第三十五話 和解 1 シュートとの再会
僕はディードやその他の飛竜たちに向けて言った。
「飛竜の里を襲ったのは滅竜攻団という組織です。けどこの組織は、竜と人間を分断するために、『本当の敵』である異魔人が創った可能性が高い」
「……なんだね? 異魔人というのは」
ディードの問いに、僕は答える。
「外宇宙からの侵略者――という存在のようです。平たく言えば、悪魔、かと」
僕の答えに、ディードは鼻白んだ。そこに、美女の飛竜ウィリアが声をあげる。
「そんな荒唐無稽な話を信じろってのかい! バカ言ってんじゃないよ」
「――もう一つ、あなた方に大事な話があります」
僕は敢えてウィリアの言葉に応えずに、別の話を持ち出した。
ディードが眼鏡を向けてくる。
「なんだね、大事な話というのは」
「僕らは飛竜の里の唯一の生き残りである少女を保護してます」
「――なんだって!?」
またウィリアが声をあげた。僕はウィリアの眼を見つめる。
「異魔人の話は、すぐに呑みこむのは無理でしょう。けど、この生存者の話はただの事実です。僕は彼女を――同族である、あなたたちに引き合わせたい」
ウィリアは鼻白んだ面持ちで、ディードを見る。
ディードが真剣な面持ちで、僕を見つめた。
「それで……その生存者というのは、何処にいるのだ?」
「このミシュレイの父親、光龍騎士だったシュート・クローネと一緒に山中にいます。できたらそこに、皆さんを案内したい」
僕は隣のミシュレイを指しながら、そう言った。
眼鏡をかけてないミシュレイはうつむいている。
「……判った、案内してもらおう。ならば一人ずつ、我らの背に乗るがいい」
「ディード! こいつらを乗せるだって!?」
ウィリアが声を上げる。ディードはそれを静かに見た。
「嫌なら、お前は乗せなくてもいいぞ」
「そ、そんな!」
「ボクたちが乗せれば、人数足りるもんね~」
そこで少年が、笑いながら口を開く。さらに少女も声をあげた。
「ディードが言うんなら、ウチたちは従うしぃ」
「待て! ……乗せないとは言ってない!」
ウィリアは不承不承の体で、そう呟いた。
と、傍にいた屈強な男――ダムゥが口を開く。
「じゃあ、オレはこいつ――ライラを乗せるかな」
「よろしく頼むんだぞ!」
自分の方を見たダムゥに向かって、ライラはにぃと笑ってみせた。
「では、私はクィードを乗せよう。姫君はご自分で飛んでいけるかな?」
「それが……実はわたしは敵の呪いを受けて、長い時間、竜の姿になることができないんですの」
ディードの言葉に、プリシアはそう答える。
と、ウィリアがそこで口を開いた。
「じゃあ、姫さまはアタシが乗せるよ……仕方ないね」
「よろしくですわ、ウィリア」
プリシアはにっこりと微笑する。
「じゃあ、お姉さんはボクが乗せるよ」
「え~、ウチが乗せるぅ」
なんだか少年と少女が取り合いをしている。
ミシュレイは申し訳なさそうな顔をしていたが、僕はミシュレイに頷いて見せた。――色々話したいことがあるだろうけど……まだ後でいい。
「ロメオ、じゃあお前がその人を乗せなさい。それじゃあ、皆、行くぞ」
そう言うと、ディードたちは全員、飛竜の姿に戻った。
そして首を下げると、僕らを背中に誘う。
「わ~! 飛竜に乗るなんて初めてだぞ!」
ライラはご機嫌で、ダムゥの背中に乗った。
僕はディードの背に乗り、プリシアはウィリアに。そしてミシュレイは、少年――ロメオの背に乗った。
「それでは、案内してくれ。クィード」
「うん。此処から北東にあるガレーク山中だ」
僕はディードの背中で、そう案内をした。
飛竜たちが一斉に飛びたつ。
「わぁお!」
ライラがはしゃいだ声を出す。
それに向けて、背中に乗せているダムゥが声を出した。
「どうだいライラ、恐くないか?」
「凄い! 凄いんだぞ!」
「へへ……いいだろ? 空ってのは」
「うん!」
ライラはご機嫌だ。確かに――空からの景色は素晴らしかった。
街を眼下に見下ろし、はるか高い山を越えていく。
「そう言えば……最初にプリシアに乗せてもらった時も、驚いたなあ」
「そうですわね。懐かしいですわ」
僕は隣で飛行するウィリアの背にいた、プリシアに話しかけた。
と、ウィリアが声をあげる。
「ちょっと、人の背中でイチャイチャすんじゃないよ!」
「まあ、イチャイチャだなんて」
プリシアは楽しそうに微笑んだ。
「――見えて来たぞ、ガレーク山だ」
前はプリシアが途中で飛べなくなったんで、歩きになったんだった。
けど、今回は飛竜たちの力で、そのまま行ける。
「あ、あの滝つぼの所へ降りて。そこからは、皆さんも人間態で」
僕の言葉で、飛竜たちが滝つぼ付近に着地する。
僕らが降りると、飛竜たちは人間態になった。
僕は滝の傍にある大岩の前に行き、魔力を放出した。
と、大岩に大穴があく。
「隠し通路なんです、行きましょう」
「なんだか、竜の隠れ里のようだな」
「それを参考にしたって言ってましたよ」
僕らはその通路を歩いていく。やがて光が見えてきて、開けた場所にやってきた。
――と、こっちに駆けてくる少女がいる。レーナだ。
「みんなー! クィード! プリシア! ミシュレイ!」
レーナは駆けてきて、プリシアの身体に抱きついた。
「会いに来てくれたんだね! 嬉しい!」
「元気にしてましたか、レーナ?」
「うん、おじさんとすっごく楽しく暮らしてるんだ!」
レーナはそう言うと、後ろを振り返った。
小屋から少し足を引きながら、シュート・クローネが歩いて来る。
と、レーナは後ろにいるディードたちに気付いた。
「クィード……この竜たちは――」
「うん。君と同族の飛竜たちだ。彼らに君を合わせたくて、連れて来たんだよ」
僕がそう言うと、レーナは驚いた眼でディードたちを見つめた。
その眼に涙が浮かんできて、レーナは声を抑えるように両手で口を覆う。
「ワタシの……仲間――」
うっ、うっ……と、レーナは嗚咽を洩らし始めた。
「レーナ……一人ぼっちで寂しかったでしょう。けど、あなたの同族はいるし、わたしたちも、あなたの仲間よ」
プリシアがしゃがんで、そうレーナに囁いた。
と、レーナは堪えきれずに、プリシアに抱きつく。
「あぁん! あぁぁん、ああぁ―――」
レーナはそれから、大声で泣き始めた。
多分、ずっと一族の唯一の生き残りになって――心細かったんだろう。
「……間違いなく我ら一族の子だ。クィード……保護してくれたこと――礼を言う。ありがとう」
ディードが頭を下げた。後ろで、ダムゥとウィリアも頭を下げる。
それを見た少年少女も、慌てて真似をした。
「いや、此処での暮らしはシュートさんにお願いしてたから――シュートさんが、面倒をみてくれたんだ」
僕はそう言って、傍に来たシュート・クローネを紹介した。
シュート・クローネは以前助けた時よりすっと元気そうで、少し若返ったような印象さえあった。シュートは微笑を浮かべて、口を開いた。
「いや、レーナに面倒をみてもらっていたのは、こっちの方だよ……クィード」




