3 ミシュレイの罪
ミシュレイは少年と少女が向かって来るのを防御しながら、まったく反撃しないでいた。いや――できなかった。
(この子たちは飛竜の……あの虐殺された竜の村と同族の子たち。あの虐殺をした人間を恨みに思うのは――当然のこと)
ミシュレイの眼の裏に、あの日の虐殺の光景が浮かんでくる。
泣き叫ぶ男女。竜の姿になって反撃を試みるも、ジャルドーの強力な魔法で殺された者。そして――子どもを守ろうとして殺された母親。
(あの時――レーナの妹を助けようとして、母親は必死にすがった……)
飛竜の姿で倒された母親は、兵士たちに次々に串刺しにされる。
母竜は人間態になった。
殺される母親を見て、娘が絶叫しながら手を伸ばす。
「お母さんっ! お母さぁんっっ!」
伸ばされた娘の手に触れようと、母親も手を伸ばす。
――母と娘は手を握った。
母親が黒仮面卿を見ながら、口の端から血を流して言った。
「お願い…です……娘はまだ11歳です……娘だけは――助けてください……」
黒仮面卿は母親の元に近寄ると、冷酷な声を出した。
「娘は利用価値があるから殺しはしない。我らに感謝するんだな」
そう言うなり、黒仮面卿は母親の胸を一突きした。
母親は小さく呻くと、娘を見ながら涙をこぼし――絶命した。
「お母さんっ! お母さーんっっ!」
「連れていけ」
黒仮面卿の指示で、兵士たちが娘を母親から引きはがす。
と、少女は黒仮面卿の傍にいたミシュレイを見て、涙を流した。
「やめて! お願い、助けてっ!」
ミシュレイが眼を見開く。が――ミシュレイは顔を背けて、視線を逸らした。
(……あの時――ボクは、眼を逸らすことしかできなかった……。あの母親を見殺しにし、少女がさらわれるのを黙って見ていた。ボクは……愚かだった――)
無意識に、ミシュレイは唇を噛んだ。
その唇から――血が流れ出す。だが、その痛みにもミシュレイは気づいてなかった。
「――あれ? この人、泣いてるよ?」
「なんだよ、それ? 恐くて泣いてるのかな。……え~、なんかこっちが悪者みたいじゃん。――シラけるぅ」
ロメリがふくれっ面をする。と、ロメオが口を尖らせて言った。
「なに言ってんだよ! 飛竜のみんなを皆殺しにしたのは、人間の方だよ! こいつらが悪いに決まってるじゃん!」
「……確かにそうだ」
ミシュレイは、うつむき加減でそう声をこぼした。
その声に、ロメオとロメリが反応する。
「飛竜の里を襲ったのは――ボクだ」
ミシュレイはそう口にした。
ロメリとロメオの顔に――衝撃以上のものが浮かぶ。それは……憎悪へと変わった。
「こいつ……今、なんて言った?」
「飛竜の里を襲ったのが自分だって言ったよ、ロメオ!」
少年と少女は怒りに肩を震わせ、ミシュレイを睨んだ。
「あんたが……ウチたちの仲間を殺したの?」
「……そうだ」
ミシュレイは深い苦悩の眼差しを眼鏡の奥に秘めながら――それだけを答えた。
ロメリとロメオの顔が、怒りに燃える。
「こいつ――許さない!」
ロメリがそう声を上げた瞬間だった。
突如、少し離れた場所で巨大な飛竜が現れる。
「ウィリア姉ちゃん! どうして竜の姿に?」
ロメオが驚きの眼差しで、その姿を見上げる。
と、その傍に舞い上がったプリシアの姿を見つけた。
「あいつ、人間態のまま飛んでる! それで多分、変身したんだ」
そう言ってると、飛竜の姿になったウィリアは空へと舞い上がった。
しばらく飛竜とプリシアは空中戦を展開し、ロメオとロメリはその様子に眼を奪われている。
が、突如、プリシアが巨大な熱光線を飛竜に向けて放った。
その巨大光線は飛竜を呑みこみ、真っ黒な姿になって地上へ落下する。
「ウィリア姉ちゃん!」
ロメリが悲痛な声をあげる。
「ウソだろ、ウィリア姉ちゃんが負けるなんて!」
「ウチたちもあっちに行かないと!」
ロメリとロメオは、ミシュレイに向き直った。
その眼は、さらなる怒りに燃えている。
「よくも里の竜だけじゃなく、ウィリア姉ちゃんまで――お前たち、全員、許さないからな!」
ミシュレイは黙ったまま――動かない。
が、その身体を囲むように三匹の水竜が現れる。
その水竜は激しい勢いで、ミシュレイの周囲を回転していた。
「それで防御してるつもり?」
「今のウチたちにそんな技――きかないんだから!」
少年と少女が突っ込んでくる。
ロメリはパンチで水竜を破壊し、ロメオは跳び蹴りで水竜の囲みをぶち破った。
一瞬にしてロメオがミシュレイのほぼ横まで迫っている。
そして正面から、ロメリが迫って来ていた。
「喰らいな! ボクたちの合体技!」
「竜合爆挟撃!」
前方から直突き、後頭部から回し蹴りの二人の合体技をミシュレイが喰らう。
その拳が左頬を打ち抜き首が降られ、ミシュレイの眼鏡が宙に舞った。
と同時に、後頭部からの蹴りがミシュレイを襲い、その両側からの衝撃がミシュレイを直撃する。
ゴキリ、という音がして、振られたミシュレイの首が曲がる。
明らかに首の骨を折られたミシュレイが、ゆっくりと地面に倒れた。
その倒れたミシュレイの顔には――涙が流れていた。
「……なにこいつ、泣いてるんだけど」
「泣く資格なんかないよ、里の竜たちだってきっと泣いた。……行こう、ロメリ」
二人は顔を見合わせると、駆け出そうとする。
しかしその前に――クィードが現れた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ディードを倒した僕は、一息ついた。
が、その直後に空中戦を行っていた飛竜とプリシアの戦いに、決着が訪れたようだった。
プリシアが極大の竜光砲を放つ。その凄まじい威力に飛竜が呑まれ、飛竜は地上に落下した。
「プリシア……龍王具を得て、物凄くパワーアップしてるな」
僕は思わず口にすると、それライラとミシュレイのことが気になった。
特にミシュレイ――飛竜たちが現れてから、ミシュレイは一言も口をきいてない。様子がおかしかった。
「里襲撃の罪の意識に――」
きっと……さいなまれているに違いない。あの真面目なミシュレイのことだ、きっと強く思いすぎてる。
「けどミシュレイ……君は――贖罪のためにも戦ってるはずだ」
僕はミシュレイの戦ってると思われる方に急いだ。
「ミシュレイ、何処だ!?」
僕は声をあげて走る。
――見つけた。ミシュレイはあの子ども二人と戦っている。
水竜で壁を作って防御しているが……ミシュレイの顔に生気がない。
「まずいぞ、あんな精神状態で戦っても――」
そう思った時だった。少年と少女が水竜の壁をぶち破り、ミシュレイに迫った。
少年の移動力は高く、一瞬でほぼミシュレイの背後まで廻りこんでいる。
「ミシュレイ、防御するんだ!」
僕は声を上げた。その声に気付いたのか――
ミシュレイが一瞬、僕を見た。
その眼鏡の奥の眼が、寂しそうな笑みを浮かべる。
だが、それが見えたのはほんの一瞬で、その顔に少女のパンチがめり込んだ。




