4 贖罪のミシュレイ
ミシュレイは防御する様子もなく、少女のパンチを顔面に受けた。
「ミシュレイ!」
ミシュレイの眼鏡が飛ぶ――と、後頭部には少年の回し蹴りが直撃した。
前後の衝撃をもろに受けたミシュレイの首が、曲がってはいけない形に曲がる。
「ミシュレイィィィッ!!」
僕は絶叫した。と、気力を爆発させてミシュレイの元に迫る。
しかし、その僕の前に少年と少女が立ちはだかる。
「あいつの仲間だね、行かせないよ!」
「どけぇっ!」
僕は構わず突っ込む。早く行って治癒をしないと――ミシュレイが死ぬ!
しかし少女は僕に向かってパンチを打ってきた。
「どくんだ!」
僕は大気旋を展開して、少女を投げ飛ばす。
と、その僕の背後から、跳躍した少年の回し蹴りが迫っていた。
が、僕は後ろ回し蹴りで蹴りを先に少年に当てる。
「「うわあぁっっ!!」
少年と少女が、二人とも吹っ飛ぶ。構ってられない。
僕はミシュレイの元に駆けつける。
「ミシュレイ、しっかりするんだ!」
僕は倒れているミシュレイに呼びかける。
横を向いたミシュレイは、首がおかしな方向にくびれている。
「――つみ……」
「くっ……」
やっぱりだ。ミシュレイは自らの罪の意識から、あの子供たちの攻撃を防御しなかった。
「――けど、死んじゃダメだ、ミシュレイ! 超治癒!」
僕は竜気も魔力に転換して、超最大出力で治癒をかけた。
ミシュレイの全身が光りに包まれる。
なんとか……間に合ったらしい。
ミシュレイの首が元の形に戻っていき――
「う……うぅ――」
「ミシュレイ! よかった……間に合った――」
息を吹き返したミシュレイは、僕をうつろな眼で見つめた。
と、その眼から涙がこぼれる。
「ボクは……」
「もういい。何も言わなくていいんだ、ミシュレイ……。苦しかったんだね、もっと早く気づかなくて――ごめん」
僕はミシュレイにそう言って微笑してみせた。
ミシュレイは眼から涙をあふれさせながら、僕に言った。
「また……君に助けられるのか――」
「仲間なんだ……君に、生きていて欲しいんだ」
僕はミシュレイの眼を見つめた。
見つめ返すミシュレイの眼から、また涙がこぼれる。
「ボクは……彼らに対して、何の言い訳もできない……」
「時間をかけて――判り合っていくしかない。君は罪の意識を持ちすぎだよ」
僕がそう言った時、僕の背後から声が響いた。
「何言ってんのさ! そいつははっきり言ったんだよ、自分が里の竜を殺したって!」
振り返ると――そこには怒りに震える少女の姿があった。
僕はギリギリまでミシュレイに治癒を施して、ゆっくりと立ち上がった。
「君らは――この人を殺すことにためらいを感じなかったのか?」
僕は少年と少女に言った。
少女の方が、僕に言い返す。
「なに言ってんだよ! 先に竜を殺したのは人間の方だ! 仕返しをして何が悪い!」
「ためらいもなく相手を殺すのなら、それは竜を殺した人間と同じじゃないか!」
僕は少女を一喝した。
少女の眼が見開く。
「確かに一部の人間が竜の里を襲って皆殺しにした。ひどい、残虐な行為だ……。その事は人間として謝りたい。申し訳なかった――」
僕は頭を下げた。そして顔を上げると、僕は驚いている二人に言った。
「――けど、それで君らが何の罪もない人間を襲って殺したのなら……君らだって同罪だろう。人間に殺されても、文句の言えない立場になるじゃないか」
「だって、そっちが先にやったんだろ! 偉そうなこと言ってんじゃないよ!」
少年の方が、僕に怒号をあげる。
「僕らは君らと戦いたくないし、竜と人間とは協力して生きていけると思ってる。少なくとも僕は……光竜姫であるプリシアとともに、今、本当の敵と戦うための旅をしているんだ。……そして、できたら君たちも一緒に協力してほしいんだ」
少年と少女は、眼を合わせた。
「こいつ……何言ってんの?」
「うまいことを言って、ボクらを騙すつもりだ! 現に、ウィリア姉ちゃんはあの女にやられた……はやく行かないと」
僕は目を伏せて、両手を広げた。
「範囲治癒!」
僕はその周辺一帯に治癒を広げる。
これで倒れたディードも、墜ちた飛竜の人も治癒されてるはずだ。
「――ミシュレイ、立てる?」
「ああ……すまない」
僕は上半身を起こしたミシュレイに手をさし出した。
ミシュレイが僕を見つめながら――その手を取る。
僕は微笑んでみせて、ミシュレイを引き上げた。
「う……」
立ったミシュレイがよろける。僕はその身体を支えた。
ミシュレイの細い身体が、僕に寄りかかって密着する。
「大丈夫かい? 治癒はできてるけど、回復には時間がかかるから」
僕はすぐ傍にあるミシュレイの顔を見つめながら、そう言った。
ミシュレイが僕を見つめ返す。眼鏡がなくなって――その長い睫毛の眼が、はっきりと目立っていた。
「ありがとう、クィード……」
ミシュレイは少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、自分の脚でバランスを取り戻す。僕は少年と少女に向かって言った。
「君たちとちゃんと話がしたい。ディードも復活してるだろうから、集合しよう」
「まさか――ディードに勝ったっていうのか!?」
少年が驚愕した声を出す。
「ウソだろ……ディードが負けるなんて――」
「強かったよ、あの人は。だからこそ、ちゃんと話がしたいんだ」
僕はミシュレイに肩を貸しながら、歩いていった。
途中で、ライラがやってくる。
「お~い、今、範囲治癒したの、クィードなんだぞ?」
「そうだよ。君の方はどうなってたの?」
僕がそう訊くと、ライラはニッと笑ってVサインを出して見せた。
「ばっちり勝ったんだぞ!」
「そう。その相手は?」
「なんか、女竜のことを気にして、そっちに向かっていったんだぞ」
僕らはやがて、プリシアのいる処へたどり着いた。
そこには僕と戦ったディード、屈強な男と、美女がいる。美女はまだ、地面に座っていた。
「……君が――治癒をほどこしたのか?」
ディードが、僕に向かって問うてくる。僕は頷いた。
ディードは眼鏡を押さえながら、さらに問うた。
「どういうつもりなのだ? どうして敵にとどめを刺さない」
「何度も言うようだけど――あなた方とは戦いたくない。あなた方の怒りは判るし、復讐心を持つのも当然だと思う。けど――仮に竜の中に裏切り者がいるとしたら、その事だけで竜を全滅させるつもりですか?」
僕がそう言うと、ディードは眼を見開いた。
「な――」
「人間が竜を殺したから、人間を殺す――あなた方の言ってることは、そういう事ですよ。罪の有無や真実より、自分の復讐心を満足させることだけを優先しようとしてる。けどそれじゃあ――何も判らないし、本当の敵にもたどり着けない」
「本当の敵……だと?」
ディードの真剣な面持ちが僕に向けられて、僕は深く頷いた。




