね?」
ディードとウィリアが、それぞれに感想を洩らす。
横で話しを聴いていたライラが、ほぇ~と声を上げた。
「なるほど、クィードたちに今までそんな事があったなんて知らなかったんだぞ」
「言ってなかったっけ?」
「聴いてないんだぞ!」
ゴメン、ゴメンと僕はライラに謝っておいた。
――と、突然、ミシュレイが声をあげる。
「――ごめんなさい!」
ミシュレイは床に座って、頭を深く下げていた。
「謝って許されることではないの判っていますが――飛竜の里の襲撃にボクも加わっていました。飛竜たちが無残に殺されるのを……見殺しにしたんです」
飛竜たちの顔色が変わる。僕は慌てて言い添えた。
「けど、ミシュレイはその行為が残虐過ぎて、直接には手を出せなかったんだ。それに――僕たちと一緒に滅竜攻団との戦いに協力してくれてる仲間なんだ。そして彼女自身も……記憶を操作されて加担させられていた被害者でもある。許してほしいとは言えないけど……理解してもらえないだろうか?」
僕はそう言うと、ミシュレイの隣に座って僕も頭を下げた。
「お願いします」
「……クィード……」
少し顔をあげたミシュレイが、僕に驚きの声をあげる。
「私からも頼みたい。ミシュレイは私の娘で――私が投獄されてしまったばっかりに、利用されてしまった。その責任は、私にもある」
「お父さん……」
シュートもソファの上で、深々と頭を下げていた。
ディードが口を開く。
「ウィリア、レーナを呼んでもらえないだろうか?」
「ああ」
ウィリアが窓の傍にいき、庭に向かって声をあげる。
やがてレーナ、それにロメオとロメリも戻ってきた。
座ったレーナに、ディードは神妙な面持ちで訊ねる。
「レーナ…この人は君の村の襲撃に加わった人だ。それは知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「それで……君は、この人を許せるのかい?」
ディードの言葉に――僕らの眼はレーナに集中した。
と、レーナはにこやかに笑った。
「うん! だって、ミシュレイは悪い人じゃないよ。一緒にいて判ったし、竜のことだって嫌ってない。――ミシュレイは仲間だよ」
レーナが晴れやかな笑顔でそう言った。
ミシュレイは……両手で顔を覆って、涙を隠していた。




