第三十三話 竜の胎動 1 飛竜、舞う
僕らはイーストリアにやってきた。
イーストリアは僕の郷里であり、この国の辺境には僕の住んでた村がある。
その村で僕は――プリシアと出逢ったんだ。
「――そういえばさあ、『異魔人』って、どんな奴なんだぞ?」
荷馬車の中で、ライラがそんな声をあげる。
僕は馭者をしながら、後ろに向かって声をあげた。
「実はさ……僕とプリシアは、それっぽいのに遭遇してるんだ」
「え!? そうなのか!」
驚いたのはミシュレイだ。
けど、プリシアも驚きの声をあげる。
「本当ですか、クィード? わたしたち、異魔人と遭遇しましたか?」
僕は手綱を操りながら苦笑した。
「多分、ね。僕の村で、『竜討伐戦団』とかいうのと戦ったでしょ?」
「ええ」
「あの時の隊長――ヘンな化物になったよね」
「あ!」
プリシアが、想い出した! というように、声を上げた。
「いました! そういえば」
「……化物、なのか?」
ミシュレイが真剣な声で訊いてくる。
僕は前を向いたまま、それに答えた。
「うん。顔はコウモリで、身体は人間状態。けど――三つ目だった。ちょっと、見たことない感じの化物だったね」
「そんな奴らなのかだぞ」
ライラが息をつきながら、声を出す。
「その異魔人は――普段は人間に化けてる、ということなのか?」
「うん、そうなんだ。その時は、その竜討伐戦団の隊長になっていた。戦ってる最中に正体を現して、僕がプリシアから竜核を授与されてなかったらやられてた」
僕の話に、プリシアが少し楽しそうに声をあげた。
「あの時が、わたしとクィードの絆の深まりでしたわ……。あの時の決断は間違ってなかったと――今でも思いますの」
僕は少し後ろを振り返って、プリシアに笑ってみせた。
と、考えながらミシュレイが言葉を紡ぐ。
「レディアスは滅竜攻団の上層部に異魔人がいると考えて探っている。……しかし滅竜攻団だけじゃなく、その竜討伐戦団にも異魔人は潜りこんでた――ということなんだな?」
「竜討伐戦団って、どういう組織なんだぞ?」
ライラの疑問に、僕は答えた。
「多分、それはイーストリア国の公式組織だ。イーストリアは国を挙げて、竜を討伐する――という方向に舵をきってた。……もしかしたら、国の政治を司ってる奴らの中に……異魔人がいるのかもね」
僕は少し考えて、そう口にした。
と、ミシュレイが続ける。
「もしかしたら……サウスリアにも中央に異魔人が入りこんでたのかもしれない。その連中が政治を仕切ってたから、父さんの訴えが全く聴かれることなく否定されて、逆に父さんが投獄されるはめになった」
ミシュレイは少し腹立たしそうにそう言った。
それを聞くと、ライラが口を開く。
「けど、だとするとだぞ。あちこちの政府の中に異魔人が混ざりこんでて、人間と竜が対立するように仕組んでる。――なんのために、そんなことするのかだぞ?」
確かにそうだ。人間と竜の間に溝を作って諍いをさせて――異魔人は何をしようとしてる?
僕はふと、ある可能性に気付いた。
「凄いぞ、ライラ。慧眼だ!」
「ケイガンって、何だぞ?」
「物事を見通す力があるって意味さ――そうだ、異魔人は目的があって、竜を滅ぼそうとしてる。多分……異魔人たちにとって、竜が邪魔な存在だからだ」
僕の言葉に、プリシアが反応した。
「それなら……どうして、自分たちで攻撃してこないんでしょう?」
「重要なのは多分、人間社会を自分たちに都合のいい形で支配することで、そのために人間に化ける技も心得てる。けど、竜と人間が協力すると、恐らく異魔人たちにとって、致命的な力になるんだ」
ミシュレイがそれを聞いて、声をあげた。
「その力とは――どういうものなんだろう?」
「それはまだ判らない。……それも光龍王に訊けば判るのかもしれないな」
「じゃあ、やはりお父様を探しに行くのが先決ですのね」
プリシアの言葉に、僕は頷いた。
と、馭者台から見てるイーストリアのヘレニードの街の様子があわただしい。
「次はこの地区に来るって話だ!」
「今のうちに、退避してた方がいい」
人々はそんな話をしながら、大きな荷物を持って往来を右往左往している。
「一体、どうしたっていうんだ?」
僕は荷馬車を停めて、街の人に声をかけた。
「すみません!? 一体、なんの騒ぎですか?」
「あぁ? 竜だよ、竜!」
声をかけられた男が、そう面倒くさそうに怒鳴る。
僕は首を傾げた。
「竜?」
「知らねえのか? ……旅行者か。あのな、メレニード、そしてセレニードと竜の群れが来て、街を攻撃していったんだ。次はこのヘレニードが襲われる――ってのが、その道の奴から聴いた話だよ」
僕は眉をひそめた。
「そんなことが……」
「お前たちも、この街を早く出るこったな」
男はそれだけ言うと、大荷物を抱えて足早に去っていった。
「竜が街を攻撃? ――例の、擬竜だろうか?」
「そう言えば……バルガスも、イーストリアに竜の群れが現れたと言っていた――。しかし……擬竜だとすると、群れというのは考えにくくないか?」
ミシュレイがそう口にする。僕も頷いた。
「そう思う。多分、その竜の群れは――あのレーナのいた隠れ里を襲われた、飛竜たちの仲間なんじゃないだろうか?」
僕がそう言うと、ミシュレイが顔を曇らせた。
「あの時の……ボクにも、その責任の一端がある……。なんとかして――飛竜たちに謝りたい」
ミシュレイは覚悟の決まった顔でそう言った。
「うん。飛竜たちが人間に復讐する気持ちも判るけど……今は、竜と人間が争っていていい事態じゃないなんだ。その対立が仕組まれたものであることを――竜たちに弁明したい」
僕も心からそう思って言った。
――その時だ。
「竜が出たぞおぉぉぉぉっっ!!」
大声があちこちで上がる。女性悲鳴が上がり、こちらに向かって街の人が駆けてくる。
「みんな! 竜たちを止めよう!」
「「「うん!」」」
僕たちは荷馬車を小路の影に置き、通りに出た。
すると上空を飛ぶ影が走る。
空を見上げた。
するとそこには、上空を旋回する緑の竜が数頭舞っていた。
「レーナと同じタイプの竜――飛竜だ!」
「風龍王の眷属ですわ」
プリシアがそう口にした。
と、上空を旋回していた飛竜たちが、一つの方向に降下していく。
「向こうだ、行こう!」
僕たちは駆け出した。
向かった先では、飛竜たちが上空を舞っている。
その数は――五体。
飛竜たちの舞う下には、建物がある。
「あれは――竜討伐戦団のこの街の拠点か」
やがて竜たちは翼をはためかせると、その翼から突風が巻き起こる。
発生した突風は、建物の瓦を飛ばし。ガラスを割った。
――と、建物からわらわらと兵隊たちが出てくる。
その兵隊たちは、弓矢を持っていた。
「各員! 一斉、掃射!」




