2 ライラvsダムゥ
ライラは黄金剣を構えると、ダムゥに微笑みかける。
「その斧の使い方、すっごく面白いんだぞ。攻撃にも防御にも使える。けど――」
ライラは全身で気力を発動した。
「――弱点があるんだぞ」
ライラの全身がオレンジ色にスパークする。
ダムゥは眼を見張った。
「これだけの高さの気力を……こんな小娘が――」
「小娘じゃなくて、ライラなんだぞ」
ライラの言葉を聴いて、ダムゥはふと苦笑を洩らした。
「そうか……判った、ライラ。オレも見解を改めよう――お前は一人前の……いや、相当に強力な戦士だ。オレも全力でいかせてもらう」
そう言ったダムゥも、戦斧を構えて竜気を高める。
緑色のオーラが、ダムゥの身体から立ちのぼった。
その時、少し離れたところで突如として飛竜の姿が現れた。
ダムゥが驚きに眼を見開く。
「あれは――! ウィリア!? どうして飛竜の姿に……」
「わざわざデカい的になるなんて、バカげてるんだぞ」
ライラの物言いにムッとしたダムゥが、ライラを睨みつける。
「フン、おおかた竜の姫君と戦ってるうちに熱くなったんだろうさ。本来の姿で勝負するとかなんとかな。心配するな、お前との戦いに飛竜の姿は出さない」
「それはよかったんだぞ。あんなデカブツじゃあ、勝負がつまらない」
にぃ、と笑うライラを見て、ダムゥが真顔になる。
「いいだろう、じゃあ面白い勝負をしてやる。そしてオレの弱点などと言ったことを後悔させてやる」
「あんたの弱点じゃないんだぞ。その戦斧の弱点なんだぞ」
ライラは不敵な笑みで訂正をした。
二人は睨みあう――と、張り詰めた緊張が、一気に炸裂した。
二人が同時に急接近する。
ライラの方が速度に勝り、剣の分斬りつけが早い。ライラが真っ向から斬りつけた。
「行くんだぞ! 鋭気閃裂破!」
ダムゥは戦斧を横にして、その斬りつけを受けた。
「オレの戦斧に――弱点なんかねえっ!」
「あるんだぞ!」
ライラはそのまま斬り込む。オレンジ色の光とグリーンの光が衝突し、辺り一面に閃光を放つ。
その光の中で――ギリ、と黄金剣の刃が戦斧に喰い込んだ。
「――守りに使ってる時は、攻撃はできない。そして――」
黄金剣がさらに戦斧に喰い込む。
ダムゥの顔色が変わった。
「なに……? オレの戦斧が…斬られ――」
「あたしの技のキレ味なら、その斧を切り抜けるられるんだぞ!」
ライラが黄金剣を押し込む。
――と、遂に黄金剣は戦斧を斬り割り、ダムゥの胸をも切り裂いた。
「ぐああぁぁぁぁっ!!」
ダムゥが呻き声をあげながら、後方に跳ばされていく。
その胸から血しぶきを上げながら、ダムゥは地面に倒れていった。
「……少し剣を引いたから、身体を斬り割ってはいないんだぞ。殺したら、クィードに怒られそうだったからだぞ」
「フ……まさか、手加減されるとはな――完敗だ、ライラ」
地面に倒れたダムゥは、笑みを洩らした。
それを見たライラが、微笑を浮かべる。
「やっと名前を覚えたんだぞ」
ライラはそう言って、にぃと笑ってみせた。
△ △ △ △ △ △ △ △
ミシュレイは二人の元竜の少年少女と対峙していた。
「ボクらだけ二人がかりだけど――子どもだから、いいよね?」
「しかたないよね~」
そう言って二人は笑い合う。ミシュレイは堅い面持ちで、二人を見つめていた。
その様子にも構わず、少年少女はミシュレイに向き直る。
「じゃあ――勝負しよ、お姉さん!」
少年が突進してくるなり、飛び蹴りを放った。
ミシュレイはそれを後退してかわす。
「や、やめろ! ボクは……君たちとは戦いたくない――」
「どうしてさぁ? 戦うのは楽しいよ」
「楽しくなんか……ない!」
ミシュレイは眼鏡の奥から、悲痛な眼を向けた。
が、それに構わず、今度は少女が迫って来る。
少女はグローブを着けた拳で、ミシュレイに殴りかかってきた。
ミシュレイは薙刀を持ち出すと、水流のドームを自身の周囲に築いた。
「水流壁!」
少女の拳が、水流に弾かれる。
と、少女は少年の傍に跳び退って着地する。
「ねえ、このお姉さんの魔法、ウチのパンチを弾いたんだけど!」
「ボクの蹴りもかわしたし――意外にやるよ、このお姉さん。……楽しめそうじゃない?」
にやり、と少年が笑みを浮かべる。
ミシュレイは水流壁を解くと、二人に言った。
「待ってくれ。ボクたちは君たち竜と敵対する理由がない。戦う必要なんてないんだ」
「……だってえ、どうするうロメリ?」
少年が少女――ロメリにそう訊ねた。
ロメリが不思議そうな顔で答える。
「どうするも何も――もう、向うで戦ってるじゃない。ウチたちもやるに決まってるでしょ、ロメオ」
ロメリがそう言うと、少年――ロメオも、にやりと笑った。
「そっか、もうやるしかないよね!」
「だしょ!」
意気投合したロメオとロメリは、連動して向かって来る。
と、二人が重なって前から見ると一人にしか見えない。
(く……この子たち相手に――戦うわけには……)
ミシュレイは苦悩していた。
ミシュレイの脳裏に、隠れ里を襲撃した時の記憶が甦っている。
“やめてください! わたしたちが、あなた方に何をしたというんですか!”
“竜は存在自体してる限り、必ず害をなす……。だから駆除の必要があるのだ。お前たちは害獣だ”
黒仮面卿が、冷酷に告げる。
“娘を…殺させはしません――!”
母親が、巨大な竜の姿になる。と、その翼をはためかせ、突風を起こした。
何人かの兵士が、その突風で吹っ飛ばされる。
母竜は娘を掴んで、上空へ舞い上がろうとした。
――が、その足を急に伸びてきた影が掴む。
“こ――これは?”
驚く母竜が、地面に引きずり降ろされ、母竜と娘が悲鳴をあげた。
地面に引き倒された母竜と娘は、悲鳴をあげながら地面に転がった。
と、その地面に投げだされた母竜を、影ががっしりと掴む。
“あ――う、動けない!”
“死ね!”
黒仮面卿が近づき、その剣を母竜の胸に突き立てた。
“お母さーんっ!”
地面に投げ出された娘が、その光景に絶叫する。
だが容赦なく兵士たちが群がり、母竜を次々と刺していった。
母竜が激痛にのたうちながら、悲鳴をあげる。
“お母さんっ! お母さんっっ!!”
少女の姿のままの娘は、涙をこぼしてその手を伸ばした。
ミシュレイは、その少女の姿を目の前の二人に重ねていた。
(この子たちとは……戦えない――)
しかしミシュレイの苦悩をよそに、ロメオとロメリは無手で襲い掛かって来る。
ミシュレイは水竜で防御しながら、胸の痛みを堪えていた。
(この子たちに襲われるのは……ボクの罪)




