4 ディードvsクィード
僕は後ずさりながら、構えをとる。そこにディードは棒による鋭い突きを連続で放ってきた。
「小旋気」
両手に気流渦をつくり、最小限の動きで棒の突きを逸らす。
攻める側は意気込み過ぎる場合、突っ込み過ぎて自分の姿勢を崩す。
柔術ではそこを捉え、崩し、投げるのだが、このディードにはその崩れがない。
――かなりの武技の使い手だ。
「私の突きを見切り、最小限の動きでかわすとは……やはり君が、最も使える者だと見たが?」
「僕なんか、まだ全然、ヒヨっこです。そんな事より、もう戦いをやめましょう!」
「君のような相手と出くわして……止められるわけがない!」
ディードは棒を地面に突き立てると、それを後ろに押し出すようにして飛び蹴りを放ってきた。
かなりの速さだ!
「ハッ!」
「大旋気!」
僕は両手で大きな気流渦をつくり、飛び蹴りを放ってきたディードを渦に巻き込んで投げをうつ。
が、ディードはくるりと身を翻すと、墜ちることなく地面に降り立った。
「この蹴りまで見切り、投げるとは――面白い!」
ディードは棒を持って、ブンブンと振り回すと、またピタリ、と構えた。
「ならば私も遠慮なく行かせてもらおう。巻き起これ――竜気嵐!」
ディードが棒を掲げると、僕とディードを囲うように風が渦を作りだす。
それはあっという間に僕とディードを囲む竜巻となった。
「ハッ!」
ディードが跳躍する――と、ディードは自らその竜巻の中に入っていった。
「なに!?」
ディードの姿が竜巻に巻かれて見えなくなる。と、後ろから気配がした。
「ハァッ!」
「ムッ――」
避けようと思うが間に合わない! 僕は背中を思い切り打たれて、全身に種撃が走った。
前によろける。と、今度は前方の竜巻の中から、気流に弾かれるようにディードが出てくる。今度は水月に突きを喰らった。
「ぐぅ……なんて速さだ――」
「どうだ、私の竜気嵐地獄陣は! 今までに、これを破った者はいない!」
そう言い終わった瞬間、右横からディードの棒が飛んでくる。
したたかに脇腹を打たれた。
「グアアァァッ!」
吹っ飛んだ先も竜巻の気流だ。それが弾くように、僕を竜巻の中央に戻す。
「う……」
「まだまだ!」
戻った先に踏みとどまったところで、突如、現れたディードが側頭部を狙って打ってくる。とっさに僕は気流渦を作って弾こうとしたが、棒の威力を殺しきれない。
「ガアァッ!」
かざした掌ごと側頭部を打たれ、僕はよろめいた。
頭に――生ぬるさを感じる。ポトリ、と地面に血が滴った。
「く……強い――」
この竜巻地獄を破れない限り、勝利はない。
しかし次期風龍王の生み出した竜巻だ――相当の強度の嵐である。
「竜巻を壊すには……」
「私の竜気嵐を破壊するなど不可能! 君は大した武人だったが、所詮は人間。竜である私の竜気に敵うはずもない。残念だよ、クィード・ロラン!」
……いや、まだ僕は武技を全て出し切ってはいない。
「ハアァァァァァ――」
内燃気渦。僕は気流剛術の技で、全身に気流の力をみなぎらせる。
「今さら、無駄なあがきか!」
飛ぶようにディードが正面から棒を振り落として来る。
僕は内燃気渦によって、腕を硬化させた。
「気渦硬!」
棒を受け切る――と同時に、その前腕を滑らせて、ディードの懐に踏み込んだ。
「砕花崩閃破ッ!」
「なに!?」
僕は縦拳をディードの胸に撃ち込む。
ディードが吹っ飛び、竜巻の中に消えた。
「むぅ……まだそんな力を残していたとは――。大した打撃だ、私が飛竜でなければ、まず倒れただろう。しかし、私はまだ倒れぬ!」
竜巻の中にいるディードの姿が見えない。
今度は警戒して攻撃してくるに違いない。今のように、反撃をできるかどうか判らない。やはり、この竜巻が邪魔だ――
「――ならば!」
僕は竜巻へ飛び込むと同時に、『牙の鎧』に声をあげた。
「喰らえ! 牙の鎧!」
牙の鎧が、上下に長い牙を伸ばし口を開ける。
その大口で、牙の鎧は竜巻のエネルギー事態を吸収し始めた。
「なにぃっっ!? 私の竜気嵐を――吸収するだと!?」
「この鎧は光龍王の龍王核! あなたの力を吸収することもできるはずだ!」
そう声をあげる僕に呼応するように、牙の鎧は竜巻を吸収していく。
そしてその吸収したエネルギーを――僕の気力に変えた。
「ハアァァァァァ……」
気力が満ちてくる。そして僕は、さらに竜気も高めた。
「なに!? ――お前は……竜なのか?」
「いや――僕は、プリシアから竜核授与されたんだ。この力は……竜と人間の絆の証!」
僕がそう言い終わるとともに、竜巻が完全に晴れた。
そこには眼鏡の奥の眼を驚きに開くディードの姿があった。
「バカな……お前自身が、人と竜をつなぐ存在だと――」
「そうだ、ディード。そして……戦いはもう終わりだ!」
僕は全ての気力を内燃化し、爆発的な加速でディードに突っ込む。
迎撃しようとする僕に振り下ろされる棒を、僕は回し蹴りで迎え撃つ。
ディードの棒が――手から離れ空を舞った。
「なにぃっ!?」
「双拳轟砕弾!」
僕は両拳を合わせて踏み込みと同時に、ディードの胸に撃ち込む。
最大級の破壊力を持つ剛術の技に、ディードの身体がぐにゃり、と凹んだ。
「ぐぅ……あ――」
眼鏡が落ちる――と思った瞬間、ディードの身体が吹っ飛び地面に転がった。
地面に倒れたディードも――さすがにもう動かなかった。
「ふぅ……」
僕は息をついて、自分のダメージを治癒し始めた。
△ △ △ △ △ △ △ △
プリシアは、竜の美女ウィリアと槍の戦いを繰り広げていた。
「やるじゃないか! お嬢様みたいな見た目に騙されるところだったよ!」
ウィリアは薄笑いを浮かべながら、槍を連続で突き出してくる。
プリシアはそれを、竜光槍で捌いていた。
「わたしはクィードと一緒に――武技の訓練を受けましたから!」
「クィード? あの人間の男かい」
ウィリアは槍の真ん中を持って自らも回転すると、その流れで槍を叩きつけるように上から振り下ろした。
プリシアがそれを頭上に横にした竜光槍で受ける。
ウィリアがにやりと笑って言った。
「あんた――あの人間の男に惚れてんのかい?」
「……そうですわ。わたしは彼に――龍王になってほしいと思ってます」
そう言いきったプリシアの言葉を聴いて、ウィリアは眼を見開いた。
「なんだって!? 人間を龍王に? 本気か!?」
「ええ。わたしは至って本気ですわ」
プリシアはそう言うと、にっこりと笑った。




