2 風龍王の一族
建物から出てきた兵士たちが、弓矢を一斉に上空に放つ。
飛来していって矢が飛竜に当たった。――が、飛竜に刺さったものはない。
「愚かな人間よ……お前たちに問う。我らの仲間の隠れ里を襲ったのは、お前たちか?」
天空から低い、落ち着いた声が響いて来た。
竜が喋る――ということを知ってる僕らはまったく驚かなかったが、兵士たちは驚愕の声をあげた。
「りゅ……竜が喋ったぞ!」
「知能が高い生き物なのか!?」
驚く兵士たちをよそに、プリシアが不満げな声を出した。
「なんだか、ひどい言われようですわ」
「まあまあ、プリシア怒らないで」
僕は苦笑しながら兵士たちを見る。
隊長らしき男が、困惑した顔で空に向かって怒鳴った。
「隠れ里を襲ったのは――我々じゃない!」
「しかし……お前たちは竜討伐戦団――竜を殺すために作られた組織なのだろう? 今までに竜の一族を手にかけたか?」
低い声は、まだ問いを続ける。
隊長らしき男は、冷や汗を浮かべながら声をあげた。
「お……オレたちは結局、竜を見つけきれなかった。だから、一匹の竜も殺してない! 本当だ!」
飛竜たちは輪になってまだ上空を舞っていたが、不意に地上に降下してきた。
その巨体が、次々と地面に降り立つ。
体高6mはある巨体で、その大きさはほぼプリシアの竜化した姿と同じ大きさだった。
しかし全身が白く、金色のたてがみを持つプリシアと違い、この飛竜たちは全身は緑色で、たてがみは黒――レーナを大きくした感じだった。
「しかしお前たちは、竜を殺すための組織だな。何故、何もせぬ竜を討伐する組織を作ったりしたのか――お前たちを作った人間に問いたい。お前たちの命令者に会わせろ」
その五体の中で最も雄姿を持つ飛竜が、隊長の男に向かって話しかけた。
隊長は困惑して、声を洩らす。
「会わせろって言われても……竜を連れてなど――」
「竜の姿では無理だと申すのか? ならば――」
不意に飛竜の身体が光る。と、その光の大きさが縮んでいく。
まったく、プリシアが変身する時と同じだ。
その光のサイズが人間の大きさになると、話していた飛竜はすらりとした男性の姿になった。
緑の髪を短めにして、落ち着いた感じの男性だ。どういうわけか――眼鏡をかけている。
「この姿ならどうだ? 私を命令者のところを連れて行くのに、問題はあるまい」
「若、人間と話すつもりですかい? まったく、奇特なことだ」
一体の飛竜がそう声を洩らすと、続けて光を放って人間の姿になる。
それはかなり屈強な体格の男の姿だった。
「人間と話すなど無駄な事――捉えて、口を割らせれば済む話です」
もう一体の飛竜も光り輝いて人間になる。そちらは――美女になった。
緑の髪を長く伸ばし、切れ長の眼を鋭く兵士たちに向けている。
「あれ、みんな人間態になる感じ? じゃあ、ボクたちも」
そう言うと、残りの二体の飛竜たちは頷きあって、人間の姿になる。
その姿は緑の髪を持つ少年と少女だった。
「どうだ? これで話しやすくなったであろう。我々を、お前たちの命令者のところへ連れて行くがいい」
眼鏡の元竜が、そう隊長に言った。しかし隊長も兵士たちも、それどころではない。
「りゅ……竜が――人間に化けた――」
「竜は……人間に混ざってるかもってことか!?」
兵士たちは、ほとんどパニック寸前の動揺ぶりになっている。
それを抑えるように、隊長が声をあげた。
「全員、落ち着け! ……悪いが、お前たちを上層部に合せたりなどできぬ相談だ。我々は誇りある竜討伐戦団! お前たちをここで討伐する。総員、一斉掃射!」
隊長は片腕を上げると、兵士たちに弓を射るように命令してしまった。
「くっ――なんてバカなことを!」
僕は思わず声を洩らす。
四方八方から射かけられる弓矢の中にいて、竜たちは驚く様子もない。
「だから言ったのだ、話し合いなど無用と」
「どうやら、連中はやる気らしいぜ」
美女と屈強な男が、そう声を洩らす。眼鏡の男が、ため息をついた。
「どうやら想像以上に……人間は愚かな生き物であった」
眼鏡の男が片手を上げる。と、元竜たちの周囲に竜巻が巻きおこる。
その竜巻の旋風で、射かけられたやは全て弾き飛ばされた。
「アタシはもうやらせてもらうよ」
「オレもだ!」
竜巻の中から、美女が飛び出してくる。その手には長い槍を持っていた。
と、思う間もなく美女はその槍の真ん中を持って頭上に掲げる。
「オオオォォォッッ!!」
美女は自らも回転して、頭上の槍を急速に回転させながら兵士たちに迫った。
そして兵士たちの傍に来ると、頭上の槍を端の方で持ち、長く使う。
急激な遠心力の乗った槍が、三、四人にまとめてその柄で叩きつけられた。
「旋風槍!」
「「「グワァァッッ!」」」
凄まじい攻撃に、四人の兵士が悲鳴をあげながら吹っ飛ぶ。
周りの兵士たちが、反撃をしようと剣を抜いて美女にかかろうとした。
しかし油断なく美女は、その槍をまだ遠い間合いから突き出す。
「突風槍!」
美女が槍を突き出すと、巻き起こった突風に兵士たちが吹っ飛ばされた。
「ウワアァァッ!」
屈強な男がそれに続く。男は巨大な斧を手にしていて、真っすぐに隊長を目指していた。
屈強な男が、高く跳躍して斧をふりかざす。
「爆嵐撃!」
男は、斧を隊長目がけて振り下ろす。
隊長は剣を抜いて、気力を高めて受けた。
「む……ぐあぁっ!!」
凄まじい爆風が起きるとともに、受け切れなかった隊長の身体が吹っ飛ぶ。
いや、今の一撃を堪えただけでも、あの隊長がそれなりにやる人物だというのは判った。
――が、竜気の乗ったあの一撃は、相当の威力で到底耐えられるものではない。
けど、僕はそれを見て隣のプリシアに言った。
「プリシア……あの隊長は異魔人じゃないらしい。普通の人だ」
「どうやらそうですわね」
僕は事の成り行きで、異魔人が姿を現すかもと思い静観していた。
しかし竜討伐戦団の隊長全員が、異魔人ではないらしい事が判った。
「ぐ……各員、竜を攻撃せよ!」
「「「「おう!」」」」
兵士たちが剣と持って、暴れる二人に向かっていく。
しかし美女は槍を振り回して兵士を寄せ付けない。屈強な男は、巨大な斧を振って、兵士を吹っ飛ばしている。
「ボクたちも行った方がいいかなぁ?」
「いいんじゃない、別に。ウチたちは見てようよ」
元竜の人間態が、もう二人いる。その二人がそんな話を呑気にしてる。
二人は――明らかに少年と少女だが、顔がよく似てる。二人とも眼がくりっとした可愛い顔立ちだ。
「ラチがあかねえ! もう、やらしてもらうぜ。爆嵐撃!」
屈強な男が跳躍し、巨大な斧を振りかざす。けど――狙ってるのは、一般の兵士だ。
「ヒッ! ヒィィィ……」
兵士の怯えた眼で上空を見上げる。マズい、あの人じゃ、あの攻撃は防げない!
僕は思わず飛び出して、屈強な男を気流渦で巻き飛ばした。
「大旋気!」
「なぬっ!?」
屈強な男の身体が投げ飛ばされる。男は地面に背中から落ちると、顔を上げた。
「くそ! なんだってんだ!?」
「――ダムゥ……注意しなさい」
それまで事態を静観していた眼鏡の男が――僕を凝視していた。




