4 虜にしたつもりは――
服を脱ぎ始めた二人に、僕は少し驚いた。
「ちょ、ちょっとどうしたの、二人とも!?」
「実は……お酒を呑んでから、身体が疼いているんだ――」
ミシュレイが顔を赤らめてそう口にする。と同時に、脱いだブラウスが寝具に落ちる。
水色の下着姿のミシュレイを見ると、その左肩の滅竜の紋章が、紫色に色濃く光っていた。
「わたしもですわ、クィード……やっぱり戦闘で消耗したんでしょう」
プリシアは擬態を変えればいいはずなのに、やはり上着を脱ぐ。
と、プリシアが珍しく女性用下着を身に着けていた。プリシアは――白の下着だった。
「わたしも、ミシュレイを見習って下着にしてみましたの。どうです?」
「どうって……そんなこと――」
綺麗で――魅力的に決まってる。二人の下着姿の美女を前に、僕は酔いもあって眼が回ってきた。
が、よく見るとやはり、右脇腹の滅竜の紋章が色濃く光ってる。
「危険な状態だ。すぐに――治癒しないと」
「もう、クィードってば……真面目なんですから」
プリシアが含みをもったような微笑を浮かべた。
「じゃあ……お願いです、クィード」
プリシアがそう言って、寝具に横になる。
と、プリシアはミシュレイの手を引っ張って、自分の傍に座らせた。
「ミシュレイは……やっぱり可愛いですわ」
「君、実は酔ってるんじゃないのか? 顔に出ないだけだろう」
ミシュレイがそっと眼鏡を外して、脇に置いた。
下着姿の二人が僕を見上げる。僕は跪いて、二人に手をかざした。
「治癒」
「「あン……」」
二人が同時に、切なげな喘ぎ声を洩らした。
僕はふと気づく。
「プリシア、ライラを起こすといけないから、翼の盾をドームにして」
「判りましたわ」
プリシアが翼の盾をドームにして、僕らを包む。
これで音対策は大丈夫。――って、途中で、プリシアが維持できなくなったらどうしよう?
けどまあ、いいか。僕は構わず、二人に治癒を施した。
「あぁンッ!」
ミシュレイが、かん高い声をあげる。――声、頑張って抑えてたのかな?
僕は魔力を強めて、二人に治癒をかける。
「あっ……ああぁン――ンっ、あ…は――」
プリシアが長い脚を動かして身悶えする。
白い下着が新鮮で……思わず、どきりとする。
「あふぅ……くン――あ、あ、あぁ……」
ミシュレイが青い髪を乱して、どこか苦しそうに悶えている。
けど、その顔は赤くなっていて……恥ずかしさを抑えているようだ。
「そんなに……見つめないで――」
ミシュレイが、長い睫毛を向けて僕に囁く。
そのすぐ横で、プリシアが微笑む。
「やっぱりミシュレイって、可愛いですわ……」
「こんな時に……ズルいぞ――」
「こんな時って、どんな時ですの?」
プリシアがミシュレイの細い顎を、その長い指で自分の方に向ける。
ミシュレイは少し涙目で、息を乱している。
「あぅン、ふ――ンン、あっ、こんな時って……こんな――こんな……」
「気持ちよさに耐えきれないんですか? ミシュレイ……」
「き…君は……どうなんだ――」
プリシアが、凄くミシュレイに顔を寄せる。僕はもう、プリシアがミシュレイにキスをするんじゃないかと思ったくらいだ。
「わたしも……すごく…気持ちいいんですの――ね、クィード……」
不意に――プリシアが僕の手を引っ張る。
僕は思わず、二人の身体に覆い被さる形になった。
――二人の顔が、すぐ傍にある。
「わたしたちを、こんな風に虜にして……どうするつもりですの――?」
「ぼ……僕は虜にしたつもりは――」
すぐ傍で囁くプリシアの言葉に、僕は治癒を続けながら抗弁する。
けどプリシアは意味ありげに微笑んで、ミシュレイを見た。
「けど、ご覧なさい――ミシュレイはもう虜ですわ。……そうでしょ、ミシュレイ?」
「ボ……ボクは――そんな……あぁンッ――」
感極まったように、ミシュレイが喘ぎ声をあげる。
「フフ……やっぱり可愛い――ミシュレイってば。あ……あぁン――クィード……わたしはもう、あなたの虜ですのよ――あっ……」
そう囁いたプリシアが、僕に抱きついてくる。
当惑する僕に、さらにミシュレイも腕をからめてきた。
「あ、あぁン……もう、ボクは……」
「わたしも……あ、ああっ、うン――」
二人の柔らかな肌を直に感じながら治癒の光を放ち続けると――二人は一際高い声で喘いで、そのまま力なく横たわった。
荒い息を吐く二人の間で、僕はその晩を過ごした。
翌朝、旅立ちの挨拶に行こうとすると、既にジャック・ドゥルーズは小屋から消えていた。
「先生は……先に旅立ってしまったようだな」
ミシュレイがそう口にする。
「あ~っ、あたし、ちゃんとお礼も言ってなかったんだぞ! 黙って旅立つなんて、水臭いんだぞ!」
ライラはプリプリ怒りながら、そんなことを言った。
と、僕はふと思った。
「多分、そうやって改まって感謝されたりするのを避けたくて、先に行っちゃったんだろうね」
「なんとなく……先生らしいですわ」
プリシアはそう言って微笑んだ。先生の小屋はがらんとしている。
そのテーブルの上に、メモとともに一冊の本があった。
手に取ると、それは『気流躰術大全』と記された手製の本である。
驚いてメモを見ると、それはこんな文字が書かれていた。
『クィードへ
修行はまだ中途の段階 その先の道のりは、この書に記してある
お前はその道のさらに先を目指せ 』
「先生……」
僕はじんわりと胸のなかに熱いものが込み上げてきて、書物を胸に抱くと、ジャックがいたその小屋に礼をした。
「先生――ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
僕に続いて三人も感謝の意を述べた。
そうして僕らは、ジャックの小屋を後にする。
そして支度を整えると、僕はみんなに言った。
「それじゃあ、僕らも行こうか」
「あたしたちの小屋とのお別れ……ちょっと切ないんだぞ」
僕らはこの数日過ごした、僕らが初めて作った小さな小屋を眺めた。
一部屋しかない小さな小屋で、僕らはずっと一緒に過ごしてきたのだ。
「そうだな――修行の日々は……なかなか充実していた」
ミシュレイが、懐かしむように微笑む。
と、プリシアは言った。
「じゃあ、将来、みんなで暮らせばいんですわ。そうすれば楽しくなりますわ」
そう言ってプリシアはにっこりと笑う。
それは――どういう……
「うん、悪くないんだぞ!」
「ライラ……君、意味が判って言ってるのか?」
「意味ってなんだぞ?」
ミシュレイがふと、僕を見る。と、少し赤くなって、横を向いた。
「判らなければいい。――もう、行こう」
「そうだね。みんな、出発しよう!」
僕の声で、ライラがオーッと元気よく声をあげる。
そして僕らは、ジャックの小屋を後にして下山した。
目指すのは精霊島。そこに最も近いのは――郷里であるイーストリアだ。




